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ハンター・バイデンまた起訴 今度は脱税でピンチ? 起訴状を分析してみた

バイデン大統領の息子、ハンター・バイデンが7日、脱税や虚偽申告など連邦税に絡む9つの罪で起訴されました。9月に銃不当所持について3つの罪で起訴されたのに続き、2度目です。

来年の大統領選の最中に裁判となる可能性もあり、父親の選挙戦に影を落とすのではと懸念されていますが、父親の対戦相手になるであろうお方は4度に渡り計91の罪で起訴されているので、それに比べたらまだまだひよっ子というところでしょうか(違)。

ハンターの今回の起訴について、大まかな内容は、「2016〜2019年の所得税を期日までに支払わなかった(軽罪6つ)」、そして「2018年の確定申告で娯楽などの個人的な出費を不正に仕事の経費として計上した(重罪3つ)」、というもので、4年間で計140万ドルの所得税の納税を怠ったと指摘されています。

7日のニュースは軒並みトップ扱いでしたが、各メディア右派左派関係なく「個人の出費を経費に」の部分に焦点を当ててセンセーショナルに取り上げていました。こんな具合です。

起訴状では『被告はドラッグ、コールガールやガールフレンド、高級ホテルや賃貸物件、派手な車、服飾品など個人的な出費、要するに、税金以外のすべてに金を使った』としている

NBCニュースより

起訴状は56ページに及び、罪状9つの割にはまあまあの大作です。(ちなみにトランプ氏の機密文書所持に関する起訴状は37の罪に対し60ページ)その中には、事実であれば正当化するのは厳しそうな内容もけっこうありますが、本来それほど大騒ぎするほどのことではないのに、印象操作で「最低男」のイメージを植え付けようとするきらいも見受けられました。

そんなわけで今回は、その起訴状を独自分析したいと思います。

下院共和党との“連携プレー” 翌週にはバイデン氏の弾劾調査決議案の採決も

このタイミングでの起訴は、翌週に議会下院でバイデン大統領の弾劾調査を正式承認する採決が行われること、さらに13日は下院監視委員会もによるハンター本人の召喚予定日(実際この日になる可能性は低そうですが)であることを踏まえた“連携プレー”であることは間違いないでしょう。

起訴状にはハンターの収入源として、ウクライナのエネルギー会社「ブリスマ」、ルーマニアの不動産王ガブリエル・ポポビチウ(G.P.として記載)、中国の政府系エネルギー会社「CEFC」が含まれ、それぞれ何年にいくら支払われたかが明記されています。特にCEFCとの取引に関しては、複数の関連会社やハンターのビジネスパートナーを経由していたりという複雑なカネの流れも細かく追っています。起訴状はあくまでハンターが「国民の義務としての納税を怠った」という点に特化したもので、収入源そのものの正当性には触れていません。ですが、ハンターの外国との取引は下院監視委員会による調査の肝でもあるので、やはりここは足並みを揃えたと言えそうです。

では、ここからは罪状についてです。

「期日までに支払わなかった」軽罪6つ

軽罪6つにカウントされているのは、「所得税を期日までに納めなかった」という罪で、これが2016年から2019年までの各年で罪状1ずつ。これに加え、総所得が200万ドルを超えた2017年と2018年には収入源と控除項目を詳細に記した申告書が必要になるので、これも提出しなかったことで1ずつプラスされ、計6つ、という計算です。

起訴状では、税理士が「そろそろ納めないと大変だよ」とメールしたり、離婚した元妻が「私も確定申告書に署名が必要でしょ」とテキストしたりと、ハンターに再三リマインドしたことが書かれています。この証拠で検察側は、「うっかりではなく故意に納税しなかった」ことを強調しています。

【分析】〜「期日逃しちゃった」はよくあること

2016年〜2019年といえば、兄のボーが亡くなって、ハンターが坂を転げ落ちるように薬物とアルコールに溺れていった時期。銃を買ったこともラップトップを修理に出したことも覚えていないくらいですから、リマインドされたところでとても税務管理のような面倒くさいことを処理できる精神状態ではなかったことは、容易に想像できます。また起訴状によると、ハンターが毎年依頼していた税理士が2019年6月に亡くなっているので、その関係で処理が滞った可能性もありそうです。

