『フレームワークで考える内科診断』書評
評者:國松淳和 (南多摩病院総合内科・膠原病内科 部長)
思考には「個性/くせ」がある。こう言えば大体皆同意するであろうが,私はこのことについてさらに踏み込んで考えていたことがかつて・・・いや割といつもこのことを意識している。人の見かけは一人一人全然違うし,着ているものも様々。性格も人によっていろいろだよねと言われたらやはりこれにも首肯するだろう。ただ,(考えそのものではなく)考えかたに個性があるとまでは,日常生活レベルでは意識されない。
さて『フレームワークで考える内科診断』である。最初に言うと,この本は稀代の快著である。私は卒前教育に関わったことが一度もないが,「内科診断学」という臨床系の横断的な講座があったとして,その講座におけるメインの教科書になる本だと思う。その理由について,以下に述べていく。
まずこの本は,単なる症候学の本ではない。いわゆる鑑別疾患集であるとか,鑑別診断の本でもない。この点は非常に重要である。内科診断では,解剖学と生理学の知識が極めて大事だが,本書では各単元の最初に「解剖と生理」の知識の確認に関する内容が入り込んでいる。知識をビルドする際にはterminologyが必要だが,これについても押さえられるような仕掛けがある(しかも臨床に即応する内容)。
次に,いよいよ症候や問題点ごとに病態を区分けしていく「フレームワーク」の部分だが,その視認性が良い。通読する際に,なんというか,目で追いやすいのである。これは実際の本を見て欲しいが,大きい紙面にゆったり整理・記述されており,実に学習しやすい(書き込みなどもしやすい)。「この病気は知らないぞ」という項目については,すぐ先を読めば簡単に,必要最低限の説明の記述に辿り着き,ストレスがない。自分で調べる手間が省ける。卒前教育に良いと言いつつ,忙しい臨床医にもfitすると思った。項目の網羅性も魅力の1つである。
この本が,「知識集」のような性質ではないのになぜこんなわかりやすく,ストレスなく学習できるかといえば,やはり解剖学と生理学の説明を端折っていないからだろう。いや厳密には,これのおかげで臨床的な事柄を有機的に収納できるのだと思った。
臨床医をしていると,学生時代の解剖学や生理学の授業をもっとちゃんと受ければよかったと嘆く場面が必ずある。その意味で,医学生がこの本を見ても,すぐには「おお!」と心に刺さらないかもしれない。が,この本は必ず将来役に立つ。教科書というのは「抽象的かつ標準的」な内容を学ぶのに向いており,この本で「内容が足りない」と感じる人は,具体思考をする人,あるいは本を読むことの目的を「個別的な問題を解決すること」とし過ぎている人かもしれない。抽象的な知識は,すぐではなく,いつか役立つようにできている。
私個人は,解剖の図説があるところを全部通読し,用語説明や生理学的な事柄の記述の部分を選んで全部通読する,という使い方をするつもりである。白状すると,書名だけで「内科症候学の本なんだな」と早合点してしまった。もしそうなら,さっさと後輩や研修医に寄付してしまおうと思っていたが,申し訳ないことにしばらく私自身で所有することになりそうだ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?