苫小牧

 苫小牧に行けない夢を見た。
 夢の中でわたしは車の助手席に座っていて、運転しているのは母親だった。道中道に迷い、帯広の工場か何かに入ってしまい正しい道を探すという夢だった。
 GoogleMapで何度もとまこまい、と入力するのだが、どうしてもうまく入力できず、何度も打ち直して、音声入力にするのだが結局そちらもうまく聞き取ってくれない、という夢だった気がする。

 苫小牧には、二度行ったことがある。一度目は、帯広から函館までミュージカルを観に行ったときに、苫小牧を通り過ぎたはずだ。『にっかり青江単騎出陣』が全国を回っているときで、一番最初に函館でミュージカルが始まった日だった。
 苫小牧の第一印象は、蒸気機関の街だった。もちろん各所の工場から上り立つ煙は蒸気機関のものではないのだが、なんだかそんなふうに見えた。
 二度目の苫小牧は、大学生活を過ごした帯広から、実家のある神奈川まで引っ越すときだった。
 わたしは大学時代に免許を取得し、車も持っていたので、車と一緒に実家に向かうべく、苫小牧のフェリー乗り場に向かっていた。せっかく北海道の西側に来たことだし、牧場でも見ていこうかと思っていたが、フェリーの出港まであまり時間がなく、観光は諦めた。
 フェリーの予約を確認して、チケットをもらった後、大きなガラス張りのラウンジか何かで時間を潰した気がする。その頃わたしは鬱が酷くて、あまり記憶は残っていないのだが、そこで何か食べたような、食べていないような、そんな感覚が残っている。
 ラウンジは空港のラウンジによく似ていた。見える物がコンクリートの滑走路か、海かという違いだけだ。海は青々というよりは灰色に近くて、夜になるといっそう黒々と夜に染まった。
 そうかからないうちに、乗船時間になって、車をフェリーに乗せる。引っ越しの時捨て忘れた生ゴミが一つだけあって、それが随分臭かったのを覚えている。

 フェリーの夜は良かった。海は真っ暗でよく見えなかったし、わたしはスーパーで買ったおにぎりを食べてすぐ寝てしまったから、長い時間海を見ていたわけではないけれども、不思議と大きなホテルでゆっくり過ごすような安心感があった。
 翌朝には朝食を摂った。よく晴れていて、デッキには出なかったが恐らく寒い日だっただろう。海はきらきらと輝いていて、わたしの将来はどこまでも希望に満ちていた。これから推しの近くで暮らすのだと思うと、胸が躍った。推しができてからの3年間、わたしはずっと大学のために北海道に縛られていたからだ。

 そんなわけで、苫小牧を思うと強くフェリーの記憶が蘇ってくる。もう一度フェリーに乗りたいな、と思う。前回よりも大きな部屋で、せっかくだから友達と旅行にでも行きたい。ゴールデンカムイの聖地巡りなんかをしてもいいかもしれない。

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