確定申告の期日に間に合わなかったり、何ならそのまま放置されてしまうことはそれほど珍しいことではありません。その場合、追徴課税でいずれ払わないといけないものがどんどん膨らんでいき自分で自分の首をしめるというだけで、刑事事件化することは稀です。

専門家がワシントン・ポストに語ったところによると、「平均的なアメリカ市民(納税者)が脱税で起訴される確率は宝くじに当たるようなもの」で、「多くの人は不正申告をしたところで監査も入らないし捕まりもしないし、まして起訴などされない」とのこと。但し「一度起訴されたら、まず有罪になる」そうで、その場合も脱税への刑罰そのものより「脱税するとこうなるぞ」という見せしめの意味合いが強いので、必然的に注目度の高い人物がターゲットになることがほとんどだそうです。

ハンターの場合、2020年には遅れながらも納税しているので今になって事件化するのはますます不可解で、ハンターの代理人弁護士アビー・ロウェル氏もその点を指摘し「彼の姓がバイデンでなければこんなことで起訴しないはず」と主張しています。裁判になってもこの軽罪6つは無罪になる可能性は高そうですが、おそらく検察もこちらは重要視しておらず、むしろそのあとの重罪にフォーカスを当てているのではないでしょうか。

「コールガールに1万ドル」を経費に 重罪3つ

では重罪3つについて。いずれも2018年分の確定申告について、「個人的な出費を仕事の経費として計上することで、税金逃れを図った」という脱税の罪で1つ。残りの2つですが、不正に経費を計上した確定申告書をハンター・バイデン個人としてIRS・内国歳入庁に提出し「連邦当局を欺いた」虚偽申告罪で1つ。もう一つは、これをハンターが管理する法人「オワスコ」名義で提出した虚偽申告罪1つで、合わせて3つです。

起訴状では「脱税」の罪に関する具体的な説明部分だけで56ページ中17ページを占め、計上された項目と金額を懇切丁寧に羅列しています。もちろん、検察としては不正な申告をして税率を下げたことの罪を問うのが目的なわけですが、どちらかというと「こんなに浪費するお金があったのに、納税の義務を差し置いて自分の趣味に走った」という“最低人格アピール”がポイントのようです。

しかも、項目は「人聞きの悪い」内容がかなり多いです。内訳を、比較的怪しげなものを中心に抜粋してみました。

  • ロサンゼルスの高級ホテル「シャトー・マーモント」の滞在費 4万3,693ドル(他にも数千〜1万ドル単位のホテル代多数あり)

  • 当時のガールフレンドのAirbnb代 7,215ドル

  • ストリップクラブのダンサーにVenmo(送金アプリ)経由で1,500ドル

  • 2日間共に過ごしたコールガールに1万1,500ドル

  • ワシントンDCのストリップクラブ「M Street Management」に3,947ドル

  • オンラインポルノ代に計2万7,316ドル

  • 「Rag & Bone」で自分とガールフレンドのアパレル用品代 計3,941ドル

  • ランボルギーニレンタル代 3,852ドル

  • 自分の会社「オワスコ」の従業員と偽り交際相手などに「賃金」として貢いだ金額 計8万6000ドル(うち2万2500ドルは、ハンターが自分の子を妊娠させちゃったストリッパー、ルンデン・ロバーツさん宛て)

  • “従業員”宛てに送金した1万8000ドルのうち1万ドルを「ゴルフ会員費内金」と銘打っていたが、実際はセックスクラブの会費

このほか、上記ほどいかがわしくはありませんが、飛行機を含めた交通費や個人の生命保険のほか、長女ナオミ(起訴状では「娘の一人」となっていますが、起訴状にある「コロンビア大学ロースクール」に通っていた娘はナオミだけ)の学費3万ドル、塾費用計5,762ドル50セント、ニューヨークのアパート代1万9535ドル、などというのもあります。

それでもまだまだごく一部で、正当に経費と認められるものも含め、申請総額は4年間で490万ドルだそうです。ちなみに大まかな内訳で一番多かったのは現金引き出し約166万ドル。こちらの使途は非常に曖昧なので、裁判になったら相当ツッコまれそうな気がします。

