発表! 新聞労連ジャーナリズム大賞

放送レポート295号(2022年3月)
ジャーナリスト 臺宏士

 日本新聞労働組合連合(吉永磨美委員長、新聞労連)は1月18日、平和や民主主義、言論・報道の自由の確立や人権擁護に貢献した報道を表彰する「第26回新聞労連ジャーナリズム大賞」と、人権を守り、報道への信頼増進に寄与した若手記者の報道に贈る「第16回疋田桂一郎賞」の受賞作品を発表した。
 今回(2021年度)は、14労組から24作品の応募があり、選考委員会(4人)は「大賞」に、在日米軍に国内法の例外として認められてきた日米地位協定に基づく特権が引き起す問題を浮かび上がらせた毎日新聞「特権を問う」取材班の「特権を問う~日米地位協定60年」を全員一致で選んだ。選考委員会は「紙面だけでなく、動画を撮影し、米軍ヘリがビルの間を抜けていく現実を見せる手法は効果的で、テロップなどの編集技術も秀逸。視覚にも訴える『今どきの編集』によってジャーナリズムの可能性を広げた」と評価。東京都内で同25日にあった表彰式で、選考委員の青木理氏(元共同通信・ジャーナリスト)は「ネットの機能を縦横に駆使した。粘り強い取材、多角的、重層的な取材に加えて、事実を確実に裏付ける映像を撮影して鮮やかに見せる手法は新たな新聞ジャーナリズムの地平を切り開いた。調査報道という新聞に必須の作業をこの作品は貫徹した」と讃えるメッセージを寄せた。
 「特権を問う」取材班を代表して大場弘行記者(社会部)は「沖縄で米軍基地取材の経験がある記者の発案で始まった。地位協定の問題を論じるとイデオロギーの問題と言われがちだ。実態を伝えるためにはどんな立場の人が見ても納得できるファクトが必要だと思った。自分たちの力で証拠を押さえて自分たちの責任で報道する。現場取材と強いファクトという当たり前のことに徹底的にこだわった」と語った。
 優秀賞には沖縄タイムス「『防人』の肖像 自衛隊沖縄移駐50年」と信濃毎日新聞の「五色のメビウス ともにはたらき ともにいきる」の2作品。特別賞には▽北日本新聞の「神の川 永遠に―イ病勝訴50年」▽琉球新報の「航空自衛隊基地から流出した泡消化剤に有害物質が含まれていることを突き止めた一連の報道」▽ 北海道新聞の「『核のごみ』の最終処分場選定に向けた全国初の調査を巡る報道」の3作品が選ばれた。
 また、疋田桂一郎賞には共同通信社千葉支局・石川陽一氏が長崎支局時代から追及した「長崎市の私立海星高いじめ自殺問題を巡る一連の報道」に贈られた。なお、専門紙賞は「該当なし」となった。

▲新聞労連ジャーナリズム大賞を受賞した毎日新聞「特権を問う」取材班の記者たち(新聞労連提供)

■選考結果 「 」内は表彰式での受賞者や代表者の言葉(要旨) 

【大賞】

●特権を問う~日米地位協定60年=毎日新聞「特権を問う」取材班
大場弘行氏(社会部)「思いがあっても1人ではできない。たとえば都心での米軍ヘリの低空飛行の取材ではヘリはいつ来るかわからない。来ても素早くて撮影が難しい。1台のカメラでは高度は割り出しづらい。ものになるのか分からないのに人はかけられない。そんな雰囲気もあるなかで、チームで粘りに粘って撮影を90日間続けた。普通なら縮小するはずのチームは拡大。米軍ヘリが飛来する航路の下に記者、デスクたちが手分けをして立ち、米軍ヘリが来るとカメラマンを乗せた航空部のヘリが上空を舞い始めた。見せ方にもこだわった。各部署の担当者が垣根を取り払って、意見を出し合い戦略を練った。企画には20人以上の記者がかかわり、これまでに報道・配信した記事と動画はおよそ100本に上る。それでも事態はそう簡単には動かない。無力感を感じながらも自らを奮い立たせて取材を続けている。その意味で新聞労連ジャーナリズム大賞は大きな励みになる」

