涙色の街
勇気くんが住んでいるのは虹色の街。
今日はお母さんに頼まれて隣町の涙色の街までお使いです。
お使いメモには、『三人のヨーグルトを一つと、涙色のジャムを一つ買ってきてね』と書かれています。
勇気くんは早速、お気に入りのリュックを背負って歩き出しました。虹色の街では雨が降ることはありません。出発の朝、見上げた空には虹がたくさんかかっていました。
しばらくすると目の前にはキラキラと光る門が見えてきました。
涙色の街です。
勇気くんはきれいだなぁと思いました。そして、門の前にちょこんと座っていた淡い緑色をした鳥さんに挨拶をします。
「おはようございます。虹色の街から来た勇気です。」
すると淡い緑色をした鳥さんはきれいな声をして鳴きました。
同時に目の前の門が開きます。
勇気くんは鳥さんにお礼を言い、涙色の街へと入っていきました。
そこは全て青色で覆い尽くされた不思議な街でした。空からはキラキラと光る雨粒が降ってきましたが、体は濡れませんでした。キラキラした雨粒が勇気くんを包むと、少しさみしい気持ちになりました。
メモを見ながら、まずは『三人のヨーグルト』を買いに行きます。
看板があったので、お店はすぐに見つかりました。中に入ると双子の女の子がいました。冷蔵庫の中からヨーグルトを一つ取ってレジに持っていくと女の子は言いました。
「あなたは三人目?」
勇気くんは突然のことでよく分からず、咄嗟に「はい」と答えてしまいました。
女の子は優しく微笑み、
「それじゃあ、おまけをあげるね」と言いました。
女の子は下半身の一部が機械みたいになっていました。もう一人の女の子は片腕が機械みたいになっていました。
「ありがとう」
そう言ってお店を出たあと、勇気くんは胸の奥がきゅうっとなって哀しくなりました。
涙色のジャムのお店はなかなか見つかりませんでした。何人かに訪ねてやっと見つけたそのお店は土の中にありました。
土の中に入る梯子が見当たらなかったので、勇気くんはエイッと飛び降りました。
「いらっしゃい」
目の前には青色のワンピースを着たおばあさんが立っています。おばあさんは勇気くんを見ると、優しく微笑んで椅子を差し出しました。
「遠いところからわざわざ来てくれたね」
「おばあさんは僕がこの街の子じゃないって分かるの?」
「ああ、わかるよ」
「どうして?」
「三人目の子だからさ」
おばあさんは棚からジャムの空き瓶を持ってきて、勇気くんを椅子に座らせたあと隣に腰掛けました。
おばあさんは空き瓶を勇気くんに手渡すと勇気くんの頭をそっと撫でて、こう言いました。
「瓶の中が見えるかな?」
勇気くんは気づくと目にいっぱいの涙をため、その涙はいつの間にかポロポロと溢れてしまっていました。
瓶の中に溜まっていく涙はキラキラと光り、きれいな音楽を奏でます。
「まだ虹色の街で暮らすのは早かったみたいだね」
おばあさんは瓶に蓋をすると、勇気くんをギュッと抱きしめてあげました。
「大丈夫。お母さんには必ず会えるから」
勇気くんは声に出しながら泣きました。涙はキラキラとして、あたりを明るく照らします。
完成した涙色のジャムは透明で甘い香りがしました。勇気くんはそれをリュックに入れ、おばあさんにお礼を言います。
「ありがとう、おばあさん。またさみしくなったら遊びに来てもいい?」
「ああ、いつでもおいで」
勇気くんは外に出てキラキラした門の前にいた淡い緑色をした鳥さんにも挨拶をして、虹色の街へ帰って行きました。
そこにお母さんはいないけど、いつかきっと会えると信じたら、少しだけ力が湧いてきたみたいです。
見上げると空にはたくさんの虹がかかっていました。
おしまい。
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