起訴内容が事実で、すべてハンターの税金逃れ目的の行為だとしたら、賃金と偽って女性に貢いだとか、セックスクラブの会費をゴルフ会員費と偽るなどは極めて悪質です。ただ、今はあくまで起訴段階で、裁判で有罪となったわけではありません。ハンターはビジネスで交渉にも携わっているので、まかり間違って例えば「ストリップクラブは接待費、オンラインポルノはリサーチ代」などと、正当な経費として裁判で認められる可能性はゼロではありません(かなり無理がありますが)。薬物やアルコールのせいで判断力がなかったと認められるかもしれません。

どう判断が下るかは今後の展開を待つとして、私が気になったのは、法的な文書の割にはちょっと印象操作が過ぎるという点です。

メディアも共犯?「道楽息子」のイメージづくり

今回の脱税の件、起訴したのは、今年9月に司法長官からハンター問題の特別検察官に任命されたデビッド・ワイス氏(共和党)。起訴判断をしたのはカリフォルニア州の連邦大陪審です。陪審を構成するのは法律の専門知識が限られた一般市民なので、陪審が検察側の主張を吟味する際には事実に加え「印象」が鍵を握ります。今回のようにセックスクラブだのストリッパーだのという単語をふんだんに使われると、どうしても被告が悪いという印象が先行してしまうでしょう。

例えばこれが、2015年以前の確定申告の話で、仮に同年亡くなったボーの医療費をハンターが払っていて(実際、少なくとも一部はハンターが払っていたようです)、「脱税」に使った項目が風俗ではなく医療費だったらどうでしょうか。「兄の高額な医療費を経費として計上し、税金逃れをした」「兄の高額な医療費を払えるだけのお金があったのに、納税の義務を差し置いて、兄の命を救うことに走った」というロジックだったら、大陪審が満を持して「被告が悪い」という方向には行きにくそうです。そもそも検察も別のロジックで攻めるでしょう。

今回ここまでハンターの浪費のディテールを起訴状に載せたのは、大陪審の印象構築に加え、メディアがセンセーショナルに取り上げることを見越した側面もあると思います。FOXニュースなどの保守系メディアはもちろんNBC、ABCなどリベラル系メディアも「コールガール」「ポルノ」などの内訳を強調して伝えていました(CBSは比較的いかがわしさ抑えめで作っていた印象でしたが)。

起訴状にも(名前は明かされず)登場していたハンターの長女ナオミ・バイデンは、今回の起訴発表後、自身のXアカウントトップにピン止めしていた投稿をリポストしました。内容は、父ハンターという人について。

「彼の名前は世界に知られているけれど、誰も彼が何者かを知らない」という書き出しで始まる投稿は13スレッドに及び、そこには、スポットライトが当たる人生を、父ハンターが決して望んではいなかったこと、ロースクールの期末試験の最中に自分が生まれ、試験直後に病院の自分の元に駆けつけたこと、就職後は自分だけでなく兄ボーの学生ローンの返済まで肩代わりして兄を支えたことなどが綴られ、そんな父を「愛と誠実さ、そして人間の苦悩に満ちた男性」と評しています。

また、起訴翌日、ハンターの個人的な友人というミュージシャンMobyは自身のポッドキャストチャンネル「Moby Pod」を更新。偶然か計画的か、ハンター・バイデンをゲストに迎えた回のPart1でした。その導入部分、Mobyはハンターについて「今世の中で一番議論を引き起こす人物」と称し、こう語っています。

薬物依存からのリカバリープログラムでハンターと知り合って数年。いつも僕を混乱させるのが、右派に限らずすべてのメディアが伝える彼と、僕が知っている彼とのギャップだ。

12月8日付「Moby Pod」

私個人も、当然ハンターに会ったことはありませんが、同じような見解です。きっと実際に会ったら、「ちょっと抜けてるとこあるけど、気のいいいいヤツ」なんだろうな、と。ただ、その「抜けてる」が行き過ぎて、法的に犯罪と呼ばれる一線を超えてしまっているところが、私はあると思います。

裁判になるのか、司法取引になるのかはわかりませんが、あくまで正当に判断され、正当な形で払うツケがあるなら払う方向に行ってくれればなと願っています。

<おまけ>
起訴状に載っている“経費”のうち、「ロサンゼルス到着から、ポルシェを購入するまでにレンタルしていたランボルギーニ代…」というのがあります。ポルシェはともかく、一時的に仮の車がトヨタとか日産とかじゃなくランボルギーニかい・・・、というのが、なんともハンターらしくて好きです。

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