「無名の医療者が医学書を出版するまでの道」より『出版企画書の書き方』の章を公開します② <実は重要な著者プロフィール>
好評発売中の「無名の医療者が医学書を出版するまでの道」(著:山本基佳)より、著者の了承を得て「出版企画書の書き方」の章を一部抜粋して公開します。今回は、実は重要な「著者プロフィール」の書き方についてです。
【自分はこんな人!】著者名
ここには自分の名前を書きます。ふりがなも忘れずに書きましょう。ペンネームを使うこともありますが、医学書の場合は無理にペンネームを使う必要はないでしょう。ここは記載するだけ。特に問題ないはずです。問題はプロフィールです。
【自分はこんな人!】著者プロフィール
本項のプロフィールと次項の企画意図は、出版企画書の中でも双璧をなす重要なところです。プロフィールは、出版企画書の中でも最初に読まれることが多いです。そして、出版企画書で一番見られるのは著者プロフィールともいいます。つまり、ここでのつかみがうまくいかないとあなたの企画は「もうそこまで」ということになり得るのです。
無名の著者にとってはプロフィールが命です。この著者から学べることがあるか、プロフィールで峻烈に判断されます。
まだ無名の段階では、ただ経歴を並べただけの履歴書プロフィールでは何の差別化にもなりません。単調なものではなく、魅力的な、引き込むプロフィールを用意して、「ぜひこの人の書いた本を読みたい」と思わせましょう。
プロフィール作りが重要であるということは、「能動的出版アプローチ」と「受動的出版アプローチ」のどちらにも当てはまります。「能動的出版アプローチ」ではプロフィールを作って積極的に自分をアピールしなければいけませんし、「受動的出版アプローチ」ではそもそも人を引きつけるプロフィールがなければ声をかけてもらえません。編集者は「ただの職務経歴書のような濃淡のないプロフィール」を見て、「お。この人に本を書いてもらいたい」と思うでしょうか? 答えは言うまでもありません。
中には「たいした経歴のない自分にはそんないいプロフィールは書けない」とお考えの方もいるかもしれません。しかし、実績がなくても信頼されるプロフィール作りはできると言われていますので、まだ業績や資格がないからといって諦めることはありません。このあたりは後で詳しく触れさせていただきます。
よいプロフィールを作っておくと、今後、三重の意味で役に立ちます。1点目は「出版前の出版企画書のプロフィール」、2点目は「出版時の著者プロフィール」、3点目は「出版後のセルフブランドのためのプロフィール」、です。「一粒で二度どころか三度もおいしい」のがプロフィール作りです。ぜひ魅力的なプロフィールを作っていきましょう。
ベタですが、まずプロフィールとは何か? というところから入ります。一般に、人物紹介や経歴を指すと思います。しかしプロフィールと自己紹介文は違います。『プロフィール作成術』(さむらいコピーライティング)という電子書籍では、第1章の最初がこの事実から始まっています。
自己紹介文は「主観的」に書かれたもので主に「過去形」で記載されたものを、プロフィールは「客観的」に書かれたもので主に「現在形」で記載されたものをいいます。また、プロフィールは「ですます調」ではなく「である調」で書くのが一般的です(表)。
プロフィールには次の内容を盛り込みます。
・名前・現在の自分の仕事肩書き
・基本情報
・過去:バックボーン
・現在:USP(強み、売り)
・未来:ビジョン
・プライベート・人柄
・実績(箇条書き)
前述の『プロフィール作成術』はプロフィール作りについてまとめている良書です。私も自分自身のプロフィール作りの際に参考にさせてもらいました。ぜひご一読をおすすめします。効果的なプロフィール作りはほかにもセルフブランディングマーケティングやUSP関連の本にも詳しく書かれています。
さて、いいプロフィールにするためには次の3つの要素を必ず入れましょう。「USP」「バックボーン」「ビジョン」の3つです。
【いいプロフィールの3要素】USP
