「無名の医療者が医学書を出版するまでの道」より『出版企画書の書き方』の章を公開します③ <本は自分が書きたいことを書くのではない?>
好評発売中の「無名の医療者が医学書を出版するまでの道」(著:山本基佳)より、著者の了承を得て「出版企画書の書き方」の章を一部抜粋して公開します。今回は、企画意図や読者ターゲットについてです。
【本書の内容】
どんな本になるのか、本の内容をここに書きます。この部分は総論的なことにとどめ、数行で簡潔にまとめましょう。各論的な細かい部分はサンプル目次とサンプル原稿でアピールできるので大丈夫です。
【企画意図】
出版企画書でプロフィールと同じくらい大切なところ。それがこの企画意図です。前章で、出版企画書の作成自体が「能動的出版アプローチ」のキモであると述べました。つまり企画意図は、キモの中のキモ、ということになります。
企画意図とは、「どうしてあなたがその本を書きたいのか」ということです。しかし『本を出したい人の教科書』(講談社)の吉田浩さんは、「企画意図に作家の意図を書いてはいけない」と言います。企画意図に「自分が本を書きたい理由」を書いても、それは三流の企画意図であると。これはどういうことでしょうか。
企画意図は、「自分はこういう気持ちで本を書きたい!」というひとりよがりの理由になりがちです。しかし、編集者や読者が求めているのは「自己中心的な企画意図」ではありません。この本を出すことで「なにが読者の役に立つのか」「なにが解決できるのか」「なぜこの本が読んでもらえるのか(売れるのか)」をアピールするのが一流の企画意図なのです。そんな観点から自分の企画を見つめたことがありますか?
【企画の背景】
企画の背景は、時代背景の説明です。時代がその企画を求めていれば、その企画は成功しますし、時代遅れでは興味を持ってもらえません。あなたの企画が「今」という時代をとらえているか。なぜ「今」その企画が読者に必要なのか。それを熱く語りましょう。
企画についてまとめると、「相手が読みたくなる内容をわかりやすく書く」。これがキモとなります。
【読者ターゲット】
「ピ○チュウ! キミにきめた!」
その本を誰に読んでもらいたいのか。読者ターゲット(対象読者:メインターゲットとサブターゲット)を明らかにしましょう。読者ターゲットを示すことで、その企画に需要があることをアピールするのです。
読者ターゲットは意識されていないことがしばしばあります。しかし、これはすごく重要な概念です。まったく同じことを扱っている本でも、読者ターゲットに合わせて話の掘り下げ方や文体を大きく変えなければなりません。ターゲットとなる読者がどのグループの人たちかを明確に書き進めていかないと、あいまいなままで誰にも手にとってもらえなくなる可能性があるのです。もちろん「全員」に読まれた方がよいのかもしれません。しかし欲張ると誰にも読んでもらえない危険性もあります。
たとえば、「心電図」をテーマにした本を取り上げてみましょう。心電図の本と言ってもさまざまです。読者ターゲットが初学者や学生であるなら「心電図はこういうもので、最初に出る波はP波と言い、心房の脱分極を表し…。次に見える波の名前はQRS波といい…」という感じで基礎の基礎から書くことになるでしょう。では、不整脈を専門にしている循環器内科医を対象にした場合はどうでしょうか。基礎部分を書いても悪くないですが、あまりに基本事項だとそこは間違いなくとばし読みされてしまいます。不整脈専門医にとっては、より専門的な記述が必要になります。しかし、これまた不整脈専門医でない医師を対象にしている本に「WPW症候群の中隔副伝導路ではV1の初期電位は右室に向かう前方への興奮と中隔から左室に向かう興奮が同時に起こり、心筋量の大きな後者の電位が反映されV1ではQS、qRとなり…」などと延々と説明されても、ちんぷんかんぷんこの上なしです。
同じ医者向けの本でも、研修医向けであれば日常よく遭遇し得る心電図を網羅的に取り上げることになるでしょうし、救急医向けであれば薬物中毒(ジギタリス中毒、三環系抗うつ薬中毒など)の心電図まで詳しく盛り54第3章 出版企画書の書き方 込まないといけないかもしれません。
一方、看護師向けであれば、また話は変わります。看護師は業務上、「心電図読解から治療まで」というよりは、その前段階の「心電図記録から心電図読解まで」の方が日常業務に沿った実践的な内容といえます。そのため内容も「電極の付ける場所や順番」とか、「すぐにドクターコールをしなければならない危険な不整脈に関する知識」などに重点をおかなければなりません。装丁も、分厚い本よりはベッドサイドでも気軽にぱっと参照できるようなポケットタイプの方が実践的で好まれるでしょう。
このように、一口に「心電図の本」といっても、読者ターゲットによって求められている内容は大きく変わります。読者ターゲットを明確にしないと軸がぶれ、中途半端な本になってしまいます。「浅いが広く」を対象とするのか、「狭いが深く」を対象とするのか、ぜひ自分の本の読者を想定して、イメージしながら執筆を始めてみてください。