■優秀賞 

●「防人」の肖像 自衛隊沖縄移駐50年=沖縄タイムス「防人」の肖像取材班
銘苅一哲氏(社会部)「沖縄が日本に復帰して50年という節目に合わせて、復帰の際に移駐した自衛隊をテーマにした。沖タイは米軍基地問題には向き合ってきているが自衛隊については長期的な目線で取材してきたとは言えない状況が続いていた。その背景にあるのは自衛隊の移駐に反対した運動の中心に沖縄のマスコミの労組がいたこともある。取材の中で便宜供与を受けない、宣撫工作に乗らないという思いがあり、徐々に取材対象として外れていった。米軍基地がない島を実現したいという思いで働いているが、では米軍がいなくなって実際にどうやって島を守るのかということを考えたときに自衛隊と向き合っていかなければいけないのではないかと考えた。同じ思いの現場の記者に囲まれる中で進めることができた。自衛隊が地域に浸透していく過程を描いたが、もっとも描きたかったのは、ミサイルを配備した琉球弧の島々の現状や人々はどのような思いをしているのかだった。基地問題は米軍だけでなく、自衛隊も取材対象に広げないといけないと学んだ」

五色いつついろのメビウス ともにはたらき ともにいきる=信濃毎日新聞社編集局「五色のメビウス」取材班
古志野拓史氏(報道部)「取材の出発点は、新型コロナで傷んだ人々を地元の長野県を中心に追うことだった。外国人労働者ありきではなかった。そのプロセスで長野県内の高原野菜の産地でアジア出身の労働者が農作業中に落雷で亡くなったり、新型コロナで技能実習生の確保が難しい農家に関西の会社が無許可でベトナム人を斡旋して摘発されるというような事件があった。日本人以上に外国人労働者がコロナの割を食っているのではないかという問題意識で取材をスタートさせた。外国人労働者の問題を掘り起こすと同時に、彼らに感謝や共感の輪を広げたかった。人間同士として接する地元の、地域住民の姿を伝えることに手応えを感じた。コロナで入国がストップしている。働き手の確保は他国と遅れをとるように感じる。人口減少が著しい地方で深刻だ。地域社会と外国人労働者、グローバルな問題が地域とリンクしていることを念頭に取材したい」

■特別賞 

●神の川 永遠に―イ病勝訴50年=宮田求・北日本新聞編集委員「地方紙記者のだいご味は地域の課題を掘り下げていくと、この国の有り様、病巣が見えてくることだ。それを提示することが地方紙の大切な役割と自負している。イタイイタイ病から浮かび上がる社会病理の1つは、新型コロナウイルスの感染者と共通する患者差別だ。原因がわからない時は奇病として患者たちが差別を受けていた。その時の状況を再現しつつコロナ禍でのクラスター発生施設での誹謗中傷と重ね合わせることで未知の病・ウイルスによってあぶりだされる差別の構造がいまもこの社会に存在し、私たち1人ひとりがどう向き合うべきかを問いかけることができた」

●航空自衛隊那覇基地から流出した泡消化剤に有害物質が含まれていることを突き止めた一連の報道=琉球新報航空自衛隊泡消火剤流出取材班 長嶺晃太朗記者(北部報道部)「泡消火剤が  航空基地から出てきた。自衛隊は泡消化剤には(有害物質)のPFOS(ピーフォス)は含まれていないと言っていたが『(実際にはPFOSは)あった』と報道した。辺野古新基地の軟弱地盤や密約の問題など権力側の都合の良い情報を鵜呑みにせずに、裏を取るという新聞社としての基本的な作業によって読者に還元できた。新聞社単独で調べるのには限界がある。泡のサンプルを送った京都大学の研究者の協力なしにはできなかったし、採取時も近くの人がコップとビニール袋を用意してくれた。いろいろな人の支えと協力があって真相にたどり着けた」

●「核のごみ」の最終処分場選定に向けた全国初の調査を巡る報道=北海道新聞核ごみ取材班
今川勝照・報道センターデスク「核のごみの最終処分場選定問題はいまだ科学者の間でも異論が残り、国民理解も十分に進んでいるとは言い難いと考えている。原子力関連施設が地方の過疎地に押し付けられる構造的な問題もある。今回の受賞を励みに精力的に取材を続けていきたい」(代読)  

■疋田桂一郎賞(1件) 

