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離職防止を成功させる鍵は、人材採用戦略にあり!

~医療機関の理念で価値観を共有し、診療体制の将来像に基づいた人材育成を~

優秀な人材の確保と定着、その両輪で地域医療への貢献を強化
医療機関にとって、質の高い医療を提供し続けるために最も重要なのは、言うまでもなく「人材」です。
医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師、理学療法士、作業療法士、放射線技師、言語聴覚士、歯科衛生士など、多様な専門性を持つ人材がそれぞれの役割を果たすことで、患者さん中心の医療が実現します。
しかし、医療現場は長時間労働や高いストレスなど、厳しい側面も持ち合わせています。せっかく採用した人材が早期に離職してしまうケースは少なくありません。厚生労働省の調査によると、2022年の新規学卒者の3年以内の離職率は32.5%にものぼります。
人材の流失は、医療機関にとって大きな損失です。採用・教育にかかったコストが無駄になるだけでなく、医療の質低下、患者さんへのサービス低下、残った職員の負担増加など、様々な悪影響を及ぼします。
だからこそ、医療機関は、採用活動と離職防止を車の両輪のように一体的に捉え、戦略的に取り組む必要があります。

早期離職の本当の原因とは?

早期離職の原因は多岐にわたりますが、1つにまとめると「思っていたのと違った」です。そして、この入社前の期待と入社後の現実の相違を防ぐためにマネジメントすべきことは、大きく分けて以下の2つに集約できます。

  • 価値観のミスマッチ: 医療機関と従業員の価値観が一致せず、違和感や不満を感じてしまう。

  • スキルのミスマッチ: 従業員のスキルと仕事内容が合致せず、能力を発揮できない、あるいは成長を実感できない。

これらのミスマッチを防ぐためには、採用段階からこれらをわかりやすく発信しながら戦略的に対応することが重要です。

1. 価値観のミスマッチを防ぐ

求職者は、医療機関のウェブサイトや求人情報などを通して、その医療機関の雰囲気や文化、価値観を感じ取ろうとします。しかし、表面的な情報だけでは、具体的に書かれた理念や診療方針を理解することは難しいでしょう。
そこで重要となるのが、医療機関の理念の言語化です。
医療機関の理念とは、医療機関の目指す方向性や価値観を明確に示したものであり、ミッション・ビジョン・バリューの3要素で構成することをおすすめしています。

  • ミッション: 医療機関として、地域社会や患者さんに対して提供する医療サービスの本質的な価値

  • ビジョン: 医療機関が目指す未来像や、地域医療においてどのような役割を果たしたいのか

  • バリュー: 医療機関が大切にする価値観や行動指針(インフォームドコンセントを軸とした患者さん第一主義、闊達なコミュニケーションをベースにしたチーム医療の重要性など)

これらの要素を、医療機関の責任者や理事長(院長)の価値観、医療観を反映させながら具体的に言語化することで、求職者は医療機関の目指す方向性や診療方針を深く理解し、共感することができます。
例えば、

  • 「私たちは、地域社会に貢献します」といった抽象的な表現ではなく、「患者さん一人ひとりに合わせた親切かつ分かりやすい対話で寄り添い、その方にとっての最善の医療を提供することで、地域住民の健康と幸福に貢献します」のように、具体的な行動や思いを込めて表現する。

  • 「チーム医療を重視します」だけでなく、「多職種が連携し、互いに尊重し合いながら、患者さん中心の思いやりとスピードが両立する医療を提供します。」「それぞれの専門性を活かし、チームとして最高の医療を提供できる環境を構築するために、医療人として必要な自己研鑽を日々実践します」のように、行動指針や診療方針を具体的に示す。

このように、具体的で分かりやすい言葉で医療機関の考え方や診療方針を理念として言語化することで、求職者との価値観のミスマッチを防ぎ、入社後の定着率向上に繋げることができます。
このとき重要なのは、責任者や理事長の価値観で理念を設定するということです。どこかの本に書いてあったような美しい言葉である必要はありません。医療者としての人生を振り返り、心の底から「この医療を届けたい!これは譲れない!」といった思いを言語化してください。 
そうすることで、理念に共感した人材が集まり、自然と理念が浸透していきます。さらに、バリューを行動指針として評価基準に盛り込むと一層、組織の方向性が整ってきます。

2. スキルのミスマッチを防ぐ

スキルのミスマッチを防ぐためには、診療体制の将来像と人材育成を連携させることが重要です。
まず、将来の診療体制の将来像を明確化し、それに基づいて必要となる人材像を具体的に定義します。
例えば、

  • 5年後、10年後にどのような医療を提供し、どのような役割を担う医療機関になるのかを明確にする。

  • 各部署の役割や責任を明確化し、それぞれのポジションで求められるスキルや経験を具体的に定義する。

  • 医師、看護師、歯科衛生士、コメディカルそれぞれの専門スキル向上のための研修、リーダーシップ研修、キャリア開発支援など、人材育成に積極的に投資する。

  • キャリアパスを明確化し、従業員が自身の成長を実感できるようなキャリアアッププランを提供する。

このように、診療体制の将来像に基づいた人材育成を行うことで、従業員のモチベーションを高め、定着率向上に繋げることができます。

まとめ

離職防止は、採用段階から始まる長期的な取り組みです。
医療機関の理念を明確化し、求職者との価値観のミスマッチを防ぐとともに、診療体制の将来像に基づいた人材育成を行うことで、従業員の定着率向上を目指しましょう。
さあ、今日から何かひとつ始めましょう!

  • まずは、医療機関の理念を見直し、ミッション・ビジョン・バリューを具体的に言語化してみましょう。

  • 次に、将来の診療体制の将来像を検討し、必要となる人材像を明確化しましょう。

  • そして、採用活動や人材育成の仕組みに、これらの要素を反映させていきましょう。

参考文献

  • 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」

  • リクルートワークス研究所「人材採用・育成に関する調査」


一般社団法人 九州メディカル・パートナーズ
人事担当 理事 松尾誓志

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