忘備録>アジア各国における健康保険制度
アジア各国における健康保険制度は、日本とは異なる特徴や課題を抱えています。アジアの国々はそれぞれの経済状況や社会制度に応じて医療制度を設計しており、以下に主な国々の健康保険制度の概要を紹介します。
1. 韓国
韓国は、日本と同様に「国民皆保険制度」を採用しています。国民健康保険(NHI)があり、全国民が保険に加入することが義務付けられています。
特徴: 1989年に国民皆保険制度が確立され、現在は中央政府が制度を管理しています。医療費の自己負担は30%程度で、残りは保険でカバーされます。
問題点: 高齢化の進行に伴う医療費の増加や、私的医療保険への依存が強くなっている点が課題です。私的保険に加入しないと、自己負担額が高くなることもあります。
2. 中国
中国では、都市部と農村部で異なる健康保険制度が存在しており、基本的に公的保険と民間保険が共存する体制です。
都市部: 都市労働者医療保険と呼ばれる制度があり、従業員と企業が共同で保険料を支払い、基本的な医療サービスが提供されます。
農村部: 新農村協同医療制度(NCMS)が2003年に導入され、農村地域の住民も基本的な医療サービスを受けられるようになりました。
問題点: 地域間の医療アクセスや質の格差が大きいこと、都市部の方が医療サービスが充実していることが課題です。また、自己負担額が高く、医療費が家計に大きな負担をかけるケースもあります。
3. 台湾
台湾の健康保険制度は「単一支払者制度」(Single-Payer System)として知られ、全国民が政府の健康保険に加入します。台湾の制度は、世界でも評価が高いです。
特徴: 1995年に導入された「国民健康保険(NHI)」があり、非常に効率的で手厚いカバレッジを提供しています。自己負担は低く、医療サービスの質も高いです。国民IDを使ったITシステムで医療データが管理されており、効率的な運営が行われています。
問題点: 財政的な持続可能性が問題となっており、保険料の増加や医療費抑制策が必要とされています。また、人口高齢化が進む中で、将来的なコスト負担の拡大が懸念されています。
4. シンガポール
シンガポールの医療制度は公的保険と個人の医療貯蓄(Medisave)を組み合わせたシステムです。国が運営する公的医療システムを基盤にしながら、自己負担を重視した制度が導入されています。
特徴: メディセーブ(Medisave)、メディシールドライフ(Medishield Life)、メディファンド(Medifund)という3層構造で医療費を管理しています。個人の医療費を自己負担する割合が高いのが特徴で、政府が補助する一方、自己負担も避けられません。
問題点: 自己負担額が高いため、低所得層にとっては医療費が大きな負担となることがあります。また、高度な医療を必要とする場合にはコストが非常に高くなる可能性があります。
5. タイ
タイでは、ユニバーサルヘルスケア(UHC)が導入されており、すべての国民が公的な健康保険に加入できます。
特徴: 2002年に開始された「30バーツ医療制度」により、国民は30バーツ(約100円)で医療サービスを受けることができます。公的保険は税金で賄われており、低所得層を中心に手厚い医療が提供されています。
問題点: 低コストの医療提供を維持するため、医療従事者や施設の負担が増していること、都市部と地方で医療サービスの質に大きな差があることが課題です。
6. インド
インドの健康保険制度は、公的医療と民間医療が混在しており、都市部と農村部で医療へのアクセスに大きな格差があります。
公的医療: 低所得層向けに提供されている医療サービスは無料ですが、設備や人員が不足していることが多いです。
私的医療: 民間の保険や医療機関に依存する中間層・富裕層が多く、医療費が高額になることが多いです。
問題点: 農村部の医療インフラが脆弱であり、多くの人が適切な医療サービスを受けられない状況です。また、政府の医療支出が少なく、全体の医療体制が不十分です。
7. インドネシア
インドネシアでは、2014年に国民健康保険(BPJS)が導入され、全ての国民が医療サービスにアクセスできるようになっています。
特徴: BPJSは国民皆保険を目指しており、加入者は政府が提供する基本的な医療サービスを低コストで受けられます。特に低所得層向けの補助が充実しています。
問題点: 保険制度自体が新しく、運営の効率性や医療の質に課題が残っています。また、保険料の徴収が不十分で、財政的な持続可能性にも問題があります。