●長崎市の私立海星高いじめ自殺問題を巡る一連の報道=石川陽一・共同通信千葉支局記者「疋田桂一郎賞という伝説的なジャーナリストの名前がついた賞をもらい光栄で励みになる。(17年の)生徒の自殺後に学校がつくった第三者委員会が認定した、いじめがあったという結論を学校が受け入れないというのは誰が見てもおかしい。記者としては特別なことをしたとは思っていない。取材のきっかけは2つある。同校では19年にも自殺があり、3年間で2人の自殺は普通ではない。ある地元メディアの記者に『うちは海星高校は叩けないから君が頑張ってよ』と言われた。記者がそういうことを言ったら終わりではないかと思って1人でもやってきた。受賞した記事は地元メディアではほとんど使ってもらえず、追っかけもされなかった。県外メディアには載せてもらい、記事を読んだ読者が学校に説明を求める署名を出したりしてくれたことに励まされた」

【全体総評(全文)】

 大賞の「特権を問う~日米地位協定60年」(毎日新聞)や優秀賞の「『防人』の肖像 自衛隊沖縄移駐50年」(沖縄タイムス)は、新聞社が持つ調査報道力をベースに、新たな試みによって、ジャーナリズムの新境地を切り開いた作品で、応募作品全体をリードした。「特権を問う」は、新聞・通信社ならではの、チーム力と積み重ねてきた経験を生かした、重厚な調査報道をベースに、デジタル時代に即して動画など新手法を駆使しており、新時代の新聞ジャーナリズムを予感させる作品だ。一方、沖縄タイムスは、共同通信と連携して陸上自衛隊と米海兵隊が、辺野古に陸上自衛隊の「離島防衛部隊」を常駐させることで極秘合意していたスクープを報じた。共通のテーマで、組織を超えて連携し、事実を追い求める試みは、部数減で産業全体が先細る中、少数精鋭で現場を背負わねばならない新聞産業において、未来志向のジャーナリズムのあり方を見せつけた。いずれも他社をリードする試みで、今後の新聞のジャーナリズム報道に大きな影響を与えることになるとみられる。
 この2作品を含め、地方の視点に立って、国策的課題を掘り下げる作品が目立った。優秀賞の「五色いつついろのメビウス ともにはたらき ともにいきる」(信濃毎日新聞)、「プレミアムA 失踪村 ベトナム技能実習生」(朝日新聞)は技能実習生の現場に密着し、抑圧的な技能実習生を取り巻く制度やひどい実態を炙り出し、実質は「移民社会」になっている日本社会の暗部に光を当てることに成功している。両作品とも、地方で起きて問題が発覚しにくい、国策による地域の弊害を地道に追いかけ、地域住民に問いかける、地方ジャーナリズムの本来の役割を果たしており、地方の民主主義の基盤となる報道も目立った。
 特別賞の「航空自衛隊那覇基地から流出した泡消火剤に有害物質が含まれていることを突き止めた一連の報道」(琉球新報)や「『核のごみ』の最終処分場選定に向けた全国初の調査を巡る一連の連載など」(北海道新聞)もその一翼を担った作品といえよう。
 新型コロナ感染拡大から2年目を迎えるが、コロナ禍をテーマにした作品の応募は、世界を覆い尽くす重大テーマにもかかわらず、それほど数が伸びなかった。その中でも、地域住民が苦しんだ公害事件の教訓を振り返り、病を巡る差別や偏見といった、社会の普遍的な病理について描き出そうと工夫し、コロナがもたらす本質的課題に迫る作品の応募があった。特別賞の「神の川 永遠にーイ病勝訴50年」(北日本新聞)、「連載『境界の彼方 とやま自治考』」(同)や「長期企画『明日の風は』」(新潟日報)がそれを試みた。
 2021年夏に開催された東京五輪もコロナと並ぶ、多くの人々の関心事でもある大きなテーマだったが、開催の是非をめぐる点について追及する作品はなかったが、長年女性選手や関係者が苦悩してきた問題を掘り起こした「アスリートの性的画像問題に関する一連の報道」(共同通信)は20年10月から五輪開催時期を経て長期で報じられた。東京五輪でもビーチバレーボール種目の女性選手のウエアを巡る問題などが注目され、この一連の報道を基点に、女性選手を性的な売り物にしたり、中傷したりする旧態依然な状況への社会的な反発が広がっているといえよう。一過性ではない、粘り強い報道が社会の風潮を変えていった好事例だ。
