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書評「患者をエンパワーする 慢性疾患セルフマネジメントの手引き」

慢性疾患をもった患者さんが,幸せに生きることを支えていくための本

本書は米国では患者向けのベストセラー書籍であるとのことである。本書を読むと,慢性疾患をもちながら,自分が最高の状態でいられるようにする「セルフマネジメント」のスキルは,こんなに多種多様なものがあるのかと驚かされる。
 例えば,我々が生活習慣病の患者さんを診療するときに,よく病気や薬の説明に加えて「運動を毎日定期的にしましょう」「(栄養指導を入れつつ)健康的な食生活にしましょう」と伝える。本書を読むと,エクササイズには持久力,柔軟性,筋力,バランスの4つのタイプと,さらに筋肉の凝りやバランスの悪さを解決するためのものまでがあることがわかる。健康的な食事についても,ガイドラインをふまえ,まずマルチに使えるスキルを紹介している。それが無味無臭な栄養素と摂取量の話で終わらず,食事の楽しみ方やマインドルフルな食事についてもふれられている。
 本書を読みながら外来診療をすれば,「あの患者さんには次回これを提案してみよう」といったヒントが得られ,コミュニケーションの幅が広がるのではないだろうか。一冊すべてを読む必要はない。たくさんのスキルがワークブックとして紹介されている。座右におき,身につけたいスキル,興味ある項目から読み始めればよいのは使いやすい。
 また,本書はそもそも「患者の視点」で書かれた本である。つまり,慢性疾患とどう付き合うか,慢性疾患を抱えながら,自分のやりたいことを実現し,人生の喜びを得るには自分自身がどうすればよいのかが書かれている。そのため,医療従事者とのコミュニケーション方法,自分の感情との上手な付き合い方,働くことや生活すること,セックスと親密さなど,「医療者の視点」ではなかなか目にしなかったスキルについても記述されている。例えば,「先生は私のことを全然わかってくれない」ではなく,変えられるのは自分のコミュニケーションであり,わかってもらえるような伝え方を伝授してくれる。医者がこれをかかりつけの患者さんに説明するのはちょっと滑稽であるが,住民説明会などで集団に向けて伝授すると効果的かもしれない。
 本書は,慢性疾患をもった患者さんが,幸せに生きることを支えていきたいと願うすべての医療従事者に向けたものである。患者さんには慢性疾患を抱えた医療従事者自身も含まれるだろう。いずれは,米国で使われているように,患者さん自らがこの本を手にとり,治療を受ける「受け身」の存在ではなく,自らマネジメントし,慢性疾患を抱えながらも幸せな生活を送る術を身につけることが望ましい。その第一歩として,皆さんが慢性疾患をもつ患者さんと接するときに,本書を使って患者さんをエンパワーしてみてほしい。
(五十野 博基:HITO病院 総合診療科)

患者をエンパワーする 慢性疾患セルフマネジメントの手引き
著:Kate Lorig
監訳:孫 大輔

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MEDSi
5,940円(本体5,400円+税10%)
B5変/416頁
ISBN978-4-8157-3040-6

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