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ダグ・バーガム 泡沫候補のリベンジなるか?〜米大統領選2024 立候補者ファイル①

***update:討論会当日の朝、このブログを上げて4時間後、ダグ・バーガム氏がスタッフとバスケ中に怪我をして参加も危ぶまれているとのニュースが飛び込んできましたが、結局参加するとの情報が入りました!これも何かの縁と思って討論での検討をお祈りしています!!

アメリカ大統領選、共和党の第1回討論会がいよいよ今夜、23日に開催されます。現在支持率ダントツトップのドナルド・トランプ前大統領は参加しないそうで、「国民は私が何者か十分知っているし、支持率もダントツだ。討論会に出る意味がないので私は出ない」と自前のSNS「トゥルース・ソーシャル」に投稿しました。代わりに討論会主催者であるFOXニュースを4月付けでクビになったジャーナリスト、タッカー・カールソンとのロングインタビューを討論の時間帯にぶつけてX(旧ツイッター)で配信するそうです。

そんなわけでエンタメ性が一味も二味も抜けてしまった討論会ですが、参加が確定した候補は支持率が高い順に以下の8人です。
*カッコ内は(肩書き・年齢・21日付けの支持率)。支持率はFive Thirty Eightより

ロン・デサンティス(フロリダ州知事・44・15.2%)
ビベック・ラマスワミ(起業家・38・9.3%)
マイク・ペンス(前副大統領・64・4.7%)
ニッキー・ヘイリー(元国連大使/元サウスカロライナ州知事・51・3.5%)
クリス・クリスティー(元ニュージャージー州知事・60・3.5%)
ティム・スコット(連邦上院議員・57・3.4%)
エイサ・ハッチンソン(前アーカンソー州知事・72・0.7%)
ダグ・バーガム(ノースダコタ州知事・67・0.4%)

この中ではデサンティスがやはり頭一つ抜けていて、ごく最近ラマスワミが若干追い上げているといった感じです。でもフタを開けるまではどう転ぶか分からないのがアメリカの大統領選。2016年は最初の段階でトランプが指名候補になるとは(まともな人なら)誰も思っていませんでした。

討論会は、あまり知られていない候補者がアピールする絶好の機会。ライバル候補を論破すれば少なくとも一時的には支持率が上がり、あわよくばライジングスターにのし上がれます。現在のハリス副大統領がまさにそうですが、討論で善戦した候補が副大統領や閣僚に抜擢されることもあります。当選の見通しに関わらず経過をフォローしておけば、将来アメリカ政界群像劇の中核を担う人物を早期に見出すことができるかもしれません(それに意義を感じるかどうかは、個人の判断に委ねます。。。)

と言うことで、ここでは泡沫候補から人気候補まで、話題性やタイミング関係なくランダムにプロファイルしてみようと思います。

今回フィーチャーするのは、ダグ・バーガム候補です。

ダグ・バーガムって誰?

現職のノースダコタ州知事ですが、立候補者のうち1位2位を争う知名度の低さが特徴(?)です。世論調査では全米の9割が「ほとんど知らない」と回答したとのこと。これを逆手に取り、自身の陣営ウェブサイトでは「Doug, Who?」と書かれたT-Shitsを販売する自虐ネタを展開しています。

実は今回の討論会の参加条件の一つに、献金者が4万人以上いること、かつ最低でも20州に200人以上の献金者がいること、というのがあります。これをクリアするためにバーガム陣営が取った手段が、「自分に1ドルを献金してくれれば20ドルのギフトカードをあげますよ」という全国キャンペーン。献金すれば19ドル儲かるわけで、効果は上々。開始から7週間後の7月半ばに目標数を達成しました。まさに手段を選ばず結果が全てという戦法ですが、さて、共和党の指名争いではどう戦うのでしょうか?

来歴

1956年8月ノースダコタ州生まれ。ノースダコタ州立大学を卒業後、スタンフォード大ビジネススクールへ進みMBAを取得。マッキンゼー・カンパニー勤務後、実家の農場を担保に地元ノースダコタ州のソフトウェア企業「Great Planes」に投資。1984年に社長に就任し、2001年に従業員2200人の企業として11億ドルでマイクロソフトに売却するまでに成長させた。マイクロソフトで7年務めたのち、地元ノースダコタ州で投資会社などの起業を経て、2016年に同州知事に当選し政界へ進出。同年12月より現職の知事を務める。主な功績は減税法案の成立や、クリーンエネルギー推進法案の成立。州知事として、中絶禁止法、未成年のジェンダー・アファーミング・ケア(後述)禁止法、公立校での批判的人種理論 (こちらも後述)の教育の禁止法などにも署名している。

政策の特徴①:“超レッド・ステート”の中道的リーダー

ここからは、彼の政策を中心に大統領選での立ち位置を見ていきます。

ノースダコタ州と言えばアメリカでも安定した共和党保守派の地盤ですが、政策を見ているとバーガム氏は明らかに穏健・中道派です。基本的には「州のことは州が決めるべき。連邦や他の州が口出すべきではない」というスタンス。ノースダコタは保守派でいくけど、ニューヨークやカリフォルニアはどうぞ思う存分リベラルな政策を堪能してください、という考え方のようです。

これが顕著なのが、上述した中絶禁止法などの考え方。バーガム氏はノースダコタ州の中絶禁止法には署名していますが、「もし大統領になった場合、国レベルの中絶禁止法には署名しない」と明言しています。また、ノースダコタの中絶禁止法は最も厳しいテキサスやオクラホマなどと違い、レイプや近親相姦による望まない妊娠の場合は例外として中絶を認めているので、女性側の人権に対してもある程度配慮がされた形の法律です。

