見出し画像

『THE GREAT GREEN WALL』(2019)

先日、『THE GREAT GREEN WALL』を観てきた。
気候変動問題が多くメディアでも取り沙汰されるようになった今、環境問題にダイレクトに関心があるひとだけでなく、ドキュメンタリー好きや社会派テーマに関心がある人にも、間口広めに見れる映画だと思う。

鑑賞後の感想としては、観てしまった以上、もう後戻りはできないような、遠い国の問題のようで意外と身近な問題なのではないかと感じさせた。
気候変動のみならず、紛争や移民など複雑化した重い内容であることを実感せざるを得ない一方、アフロサウンドの壮大で力強い曲調が良い意味でライトに映画を楽しませてくれる点ではやはり音楽の力は偉大だ。

この映画は、気候変動によってアフリカ大陸に拡大している砂漠化問題を阻止するために発信するインナ・モジャさんという一人の歌手/環境活動家を追ったドキュメンタリーだ。
サハラ砂漠の拡大によって引き起こされている様々な問題に、彼女の音楽の旅を通じてこの大規模プロジェクトの存在、そして人々の「未来を信じる力」や「希望」こそがこのプロジェクトの成功と、その先の"アフリカン・ドリーム"の実現の鍵になることを教えてくれる。

グレート・グリーン・ウォールトとは

2007年にアフリカ連合によって発効されたアフリカ大陸を長さ8,000km、幅15kmにわたりを横断する大規模植林プロジェクトのことだ。植林によって2030年までに、土地の回復、CO2の吸収、1,000万の雇用を生み出すことを目標とし、最終的には貧困・食糧危機・生態系の回復・コミュニティ形成の実現を目指すと壮大な計画だ。

ただ、いま現在も続くこのプロジェクトは16年経ったいま達成率は18%。(映画中に出てくる5%は初回公開2019年時点の数字で、UNDPの2023/1/23時点の記事によれば18%となっていた)
この4年間の進歩を見ると素晴らしいが、残り7年とタイムリミットが迫っている中あまり高い進捗率とはいえない。それには砂漠化によって引き起こされる様々な問題があった。

プロジェクトが進まない他の理由

生きるため(食べていくため)の水がなくなったことで資源を奪い合いのために引き起こされる紛争、水がなくなり、農業で稼ぐことが困難になり、家族のために命がけで他国へ仕事を求めに移動する間で命を落とす人、生きるために過激思想に傾倒せざるを得なくなった人、そして児童結婚等々…。
生きなければ、希望ある未来を作ることもできない。なのに彼らの前にはこうした問題が立ち憚っているのだ。

家族のために稼ぎに出たものの途中の国で足止めになり、唯一の大黒柱である自分が家族に合わせる顔がないと、帰る居場所すらなくなってしまった男性が「ただ生まれたのがこの場所だった。」という言葉が強烈だった。

衣食住が全て安全に確保できる環境にいる人にとっては、目の前の環境がどのようにして作られているかは日常的に考えることはまずない。
しかし、彼らにとっては目の前にある自然とは生きるための全てであり、日々生きるか死ぬかの選択を迫られている。

本来、生きるどうかは個人の選択肢であるはずで、生きる選択肢を勝手に剥奪されるべきではない。そして生きるということは、生命をつなぐための土地、水、食糧でもあり、対話なく勝手に奪いとることはできないはずだ。

気候変動に限定した問題ではない

「すべてつながっている。」とモジャさんは言う。
地質的な問題と社会的な問題が複雑に絡み合っているのは、決して遠いアフリカで起きている問題だけではない。ウクライナ情勢も切り離して考えることができず、同じ惑星に住む人類の問題として問題提起している映画だと思った。

子供たちに豊かな環境で育ってほしいからこそ、未来の地球を守るために植林プロジェクトを通じて気候変動と戦っている人がいる一方で、その地球をまた人間の手によって破壊されようとして、豊かな地球を育むスピードを遅らせているという矛盾が発生している。

こうした矛盾は、遠い国で起きている問題として考えるべきでなく、テクノロジーが発達して世界をリアルタイムで知ることができるようになったからこそ、同じ惑星に住む人類の問題として自分ごととして捉えるべきだとこの映画からメッセージを受け取った気がする。

いいなと思ったら応援しよう!