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B2Bマーケティングにおいて、「コンテンツ」が必要な本質的な理由 〜 B2Bコンテンツ・マーケティングを深いところで考える。

現在、第8期を開催中の『デジタル時代のB2Bマーケティング講座』やコンサル・顧問先で、「B2B企業にとってなぜコンテンツが有効・必要なのか」という話をすることがある。

“コンテンツ・マーケティング”というと、えてしてSEO対策だの、サイト集客だの、リードナーチャリングだの、そういうデジタル領域のプロモーショナルな視点でTIPSめいたものが説かれるものだ。その理由は、コンテンツマーケティングというものを、「デジタルマーケティング」の文脈からしか説明ができていないからだ。

しかしながら、「なぜB2Bマーケティングにおいてコンテンツが重要なのか?」ということについて、B2B取引やB2Bマーケティングの観点から本質的な説明がなされているものには出会うことがない。

そういった背景もあり、『デジタル時代のB2Bマーケティング講座』などで、「なぜ」の部分を説明する機会を設けるようにしている。TIPSめいた話は他でいくらでもあるゆえ。

さて、私が説明している「B2Bマーケティングにおいて、コンテンツが有効・必要な本質的な理由」というのは、4つの点で構成されている。それを以下にダイジェストで説明をしたい。

(1)B2Bマーケティングにおいてコンテンツは、お客さんの興味関心やライフステージを把握するために利用する。

数あるB2Bマーケティングのうちの「セールス・マーケティング」の領域においては、営業に対してクロージング率の髙いリード/オポチュニティを提供するという役割がある。これを実現するためには、お客さんの興味関心の方向性やその度合、ライフステージ、カスタマージャーニー上のどのあたりにいるかといったことが「推測」できるようにしなければならない。

例えばあるコンテンツを作ったときに、そのコンテンツを見たお客さんというのは、どういった興味関心を持っていると考えられるか? どういったライフステージにいると考えられるか? そういったことが把握できないコンテンツを量産するのは、B2Bマーケティングにおいてまったくもって価値がないと考えた方がいい。

(2)企業としての信頼を得るために作る。

さて、(1)のようなお客さんを理解するためのコンテンツ以外は、B2Bにとってマーケティング的な価値はない、というお話をしたが、一つだけ例外がある。それは、企業としての「信頼」を得るためのコンテンツというものだ。ここでいう「信頼」とは、取引先として付き合いたいと思ってもらえる存在になりえるかどうかを指す。

企業間取引において、取引先を決定するときの重要な要素はの一つは「信頼」である。その会社と付き合うことで自社の課題がどのように解決できるか、自社の期待に答えてくれるか。その会社はどういったケイパビリティを持つか、どういった人々が働いており、どういったプロフェッショナルな仕事がなされているのかといった、“知名度”だけではない、企業としての「信頼」というのは、とりわけ複数の取引先候補から絞る段階( choice reduction )や決定段階で重視される。

そのため、自社が持っているナレッジやスキル、知識など、専門家として記述されたコンテンツを公開するためにオウンドメディアなどを活用するようにする。このコンテンツは相対的には、(1)のコンテンツのように直接的に営業貢献するものではない。しかし、B2Bマーケティングを単なる「セールス・マーケティング」としてだけ考えるのではなく、「プロダクト・マーケティング」や「バーチカル・マーケティング」のような、自社の商品の活用の提案や特定業種に対する活用法を提示するようのと同じように、「リード獲得」以外のマーケティング活動なのである。

(3)B2B取引の「無形性」への対応。

B2B取引の「無形性」というのは、B2Bの商品開発、マーケティングなどのあらゆるところに関係してくる本質的なものだと私は考えている。

「無形性」、形のないもの、というと、B2B取引においても最終的に納品物があるわけだから「有形」じゃないか、というツッコミもあるだろう。しかしこう考えてみて欲しい。一般的なB2Cの取引の場合、お金と商品が即座に交換され、客側にその商品が手に入る。しかし、多くの場合、B2Bの取引においては、お客さんが手に入れるものは契約してからある程度時間が経ってからしか納品されない。ものによって何週間・何ヶ月か経って、品物が納品されるということも普通にある。

店頭にならんでいる商品を手に取り、そしてそれをそのままレジに持って行って購入する。つまり自分が買うものの実物を事前確認できる機会というのは、B2B商材の場合はなかなか難しい(そのためサンプルなどが提供されたりする)。

もちろん、こうした「財の無形性」・「無形財」に関する取引はB2Bだけに限らない。B2Cにおいてもサービス産業などは“形のあるもの”を提供しているわけではなく、常に無形な何かを提供しているわけだが、さて、モノ(有形物)が手に入るわけでないにも関わらず、なぜ、何らかの便益や価値が提供されるものとして、人々は無形なものに対して対価を払うことを“約束”できるのだろうか? このことについてわかりやすいのでB2C領域で説明をしよう。

たとえば美容室や理容室に行くとする。そこで手に入れるのは“髪の毛を切ってもらう・整えてもらう”という「サービス」という無形財である。実際に料金を払うのは髪を切ってもらったあとになるが、しかしながら店に入り、席に座った瞬間に、すでに「料金を払う」ことは決定している。なぜ、得られるものと“交換”をしていないのに対価を払うことを決定できるのか?

