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早期肺癌に対するSBRTの治療1年後の遠隔転移を予測

記事執筆者:医師(医学研究者)
レビュアー:稲森 瑠星(医療AIコミュニティ運営者)

3つの要点

  1. SBRT治療後の遠隔転移リスク予測モデルを開発

    • Fine and Gray (FG)モデルとRandom Forest Survival (RFS)モデルを用いて、早期肺癌患者の治療1年後の遠隔転移リスクを予測した。

  2. モデル性能の比較とリスク層の明確化

    • FGモデル:内部テストセットでAUC 0.71、外部テストセットでAUC 0.70であった。高リスク層は内部テストで20.0%、外部テストで21.4%の遠隔転移確率であった。

  3. 実臨床での有用性

    • 外部検証を経て、全身療法が必要な患者選定に役立つ実用的なモデルとして提案した。

Prediction of Distant Metastases After Stereotactic Body Radiation Therapy for Early Stage NSCLC: Development and External Validation of a Multi-Institutional Model

written by Gao SJ, Jin L, Meadows HW, Shafman TD, Gross CP, Yu JB, Aerts HJWL, Miccio JA, Stahl JM, Mak RH, Decker RH, Kann BH.

Journal:Journal of Thoracic Oncology
Published Online:November 14 2022

この記事に含まれる画像は、論文や紹介スライド、またはそれらを参考に作成されたものです。


Introduction


早期肺癌は手術が標準治療であるが、ピンポイントの放射線治療である定位放射線治療(SBRT)も普及してきている。

SBRT後の遠隔転移のリスクを予測し、全身療法の恩恵を受ける可能性が最も高い患者の選択に役立てることができるモデルを構築した。


Materials and Methods


  • データは多施設の1280症例(Yale-21Cデータセット)と外部テスト用の130症例(BWH/DFCIデータセット)

  • 対象はSBRTを受けたclinical T1-3N0M0 原発性非小細胞肺癌

  • エンドポイントはSBRT施行1年後の遠隔転移

  • 競合リスクを考慮したFine and Gray (FG)モデルとrandom forest survival (RFS) モデルを使用


Yale-21Cデータセット1280症例をランダムにtraining set(80%)とtest set(20%)に分け、BWH/DFCIデータセット130症例を外部テストとして用いた。FGモデルはRのriskRegression package、RFSモデルはRのrandomForestSRC packageを用いた。 

 

Results


Patient characteristicsは以下の通り

 FGモデルの単変量解析と多変量解析の結果 

FGモデルの説明変数はSUVmax、年齢、 ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) status、肺癌既往の有無、組織型。内部テストセットでAUCは0.71 (95%信頼区間: 0.57–0.86, Brier score: 0.04)。

RFSモデルの説明変数はSUVmax、年齢、ECOG status、肺癌既往の有無、組織型、癌が生じた肺葉の部位、喫煙歴。内部テストセットでAUCは0.69 (95%信頼区間: 0.63–0.85, Brier score: 0.04)。

FGとRFSのモデル間で識別性能に大きな差はないことが示唆された。シンプルさ、再現性、解釈のしやすさを考慮し、FGモデルがさらなるテストに選択された。

外部テストセットで、FGモデルはAUC 0.70 (95%信頼区間: 0.57–0.83, Brier score: 0.08)だった。

(A)と(B)はFGモデルによる内部テストセットのキャリブレーションプロットとROC(Receiver Operatorating Characteristic)曲線、(C)と(D)は外部テストセットのキャリブレーションプロットとROC曲線。

FGモデルは1年後遠隔転移の高リスク患者層を抽出した。1年後遠隔転移の確率は、内部テストセットで高リスク層 20.0% [3 of 15]、低リスク層 2.9% [7 of 241] (p = 0.001)、外部テストセットで高リスク層 21.4% [3 of 15]、低リスク層 7.8% [9 of 116] (p = 0.095)だった。


