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もはや対マフィア戦 ジョージア州検察が挑んだ「チーム・トランプ」の“罪” その破壊力は【アメリカニュース考察】

14日夜、2020年大統領選の選挙結果をめぐる不正行為で、ジョージア州フルトン郡検察がトランプ前大統領ら19人を起訴しました。州の議員や選挙管理当局者等への脅迫、書類等の偽造、虚偽証言、当局者を偽装など罪状の数は計41で、うち13がトランプの罪を直接問うものです。

主に適用されたのは、組織犯罪を取り締まるジョージア州RICO法。フルトン郡検察のファニ・ウィリス地区検事が会見で「全員をまとめて裁判にかける」と説明していることからも、被告をトランプ個人よりも犯罪集団として捉えていることが伺えます。

トランプをめぐっては、

①ポルノ女優への口止め料支払いに伴う事業記録改ざん(NY州)
②大統領時代の機密文書の不正な持ち出し(連邦)
③大統領選での敗北を認めず米連邦議会の選挙結果承認手続きを妨害(連邦)
④バイデン氏が勝利したジョージア州の投票結果を覆そうと、当局者に圧力をかけた問題(ジョージア州)

の主に4事件で捜査が進められ、今回をもって4つ全てが起訴に持ち込まれた形です。

特に④のジョージア州の件は、おそらく一番破壊力が強いと私が最も注目していたものです。理由は、他の3つに比べて④には明確な被害者がいるからです。とりわけトランプ自ら、ジョージア州の選挙管理当局者の一人であるラッフェンスパーガー州務長官に「(自分に投じられた)1万1780票を見つけろ」と電話で迫った音声は動かぬ証拠としてこの2年余り繰り返し報じられています。(③もペンス副大統領という特定の被害者がいますが、立場上トランプのとばっちりを受けることも覚悟すべき地位にいたはずなので、少し事情が違うでしょう)

NY州の捜査に検察官として携わったマーク・ポメランツ氏も著者で書いてましたが、検察が起訴に踏み込む(=裁判で勝てる見通しがある)要素の一つに「明確な被害者がいること」があるのだそうです。

フルトン郡検察はこのほど、98ページに渡る起訴状を公開しました。私はまだ被告らの手口に関する概要を記した序文までしか読んでいませんが、ここまででも今回の起訴の特徴がかなり浮かびあがっています。

1、RICO法適用の背景

RICO法違反に関する記述は、起訴状の実に3分の2を占めています。「Racketeer Influenced and Corrupt Organizations Act=威力脅迫および腐敗組織に関する法」などと訳されているようですが、要するに、個人的・突発的な犯罪に対し、共通の(不当な)目的のために組織的かつ計画的に行われた犯罪を取り締まるものです。マフィアのような組織犯罪を摘発するのによく使われる法律、と巷では言われています。

ちなみにRICO法はもともと連邦法として1970年に制定されたのが始まりです。マフィアの下っ端実行犯ばかりが網にかかり、黒幕のドンにたどり着けないということで、自ら手を下さないドンをも法で裁くための手段として作られました。これをきっかけに各州でRICO法が設けられ、今回の「ジョージア州RICO法」は1980年制定だそうです。

連邦のRICO法とジョージア州RICO法、中身はほぼ似たようなものですが、連邦法では犯罪行為が長期的スパンで行われたことを前提にしているのに対し、ジョージアのRICO法はこれがなく、たとえ数週間の犯罪であっても罪に問えるという特徴があります。実際、被告の中にはトランプの敗北を覆すために雇われた人材もいるので、今回の起訴はジョージア州にしかできない方法で勝負に挑んだと言えると思います。

さて、今回被告として名前が上がったのは19人。ルディ・ジュリアーニ元NY市長やマーク・メドウズ元大統領首席補佐官、バイデン氏への政権移行(移行する気はさらさらない)期からトランプ陣営に加わった弁護士のジョン・イーストマンやシドニー・パウエルと言った、メディアにしばしば登場するお馴染みの面々も含まれています。

ただ、これらはあくまで起訴に至った人物で、起訴状では“罪に問うには至らなかったけど共謀した人物”「Individual 1〜30」という匿名の30人の存在も書かれています。おそらく犯罪と呼ぶにギリギリ及ばないか、証拠不十分かで起訴されなかったのでしょうが、この30人は陪審員には身元が明かされているので、特定はできています。さらには陪審員にも身元が明かされていないマイナーな役割を担った複数の人物(others)もいたことが、起訴状には示されています。

トータルで少なくとも50人が共謀してジョージア州はトランプの勝ちだったということにしようと画策したわけで、確かにこうなるとそこそこ規模の大きい組織犯罪です。

トランプのフィクサーと呼ばれた元個人弁護士で、2018年に寝返ったマイケル・コーエン氏も、まさに「トランプ・オーガニゼーション」をマフィアになぞらえ、トランプをマフィアのボスさながらに崇めていた頃の自分を自身の著者「DISLOYAL」で振り返っています。何十年も前から組織ぐるみで事実の改ざんや脅迫、脱税などを画策してビジネスを回していたことは、トランプにまつわる様々な資料からも明白ですが、トランプ・オーガニゼーションにしてもトランプ政権にしても、不思議と絶えず仲間が集まります。