「約束・宣誓 promises」という概念がある。無形財における便益の提供者は、事前にその受益者に対して、「何を提供するのか?」を提示し、それを「約束・宣誓 promises」し、それを基準にして受益者たる客は対価を払うことを事前に決めて、その便益を受取る行為に参加するのである。

もう一つの例を出そう。例えばパッケージ旅行を契約するとして、その旅行代金はいつ支払うか? そう、これは旅行の前に支払う。まだ便益を受け取っていないにも関わらず・・・。なぜそうした支払いが可能なのか? 何によって購入が可能となっているのか? これも、売り手側が提示する「約束・宣誓 promises」によってである。

旅行の場合であれば事前に旅程や旅先の風景が描かれたパンフレットが存在する。そのパンフレットこそが、こうこうこういう旅を提供しますよ、という「約束・宣誓 promises」そのものなのだ。

しかし、そのパンフレットという紙の物体は、客が対価として手に入れるものそのものではない。こういう、無形財において実際に手に入れるものの「約束・宣誓 promises」や客に対して何が手に入るかをイメージさせるものを、コトラーと並ぶマーケティングの大家 セオドア・レヴィットは、「代替品 surrogates 」と呼んだ。

B2B取引は、品物やサービスが納品される前に契約が交わされ、対価を支払うことが決定していることがほとんどだろう。では、何がその契約を手助けしてるのだろうか?

(1)や(2)に挙げたようなコンテンツのみならず、カタログその他のコンテンツがB2B取引においては使われる。そうしたものはすべからく、B2Bの企業間取引において「約束・宣誓 promises」=売り手にとっては「自分たちな何を提供するか」、買い手にとっては「自分たちは何を購入するのか」として機能している。

つまり、B2B取引という、「無形財」を取引するようなプロセスがある企業間の売買行為において、コンテンツとは「代替物 surrogates」という重要な役割を果たしているのだ。

(4) B2B企業にとっては、B2C企業のように最適な広告メディアがないため

B2C企業の場合、第三者のメディア(いわゆる商業メディア)が存在し、それらが集めてくれたオーディエンスの中に、自社がリーチしたいターゲットが含まれてることが多く、そこに広告を出せば適切なリーチが可能となる。しかしB2B企業の場合は、そうした自社のターゲットを含むオーディエンスを抱えたメディアを見つけることも難しく(そもそも無い)、広告によるリーチを目論むことができない。

これはメディアビジネスの構造的なところからして、解決できない課題である。

B2Cの場合、集めるオーディエンスの数も多くすることもできるし、そのオーディエンスを見込み客と考えて、リーチを望む広告主も多数見込むことができる。それゆえ、多数の広告主に大きなリーチを売ることができるので、広告ビジネスの成立を期待できる。

しかしB2Bの場合、もしメディアをやるにしても、集めるオーディエンスの数は見込めないし、専門性が高くなれば高くなるほど、出稿をしてくれる広告主企業の数は見込めない。そのため、B2B領域において、広告ビジネスを成立させるのは難しい。これが、B2B領域が「広告」の大きな割合を占めることができない本質的な理由である。

しかし、少ないながらもネット上には自社の事業に興味の有りそうなオーディエンスはいるだろう。そうした人々を集めるために、第三者である広告メディアの力を借りることが難しいのであれば、自社でメディアを立ち上げて、自社に合ったオーディエンスを集めるしか無い。

こうした、B2B企業向けの広告メディア成立の難しさが、B2B企業がオウンドメディアを行ったほうがよい、本質的な理由なのである。


以上のような4つのポイントが、B2B企業におけるコンテンツをつかったマーケティングにおいて重要かつ理解をしておくポイントなのである。

コンテンツづくりのTIPSはあちこちに転がっているが、しかし上述のような本質的かつ深い理解をもっていなければ、B2B企業においてコンテンツをつかったマーケティングを行う価値は、全く持って陳腐な説明にしかならないだろう。


ちなみに、このような、本質的な理解からB2Bマーケティングをやっていきたい人は、ぜひこちらに登録、今後の講座にぜひご参加ください。

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