データから妊娠力を考えてみよう
これまで不妊症や不妊症に対する不妊治療について書いてきました。
ここでは、すでに不妊治療を開始している方を対象として、検査結果をもとに、あなたの妊娠力を考えてみたいと思います(まだ検査を行っていない方であれば読み飛ばしていただいても結構です)。
一般的な不妊治療のスクリーニング検査は、①経腟超音波検査、②子宮卵管造影検査、③ホルモン採血検査、④抗ミュラー管ホルモン(AMH)検査、⑤精液検査などが挙げられます。
これらの中から、子宮卵管造影検査は卵管閉塞の有無を確認し、卵管の異常があれば精子と卵子が出会えていない可能性が高いため、体外受精を行うか、若年女性で卵巣予備能が十分にあれば腹腔鏡や卵管鏡などによる手術を検討する必要があります。
精液所見が不良であれば、男性不妊専門のクリニックでの診察と治療や、運動性の高い精子を集めて子宮内へ注入する人工授精もしくは顕微授精を含む生殖補助医療に進む必要があります。
今回はこれらを除いた、卵巣予備能と強く関係するAMHと女性の年齢をもとにあなたの妊娠力を検討します。
女性の年齢ごとでの自然妊娠率はどのくらい?
まず女性の年齢ごとでの自然妊娠率はどれくらいなのでしょうか?
30~44歳の960名の不妊症の既往がなく、男性不妊症も含む明らかな不妊原因がなく、かつ妊娠をトライした期間が3カ月以内のカップルが、定期的に性交をもったときの自然妊娠率を確認したデータがあります(文献1)。
年齢別の累積妊娠率は30~33歳で妊娠率は変わらず,約1年間で90%近くの方が妊娠しますが、34歳を超えると徐々に妊娠率が低下し、40歳を超えるとその低下率が加速することがわかります。また、この結果から40~41歳の女性でも妊娠できる能力が正常であれば、40~50%の女性で自然妊娠が期待できることがわかります。
ただし、図の出産既往の有無における累積妊娠率を確認すると、40歳以上でも妊娠既往のある女性では2人に1人くらい妊娠ができますが、40歳以上で出産したことがない女性はまったく妊娠していません。
これらのことから、避妊しないで性交渉をもつことで、約1年間で30代前半は80~90%、30代後半は70~80%、出産既往のある40~44歳は約50%の方が妊娠することが期待できます。
40歳以上の方は積極的な不妊治療が必要!
一方で出産既往のない40歳以上の女性は、不妊期間に関係なく積極的な不妊治療が必要です。また出産既往のある40歳以上の女性も、約50%の方は自然妊娠できますが残り50%は妊娠できておらず、妊娠できても40歳の場合、3分の1、42歳の2分の1の妊娠は流産となります。
つまり、40歳を超えてくると年々流産が上昇するため、少しでも早くに妊娠することが出産までたどりつくために大変重要です。どうしても子どもがほしいという方であれば、一人目に自然妊娠して出産していても、体外受精を含めた積極的な不妊治療を検討する必要があります。
では、卵巣予備能から考えると?
次に卵巣内に残存する卵子の数(卵巣予備能)に相関する抗ミュラー管ホルモン(AMH)値で評価します。年齢に伴うAMH値の平均値を表に示します(文献2)。
通常の単位は「ng/mL」で表記されていますが、お持ちの検査結果の単位が「pg/mL」の場合、7で割ればほぼ「ng/mL」に相当する数値になります。
AMHのピークが約25歳のため、25歳以上の女性が検査で評価ができます(文献3)。その平均は25歳で約4.0ng/mL、30歳で約3.0ng/mL、35歳で約2.0ng/mL、40歳で約1.0ng/mL、45歳で約0.5ng/mLで、閉経時期になるとほぼ0となります。
妊娠に必要なAMHの値は?
