見出し画像

Lisbon in 2018 #1

リスボンに越してきて3ヶ月ほど経ったある日、お隣さんになったミズ・チコーネが醤油を借りにやってきた。
ドアの向こうにヴァージンのように佇む彼女。
ようこそ、ミズ・チコーネ。私は恭しく招き入れる。「なんとなく今日はそんな気がしてたんです。」私は言う。
「ミズ・チコーネ、私は9歳の時からこの日を待っていました。」

チコーネが恥ずかしそうに差し出した空の小さな醤油差しを横に置いて、私は一升瓶入りの醤油を持って行くように言う。
「遠慮は無用、ここには大西洋のマグロ全てを一瞬で漬けにできるくらいの醤油があるんですから。」もちろんこう付け加えずにはいられない。
「ガガには内緒ですよ」

私は今朝ピンポンダッシュしてきたドアベルのコレクションを見せようとと思いつく。
それはざっと1ダースばかりのドアベルボタンの山で、ピンポンからダッシュまでの間にドライバーで抜き取ってきた、謂わば戦利品だ。
いい考えだ。彼女に見せて好みのボタンはあるか聞いてみよう。もし彼女か望むなら、明日のピンポンダッシュに誘ってみるのもいい。さあ、と言って、私はチコーネの手を取り奥の部屋へと誘う。
「このままで帰すわけにはいきませんよ」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?