マイケル・コーエンのような腹心ですら寝返るように、長続きはしなかったりするのですが、それでもなお、トランプの忠臣は必ず代わりが現れて同じことが繰り返されます。周知の事実としてヤバいやつ認定されているトランプの元に、なぜ起訴される危険を冒してまで一定の人材が集まるのか。コーエンが自著で言うには、どうもトランプや彼が象徴するものは野心のある人間にとって抗い難い魅力があるようです。

今回のジョージア州の起訴内容は、トランプ個人だけではなくトランプの周囲の人間、さらには起訴されるたびになぜか支持率が上がる「トランプ現象」に対して丸ごと喧嘩を売る、かなり思い切った内容と言えるように思います。

2、州をまたぐ犯罪行為を、州の権限で罪に問えるのか

一方で、被告側が間違いなくつついてくると思われるのは、他州での犯罪行為をジョージア州の検察が罪に問えるのかという点です。

起訴状には、被告らがジョージア州以外にアリゾナ、ミシガン、ネバダ、ニューメキシコ、ペンシルベニア、コロンビア自治区(DC)でも似たような犯罪行為を行ったと言及しています。例えば、「(被告らを含む)組織関係者は、ジョージア州の投票結果を却下させるため、州の公職者らに対し『選挙に不正があった』と虚偽の証言を行った。組織関係者らはアリゾナ、ミシガン、ペンシルベニアの各州議会議員に対しても同様に虚偽の証言を行った」とあります。

アメリカでは州の検察が捜査できるのはあくまで州内の犯罪です。州をまたぐ場合は原則連邦政府の管轄になり、そのためにFBIがあり米司法省があります。

ウィリス検事本人も会見でこの点に言及し、「起訴状にはジョージア州外で行われた違法行為も含まれているが、その理由は、それらがジョージア州の選挙結果を覆す試みにつながるものだからだ」と説明しました。

ただこの理屈が裁判でどこまで通用するかは未知数です。合理性はもとより、陪審員裁判なので世間から反対が出ようと陪審員たちを説得さえればいいわけですが、この点は裁判の焦点になりそうです。

ちなみに被告の一人、マーク・メドウズは「全部大統領補佐官だった頃の話なんだから、連邦案件だろ」と主張。裁判をフルトン郡ではなくジョージア州北部連邦地裁の管轄区で行うよう申し入れました。

陪審員もその管轄区から地区の人口比率を反映するように選ばれることになっているので、管轄区が変われば陪審員選びの範囲も変わります。実は今回起訴に持ち込んだフルトン郡は、反トランプ派がほとんどのリベラル派地盤。対する連邦地裁の管轄区は保守派人口も一定数いるので、陪審員の人材としては多少なりとも被告側に有利になります。このため専門家は、トランプもメドウズ同様、連邦の管轄で裁判するよう申し立てるだろうと予想しているようです。

と、起訴状の序文から読み取った情報と考察はこんなところです。

これから一通り目を通すつもりなので、新しい発見が有ればフォローアップを書いていきたいと思います。

<おまけ>今回起訴されたトランプ以外の有名人

ルディ・ジュリアーニ 
元ニューヨーク市長。弁護士。2018年に寝返った元腹心のマイケル・コーエンに代わり、トランプのフィクサーに。ウクライナ疑惑でも暗躍。1980年代にニューヨーク州検察の検事だった頃、RICO法を適用して数々のマフィア絡みの犯罪を摘発し一時代を築いた過去があり、40年後にその張本人が同じ法律に足をすくわれたことは「パーフェクトな皮肉」と受け止められている。

マーク・メドウズ
トランプ政権終盤、2020年3月〜2021年1月20日まで大統領首席補佐官を務めた。2013年〜2020年まで連邦下院議員(ノースカロライナ州選出)。下院で共和党の保守強硬派派閥「フリーダムコーカス」を立ち上げ、一時リーダーも務める。フリーダムコーカスの創設メンバーには2024年大統領選に出馬している現フロリダ州知事のロン・デサンティス、トランプ政権の元大統領首席補佐官、ミック・マルバニーなどがいる。

ジョン・イーストマン
2020年12月、選挙結果を覆そうと画策を始めたトランプ氏の政権移行(移行する気のない)チームに加わった弁護士。選挙結果承認手続きの妨害に直接携わる。限りなく収賄に近い行為が問題視されているクラランス・トーマス連邦最高裁判事のアシスタントだったこともあるなど、「なんとなく疑わしい人物」の周辺にいることが多い。

シドニー・パウエル
トランプ政権移行(移行する気のない)期にチームに加わった弁護士。陰謀論者。投票機に仕掛けがあったと陰謀論を唱え、投票機メーカーのドミニオン社などから名誉毀損で提訴された。

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