AMHは2.0ng/mL以上あれば、妊娠において十分に卵巣予備能があると考えられます。しかし、1ng/mL未満になってくると、年齢が若くても排卵誘発薬による卵巣刺激に対して反応が悪くなり、採卵で採取できる卵子数が明らかに少なくなります。国際的にも卵巣予備能の著明な低下は、1.1ng/mL以下と決まっています(文献4)。さらに0.5ng/mL以下になると本格的に閉経する方も出てきます。その場合、体外受精でも妊娠できる可能性がかなり低くなります。
AMHが高すぎるのも問題?
一方で、AMHは高ければ良いものではなく、排卵障害となる多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)という病気だと、AMH値が高値を示す傾向にあります。40歳未満で10ng/ml以上、または40歳以上で5ng/mlを超えるようなAMHの異常高値は、見かけ上妊娠力が高いように見えますが、実は排卵障害があるだけかもしれません(文献5,6)。
妊娠方法別の妊娠率の目安
さらに、妊娠する方法別(タイミング法、人工授精、体外受精)の妊娠率の目安を表に示します(文献7)。
先ほど説明した通りで、1年間避妊しないで性交を行ってきた場合、不妊原因がなければ、30代女性では70~90%が妊娠します。そのため、タイミング法では、不妊検査で明らかな不妊原因を認めない場合の妊娠率は、40歳未満の女性でも3%以下と非常に低いです(文献8)。またタイミング法で妊娠できない場合、人工授精まで行っても8~10%とあまり高くはありません(文献9)。
上記から考える不妊治療のスケジュール
これらをもとに妊娠力とその推奨する不妊治療のスケジュールを考えると図の通りになります。
卵管の異常や乏精子症・精子無力症があれば、体外受精を中心とした積極的な不妊治療が必要となります。
子宮卵管造影検査で卵管も通っていて、男性不妊症もなければ、年齢とAMH値で妊娠力を考えます。
35歳未満でかつAMH値>約2ng/mLは十分に妊娠力をもっており、不妊期間が1年未満であればタイミング法でも妊娠が期待できます。一方で40歳以上もしくはAMH値<約1ng/mLいずれかがあてはまる場合は、妊娠力が低いため、体外受精などで早急な不妊治療をお勧めします。
参考文献
1) Steiner AZ, Jukic AM: Impact of female age and nulligravidity on fecundity in an older reproductive age cohort. Fertil Steril 2016; 105: 1584-8.e1.
2) Seifer DB, et al: Age-specific serum anti-Mullerian hormone values for 17,120 women presenting to fertility centers within the United States. Fertil Steril 2011; 95: 747-50.
3) Kelsey TW, et al: A Validated Model of Serum Anti-Mullerian Hormone from Conception to Menopause. PLoS One 2011; 6: e22024.
4) Ferraretti AP, et al: ESHRE consensus on the definition of 'poor response' to ovarian stimulation for in vitro fertilization: the Bologna criteria. Hum Reprod. 2011; 26: 1616-24.
5) Carlsson IB, et al: Anti-Mullerian hormone inhibits initiation of growth of human primordial ovarian follicles in vitro. Hum Reprod 2006; 21: 2223-7.
6) Durlinger ALL, et al: Anti-Mullerian hormone attenuates the effects of FSH on follicle development in the mouse ovary. Endocrinology 2001; 142: 4891-9.
7) 池本裕子, 黒田恵司:各論1 妊娠方法 妊娠方法別の妊娠率. データから考える不妊症・不育症治療 希望に応える専門外来の診療指針改訂版.p.148-53,メジカルビュー社, 東京,2022.
8) Evers JLH: Female subfertility. Lancet 2002; 360: 151-9.
9) Duran HE, et al: Intrauterine insemination: a systematic review on determinants of success. Hum Reprod Update 2002; 8: 373-84.
10) Kuroda K, Ochiai A: Unexplained Infertility: Treatment Strategy for Unexplained Infertility. In: Kuroda K, Brosens JJ, Quenby S, Takeda S, eds. Treatment Strategy for Unexplained Infertility and Recurrent Miscarriage. Singapore: Springer Singapore, 2018: 61-75.
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