未成年のジェンダー・アファーミング・ケア禁止法をめぐる姿勢も、極端な保守強硬派とは一線を画しています。この法律は、未成年のトランスジェンダーの子にホルモン治療や性転換手術の相談などといったケアを受けさせないというもの。LGBTQ論争で最近リベラルvs保守の対立構造が明確になっているトピックで、「判断力が未熟な子供の時に早まってホルモン補充治療を受けて、後から間違っていたと思っても取り返しがつかない」というのが、保守派の考え方です。バーガム氏もこの法律に署名はしているのですが、ノースダコタ州では、親の同意がある場合などは例外を認めるという余白を残しています。

批判的人種理論(Critical Race Theory/CRT)は、フロリダ州でデサンティス知事が強硬姿勢で禁止に乗り出したことで一躍注目を浴びましたが、かいつまんで言うと、「過去の奴隷制度のような差別行為が現在の基盤になっている、だから白人は過去の過ちを顧みる必要がある」というコンセプトです。(注:本来のCRTの定義とは異なるかもしれませんが、ここではあくまで一般的な受け止め方として説明しています)これにデサンティス氏は、「過去は過去、今は今。現代人には昔の人がやったことの責任はない。歴史はニュートラルに教えろ」と主張し、CRTを州の教育カリキュラムから排除したり、図書館にCRT色の強い本を置くのを禁止する、いわゆる“ブック・バン”に乗り出したり、という政策を取っています。

バーガム氏も2021年にCRT教育の禁止法には署名していて、「歴史をニュートラルに教えるべき」という立ち位置は一緒です。一方で、ブック・バンに関する法案は、州議会で成立したにも関わらず拒否権を発動しています。「図書館にCRT寄りの本を置いたからといって罰せられるのは、それはそれで人権侵害」という立ち位置のようです。

このように、基本的には右寄りではあるけれども、エキストリームにはならずに、権利と権利がぶつかり合う場合には押し付けることはしない、というのがバーガム氏のスタンス。デサンティス氏のような、若干ゴリ押しで強いメッセージを発することでリーダーシップを発揮する保守強硬姿勢とは真逆と言えそうです。

政策の特徴②:ビジネス経験を活かした政治の取り組み

田舎の小さな会社をマイクロソフトに11億ドルで売却する規模に成長させただけあって、バーガム氏はやはり生粋のビジネスマン。今回の大統領選でもその点を強みとして掲げ、ビジネス的視点をもって政治にあたれば、かなりのコストカットが実現できる、と語っています。

特にユニークな視点が発揮されているのが、気候変動への取り組みです。基本的に共和党保守派は気候変動対策よりも経済や雇用の維持・改善が優先で、脱炭素を目指したサステナブルな燃料への移行には消極的です。

一方、バーガム氏は気候変動対策そのものには非常に積極的で、バーガム氏率いるノースダコタ州は2030年までに完全なカーボンニュートラルを目指すという、アグレッシブな目標を掲げています。ただその方法として、リベラル派が主に推進する電気自動車や再生可能エネルギーの普及で必要な燃料をまかなうのではなく、「石炭・石油燃料の制限は一切すること無く、カーボンキャプチャー技術で二酸化炭素排出量を削減する」と打ち出しています。

バーガム氏が言うカーボンキャプチャーは、地中の砂岩層に排出された二酸化炭素を埋め込み貯蔵するというもので、すでに技術開発に取り組んでいるとのことです。このカーボンキャプチャー、米エネルギー大手のエクソンモービルも同様に注目する技術で、海底に二酸化炭素を貯蔵する技術への投資プロジェクトを発表しています。

ちなみに、カーボンキャプチャーが二酸化炭素排出量削減に本当に有効なのかは若干未知数なところがあるので、今のところは実現性はともかく「従来の石油石炭産業を破滅させずに気候変動対策にも真剣に向き合う」という姿勢を明確にするという意味合いでとらえておくべきかと思います。ただ少なくとも計画としては、カーボンキャプチャー技術開発のためにまた雇用が生まれるでしょうし、炭鉱業者も仕事を守ることができ、同時に再生可能エネルギーはそれはそれで開発していけば経済に悪い影響はない、ということで、それなりに討論で戦うだけの目玉材料にはなりそうです。

余談ですが、近い将来再生可能エネルギーだけで従来の石油燃料の代わりにしようというのは非現実的と考えるビジネスパーソンは少なくないようで、イーロン・マスクなんかも「暫定的に」という前置き付きで、原発の利用を推進していたりします。

おまけ:ちょっと気になったこと

共和党はトランプ氏が4年政権の舵取りをしたことで、かなり軌道修正が必要になっています。その点でバーガム氏のような、民主党からも一定の理解を得られそうな穏健派は良い人材な気がしますが、ちょっと気になったのは、FOXニュースのインタビューで語った自己紹介が、ウォール・ストリート・ジャーナルの7月のインタビューとほぼほぼ同じ言い回しと内容だったこと。これも無駄に頭を使わないというビジネス的戦略かもしれませんが、大統領に立候補するなら場所と相手で若干のアレンジを加えてあげてほしいなと感じました。。。

バーガム氏が今夜の討論会でどう戦うかですが、共和党の中道的立場ですので、攻撃相手としてはやはり対局にいる強硬派のデサンティス氏だと思います。ただ支持率の最も高いデサンティス氏は確実に全員から総攻撃に合うはずなので、“Doug Who?”バーガム氏が果たしてどれほど活躍の場をもぎ取れるのか、見ておきたいと思います。

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