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【労力を無駄にしないための 臨床研究テーマの選び方】一部公開①:「依頼原稿と投稿論文で求められるものの違い」

 好評発売中の「労力を無駄にしないための 臨床研究テーマの選び方(著:藤岡一路)」より、番外編コラムを一部公開します。

初学者のピットフォール

 研修医とかに初めて症例報告を書いてもらった場合にとても多い誤りであるため、あえて書かせていただくのですが、Introduction に疾患概念の説明を長々と書きすぎるという問題があります。特にひどい場合は、専門家の先生が記した総説の解説をそのまま序文にすべて書き写してしまい、どこにもオリジナリティがないということをよく経験します。頭の中に伝えたいメッセージがないから、とりあえず余白を埋めようと思って大事そうな情報を書いていったらすべて大事だったということだと思うのですが、予防する方法があります。


 それは、とりあえず文章を書いてみるのではなく、頭の中でその症例についてウリを何度も吟味することです。本質的に論文化するような症例というのは、何らかの他者に伝えるべきメッセージというものがあるはずなので、そのメッセージをいかにすれば伝えられるかというのを考えるのが重要だと思うのです。決して、疾患の一般的な頻度や、一般的な臨床症状の内訳について伝えたいわけではないはずです。頭の中で、こういうことが伝えたいという骨格を固めたうえで、それを伝えるために必要な最小限の情報のみを修飾する感じにすればオリジナルなIntroduction につながるように思います。

依頼原稿は初学者向き

 一方、商業誌などの依頼原稿に関しては、一般に出版社から「新生児黄疸について」とか「先天性サイトメガロウイルス感染症について」とかお題をいただくことが多く、そういうものの場合は一般的な知識を読者に提供することが重要になります。そこで、初学者のいろいろな文献から情報を引っ張ってくる力が役立ちます。ある程度論文などを書いた経験がある場合、既知の知識を整理するという作業は面白みがなく、また多少尖った(一般常識に反するような)意見を主張してみたいという欲求があるため、与えられたテーマから逸脱しそうになりがちです。また、自分の中で診療スタイルが確立してしまっている場合は、新規の知見や手法などを積極的に取り入れなくても何となく日々過ごせてしまうため、Up to Date な情報に無知な可能性もあります。


 こういった観点から、私は依頼原稿に関しては基本的に若手の先生と共著にすることにしています(ほぼ草稿を書き上げてもらい、私は手直しするくらいにしています)。一般的な内容を平易に伝えることが重要なので、若い先生の書いた内容は基本に忠実で(面白みはないですが)わかりやすいなと感心することが多いです。ですから、初学者にはどんどん依頼原稿を手伝ってもらって文章力を高めさせるというのがいいのではと個人的に思っています。

*著:藤岡一路 イラスト:ふじいまさこ

(つづく)


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