1点目のUSPは“Unique Selling Proposition”の略で、もともとはマーケティング用語。アメリカの広告業の巨匠といわれるロッサー・リーブスによって提唱された概念です。Uniqueは「独自の」、Sellingは「販売」、Propositionは「(消費者に対する)提案」の意味で、「独自の強みや売り」「専売特許」のことです。本書では「(自分の)売りや強み」と読み替えるとわかりやすいと思います。プロフィールにUSPがないと、ただの履歴書になってしまいます。
USPが紹介されるときによく例に出されるのが、とある宅配ピザチェーンA社です。当時A社は「30分以内にアツアツのピザをお届けします。届かなかったらお代はいただきません」というUSPを打ち出し、一躍有名になりました。独自の売り(この場合はサービス)を作ることで、数あるほかの宅配ピザと差別化し、頭ひとつ分、抜きに出たのです。
自分のUSPを発見してほかと差別化を図ることは、プロフィール作りだけでなく自分に書ける本のネタ探しにもなります。USPの見つけ方については第8章でも取り上げています。
【いいプロフィールの3要素】バックボーン
いいプロフィールにするための2点目は、USPの根拠になるバックボーンを盛り込むことです。プロフィールでどんなにUSPを述べても、それを裏付けるものがなければ信頼されません。USPは、それを支える実績や資格があるからこそ際立つのです。たとえば「自分の強みは救命救急です」と言っても、専門医の資格がなかったり、救命した実績がひとつもなかったりすれば、誰も信用してくれません。過去にこれまで自分がしてきたことを拠り所にできるように、日々の積み重ねを大切にしましょう。
【いいプロフィールの3要素】ビジョン
3点目の要素は「ビジョン」です。「USP」は「現在」の売り、「バックボーン」は「過去」の実績、そして「ビジョン」は「未来」の目標を述べたものとも言えます。現在の自分が今後どういうビジョンを持って未来に取り組んでいくのかを、ここで1?2行だけ入れるとプロフィールが光ります。 ビジョンと言っても幅広いと思いますが、ここではUSPやバックボーンと関連性を持たせる一言を入れましょう。医学書のプロフィールを書いていたのに、突然なんの脈絡もなくビジョンで、「世界平和を目指している」などと言わないようにしましょう。無関係のことを入れるのであれば、人柄、プライベートの欄などに最後に別で入れるようにしましょう。
【経歴、過去のできごとの書き方】
プロフィールに経歴や資格をひたすら箇条書きにする人がいます。たしかに経歴や経験を思いつくだけ書き連ねて、読者との間にひとつでも多くの共通点を作り、距離を近づけるという方法はあります。また、項目数が少ないよりは多い方が見栄えがしますし、ひとつひとつの経歴や資格は自分自身にとって人生の苦労の証ですので、すべて載せたいという気持ちもわからなくもありません。しかし、あらゆる背景をすべて載せてしまうと、芯がぼやけてしまいます。漠然と書きたいことを並べ、なんとなく自分をアピールしようとしているだけでは、目的のないあいまいなプロフィールになってしまうのです。プロフィールに載せる項目は、あくまで今の企画につながることをシンプルに伝えるに留めます。
プロフィールに経歴、過去のできごとを入れるときには特に次のふたつを意識しましょう。ひとつは、過去のエピソードはストーリーを語るように書く、ということです。経歴をただ記載するだけでは何の味気もなく、それは履歴書です。企画と関連のあるエピソードをストーリーにすることで感情移入してもらいやすくなり、自分の強みの根拠を示すことができます。現在の仕事に至った背景や、現在の企画を出した経緯をうまくストーリーとして語れるようにしましょう。ただし、ここでもシンプルに書くようにするのは忘れずに。
もうひとつは成功体験だけを書きすぎないようにするということです。きらびやかな経歴だけのプロフィールは、見方によってはただの自慢話になってしまいます。ストーリーを語るように書く、と言いましたが、自慢話に終始するとかえって反感を買います。自画自賛のしすぎは禁物です。
