アメリカにおける「E-コンサル」の事例と有効性
疾病の研究が進み、現場では患者の対応において高い専門性と経験が求められています。しかし、1人の医師がすべての領域を網羅するのは不可能で、特に専門性の高い領域においては、その専門医の数も多くはありません。専門医による診察のニーズと実際の専門医のミスマッチは、地域医療の現場において顕著となっています。
このような地域医療格差に一石を投じるのが、最近エビデンスが蓄積されてきている【E-コンサル】です。
※前回の投稿にてMediiが提供する「E-コンサル」詳細も記載しています。
E-コンサルとは、プライマリ・ケア医が患者のケアに必要な知識や経験を指導してもらう目的で、オンラインプラットフォームを通じて仮想的に専門医に質問をすることです。
E-コンサルのプラットフォームを立ち上げた医療機関では、その利用が急速に増加しており、例えばロサンゼルス州保健サービス局では、システムの開始から3年で毎月12,000件を超えるコンサルテーションが寄せられるようになりました。[1]
E-コンサルの利点として、専門医診察へのアクセスの向上、コンサルテーションを通じたプライマリ・ケア医教育、医師間のコミュニケーションの向上などがあります。しかし、E-コンサルは対面診察を避けなければ、医療費増加につながるだけの付加的なサービスになってしまう可能性があります。
そこで、サービスの有用性と適切性を調べた研究を紹介します。
アメリカのE-コンサルを調査した研究を紹介
本研究ではサービスの有用性と適切性を評価するために「E-コンサルによる受診回避」と「質問の適切性」という指標を定義しました[2]。
研究が行われたのはマサチューセッツ総合病院などの高度に専門化した病院や地域医療センター、一般診療所を含むPartners HealthCare System(PHS)の米国最大級の医療ネットワーク(約600万人の患者にサービスを提供)が管理するE-コンサルシステムです。
このシステムは、2016年4月~2019年7月の期間で、既に45,000件のコンサルテーションが完了しています。PHSのE-コンサルプラットフォームは、メッセージによる医師間のコミュニケーションにのみ限定され、医師から患者へのコミュニケーション、電話チャット、ビデオチャットの機能はありません。
有用性の指標である「E-コンサルによる受診回避」とは、専門医によるコンサルテーションが完了した後、120日間同じ専門領域の医師に直接受診がないものと定義しました。
事前に幅広い専門分野を含むシステム全体のデータを解析して、E-コンサルの件数が多く、受診回避率にばらつきのある5つの専門科(精神科、感染症科、血液内科、膠原病科、皮膚科)を選択し、2017年10月から2018年11月までのデータからランダムに750件を選択し、コンサルト記録を複数名でレビューしました。(実際にはデータの欠損で741件が解析されました。)
受診回避割合は5つの診療科全体で81.2%(5289/6512件)、個別でみると精神科 92.6%、感染症科 87.6%、血液内科 86.0%、膠原病科 65.2%、皮膚科 61.9%という結果でした。
E-コンサルをした理由は、4つのお問合せ
治療に関する質問
診断に関する質問
プライマリ・ケア医がさらなる教育を求めた質問
患者からの問い合わせ
専門分野によっても理由は異なり、精神科では治療に関する質問が93.0%を占め、膠原病科では診断に関する質問が88.4%でした。一概には言えませんが、E-コンサルした理由の違いが、最終的な受診回避率につながった可能性があります。また、膠原病科や皮膚科のように、直接関節や皮疹等を診察する必要性があるといった診療科の特性を反映しているのかもしれません。
診療科によって多少ばらつきはありますが、E-コンサルによりこれだけ専門医の受診を回避することができれば、不要な専門医の対面診察を減らし、また対面診察を必要とする患者の待ち時間を減らすことに繋がります。そして専門医を受診するために患者が移動する負担も軽減することができ、遠方の専門医療機関の受診が必要なケースでは特に大きな効果を発揮できるでしょう。さらなる研究でE-コンサルとマッチする診療科もわかってくるのではないでしょうか。
次回は、この研究でのもう一つのテーマ、適切性とE-コンサルの今後の展望について紹介します。
参考文献
[1] Barnett ML, et al. Los Angeles safety-net program eConsult system was rapidly adopted and decreased wait times to see specialists. Health Aff (Millwood). 2017;36:492-499
[2] Ahmed S, et al. Utility,Appropriateness, and Content of Electronic Consultations Across Medical Subspecialities. Ann Intern Med. 2020;10:641-647
執筆者:Dr.心拍
総合病院勤務医として臨床または研究に従事。医学博士。複数の専門医資格を有し、論文執筆や国内外の学会発表も実践しつつ、若手の指導にもあたる。これまで培った経験を生かして医師ライターとしても活躍。また専門知識を生かして監修や編集、Webディレクターとしても活動している。最近は予防医学、デジタルヘルス、遠隔医療、AI、美容、健康、睡眠などに関心を広げデジタルヘルス企業に関する記事の連載も行っている。様々な企業との連携やコンサルティングも経験し、幅広い分野での貢献に努めている。
寄稿者:株式会社Medii 代表取締役 山田 裕揮
リウマチ膠原病専門医。自身も免疫難病患者でもある。
「どこにいても より良い医療を 全ての人に」を掲げ、ドクターtoドクターのオンライン専門医相談システムを運営するヘルステック領域のスタートアップ企業。500人以上の専門医が登録し、地域偏在の課題が大きい免疫難病や希少難病を中心に全40専門領域を網羅し、専門知見を必要とする医師とオンライン相談でマッチングしている。医師と患者の双方向から捉えた地域医療の課題である専門医偏在問題の解決を目指している。