Discussion


SBRTを受けた早期肺癌患者の遠隔転移リスクを予測するための計算モデルを多施設のデータに基づいて開発し、外部で検証した。SBRTで治療された早期肺癌患者の局所制御率は常に高いにもかかわらず、遠隔転移は依然として治療失敗の主要な理由である。本研究により、SBRT治療を受けた早期肺癌の遠隔転移リスクには幅広い範囲があることが明らかになり、得られたモデルは、全身療法から利益を得る可能性が高い患者を選択し、転移のリスクが低い患者への無分別な使用を避けるのに有用であることが分かった。さらに、遠隔転移のリスクが高い患者は、治療後にフォローアップを強化することで利益を得られる可能性があり、本モデルは、臨床医が患者のリスク因子に基づいて適切なフォローアップスケジュールを決定するのに役立つと考えられる。

最近の機械学習モデルは、複雑なデータをモデル化する能力が向上していることが判明したため、random survival forestアルゴリズムを用いて、より高性能なモデルを構築できるかどうかを検討した。注目すべきは、RFSモデルとFGモデルの間に、評価したすべての時点において性能に有意な差がなかったことであり、これは含まれる変数の数が比較的少なかったことに起因すると考えられる。また、RFSモデルは複雑であるため、解釈のしやすさが犠牲になったが、FGモデルはシンプルであるため、モデル変数とDMのリスクとの関係についてより深く理解することができた。そのため、さらなる検証を行い、臨床的に使用可能なツールに発展させるために、FGモデルを選択した。

この研究にはいくつかの限界がある。データが後ろ向きであることから選択バイアスが生じる点。両データセットに病理学的な確認なしに治療された患者が相当数(22%~29%)存在した点。データベースの制限から捕捉できなかった他の遠隔転移リスク因子が存在する可能性がある点。研究の追跡調査期間の中央値が2年未満であることが、全体として遠隔転移発生率を予想より低くする一因となった可能性がある点。

結論として、SBRT後の早期肺癌における遠隔転移リスクを予測するための実用的な競合リスクモデルを開発し、外部で検証した。ゲノム、放射線、および血清ベースのマーカーを、より高度な機械学習または深層学習アルゴリズムと組み合わせて活用することで、さらなる改善が期待できるのではないかと考えられる。


記事執筆者 医師(放射線科医)の感想


現在、早期非小細胞肺癌の治療は手術が第一選択であるが、ピンポイントの治療である定位放射線治療(SBRT)も普及してきている。しかし、手術とSBRTを比較したランダム化比較試験のような高いエビデンスの報告はなく、また各々に長所と短所があるので、特に手術可能かの境界領域の患者にとっては患者と医師の相談できめていくことが望ましい。治療後の生存率と再発率を客観的・自動的に予測することができれば、この意思決定において極めて有用なツールになり、治療効果・患者満足度も改善する。本研究では機械学習モデルであるRFSではなく、統計モデルであるFGモデルが最終的に選択されたが、Discussionで触れられている通り因子が少なかったことが両者に差がなかった要因の一つであると思われる。今後画像などの多次元データも入力にしたとき、機械学習/深層学習の結果がどうなるか興味深い。


レビュアー 医療AIエンジニアの感想


診断、既往歴、喫煙歴といった説明変数から、FGモデル及びランダムフォレストを用いてSBRTを受けた早期肺癌患者治療の1年後の遠隔転移を予測した研究である。分析モデルを用いることにより遠隔転移のリスクを予測することができれば、患者の治療選択の一助となる。FGモデルとランダムフォレストの結果に有意差は認められず、シンプルな統計モデルで予測が可能であったと同時に、機械学習を用いた複雑なモデル化の強みを活かせなかったと言える。この原因として、学習データ量、説明変数が十分ではなかったことや、特徴量エンジニアリングを行わなかったことが考えられる。今後、より複雑なモデル化のためにこれらの要素を考慮することで、予測精度が向上することが期待される。

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