また、人が惹かれるのは、「人生で一度は失敗をし、それを乗り越えた人」と言われています。やや高等テクニックですが、それを利用して、プロフィールの途中で挫折や失敗のエピソードを入れると読者から好感を持たれます。挫折や失敗だけのプロフィールではもちろんダメで、一度の挫折を経験し、その困難からはい上がったという、「上がって、下がって、最後に上がった」という「N字」を描くようなエピソードが読者の共感を呼びます。『本を出したい人の教科書』では、これをヒーローズマーケティングと呼んでいます。ちょっとしたマイナス、つまり逆境を経験している人はそれをプラスに転じることができる場合があるのです。マンガの世界でも「元不良や落ちこぼれが、とある先生との出会いをきっかけに更生していく」というテーマはよくあります。『ROOKIES』(集英社)や『ドラゴン桜』(講談社)、『はじめの一歩』(講談社)の「千堂武士」、『め組の大吾』(小学館)の「朝比奈大吾」など枚挙にいとまがありません。自分にマイナスの経験があれば、その立場から話をすることができますし、有意に活かすことができるのです。
ただし、あくまでプロフィールはプロフィール。自己紹介文ではないので、企画や現在の自分とまったく関係のないエピソードを入れることは避け、繰り返しますがシンプルにすることを心がけましょう。
そして最後にプロフィールが読者目線になっているかを確認しておきましょう。
【実績がなくてもいいプロフィールは書ける】
さて、USPやバックボーンを書こうにも、中には「自分にはそんなものは何もない。立派な経歴も、書くに値する資格もない」と思っている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、実績がなくてもいいプロフィールは書けると言われているので心配はいりません。
実績がない場合はどのように信頼してもらったらいいでしょうか。実績がない場合は、現在の仕事に至った経緯について、ストーリーを語るように記載するという方法が「一応」あります。これまでの自分の背景をうまく語ることで自分の信頼性を増すのです。
たとえば、まだ経験年数の浅い看護師の場合、特別な資格があるわけでも豊富な経験があるわけでもないでしょう。
しかし、たとえば「小さい頃に身近な家族が病気と闘ってきた経験があって辛かった」という体験を述べたり、「以前とある看護師からかけられた温かい言葉によってとても救われた体験をきっかけに自分も看護の勉強をしてきた」という体験などをプロフィールに載せたりしてストーリーを語るのです。また、執刀経験の少ない外科医であれば、「長い間手術をさせてもらえずに下積みをずっとしてきた中で、手術をさせてもらうためにしてきた努力」や、「1例目の手術にかけた意気込み」など、自分の経験を語ったりするのです。ただしこのストーリーを語る手法は、自己啓発書やビジネス書の企画書を出すときには有効な方法ですが、医学書の場合は実績や50第3章 出版企画書の書き方 資格がまったくないと信頼してもらいにくいという面もたしかにあります。そのため最初に「一応」という表現をしました。
医療者で出版を目指している方の場合、実績がまったくないということはないと思います。しかし、もし書ける実績が少ない場合、「ない実績は作ってしまう」のもひとつの方法で、まずは資格取得を目指してしまった方が近道です。医師の場合、たとえば専門医などの資格は「最低限ここまではできる」という証明になると思いますので、一般的には信頼性が上がります。もちろん、専門医資格がなくても専門医以上の実力がある方は多くいらっしゃいます。自分もそのような方を多く見てきました。また他の職種でも、資格はないけど患者さんの話をとてもよく聴いて、資格を持っている職種以上に「患者さん目線」でいてくれるスタッフも多く知っています。しかし、はじめて会う人にアピールするためには、客観的な資格が受け入れられやすいのも事実です。専門資格や認定資格のように、取得に時間がかかるもののほかに、講習やコースのような短期で取得できる資格もあります。上記のストーリー法と短期で取得した資格を組み合わせてプロフィールを作ってみてはいかがでしょうか。