 スポーツ紙の記者ならではの視点で、選手に近い位置で感動する若手記者が1人称で、ネット媒体で書く挑戦をしている。五輪アスリートを人間的視点で追いかけた「池江璃花子の『誰にも泳いで勝てなかったとき』が意味する真のスポーツマンシップ」(東京スポーツ)だ。コロナ禍で取材が難しい中でも、選手の横顔に迫ろうと努力を重ねるスポーツ担当部署の頑張りに期待したい。
 昨年は大賞を受賞するなど応募が増えたジェンダーをテーマにした作品の報道と応募が定着する傾向にある。「東京都高校入試の男女別定員を巡る一連の報道」(毎日)では女性の合格ラインが高く、不利である可能性が報道されながら、決定打に欠ける中、情報公開で最大で243点差だったことをスクープ。廃止を求める署名運動も立ち上がり、署名が都教委へ提出され、ジェンダー平等の観点で重大な問題を指摘し、社会を動かす契機となった。「キャンペーン報道『女性力の現実~政治と行政の今』」(琉球新報)は国際的に遅れが指摘される政治分野の女性進出を、政策決定の場への女性の参加を阻む壁について、議員の経験や現場を可視化して検証し、変革の道筋を示そうと試みた。また、経済苦などを抱える母親を支援する「特定妊婦制度」に注目して、制度に絡む問題を可視化することで、マイノリティ性の高い、女性が抱える「生きづらさ」を浮き彫りにした作品が「困難を抱える妊産婦を巡る一連の報道」(共同)だ。非正規や貧困などジェンダー問題が背景にあって、女性が潜在的に抱えやすい問題を「自己責任」ではなく社会全体の問題として捉える視点を広めるきっかけとなった。
 長きにわたり、事実が積み重ねられてきた報道テーマでも、ジェンダー的視点ではこれまで語られてこなかった部分に光を当てた作品もあった。「被曝76年目の長崎原爆・平和報道」(長崎新聞)では、入社2年目で爆心地近くの小学校を卒業した女性記者が、95歳の女性被爆者の人生を辿った連載に取り組んだ。原爆の惨禍に加えてこれまで取り上げにくかった生理の問題など、女性の視点で被爆者に寄り添い、原爆報道を行った。10年目の節目を迎え、被災地で書き続ける地方記者たちが、原発事故や地域の復興に関わった人々の証言を残した「震災10年『証言あの時』」(福島民友)は新聞記事の記録性を意識した作品だ。震災直後に語られなかった事実を紡ぎ、復興を進めてきた当事者である福島県の地元首長を体系的に網羅したインタビュー手法は、震災報道の1つの基本として、受け継がれるだろう。
 デジタルシフトや合理化で全国紙が地方から撤退し、地方紙も要員を少なくする中、地域ジャーナリズムが過疎に陥る可能性がある。地域を担当し、コツコツと事件を追う、特ダネを書き続け、ジャーナリズムの基本を守り奮闘する、記者の存在や地方紙の姿勢が際立った作品も評価したい。疋田桂一郎賞の「長崎市の私立海星高いじめ自殺問題を巡る一連の報道」(共同)や「特ダネ記者の半世紀~県北取材メモから~」(毎日)は1人の地方記者が掘り起こした事件報道に関する作品だ。特に「特ダネ記者の半世紀」は、通信部記者、通信員などとして、地域に密着しながら地元の環境、鉄道開業など、往年の地域ネタの取材を振り返った記者に焦点を当てた連載は珍しい。この連載から、地域において記録し続ける記者の存在の重量感を感じさせ、あらゆる地域で生きる人々の姿を「記録し、伝える」ことの意義を問いかけられている。
 地域に根を張り、「地元の目」として、ジャーナリズムを、覚悟を持って、取り組もうとする姿勢を見せた報道が「『政治とカネ』のキャンペーン報道『決別金権政治』と一連のニュース報道」(中国新聞)だ。地元議員河井克行法相夫妻による大規模買収事件を検察の本格捜査の4カ月前に独自に報道。過去に多数の県議が絡む買収疑惑があり、「今回こそ根っこの部分から問い直す必要がある」という気概で80回を超える公判を詳報し続けている。地元に端を発しながらも、全国的問題として、地元を冷静に見つめながら俯瞰して政治とカネの問題を追いかける姿勢は、今後の地方紙が担う地域ジャーナリズムに期待される動きではないだろうか。
 今年も専門紙からの応募は伸び悩んだが、「風をつかむ~市場展望」(日刊建設工業新聞)の一点の応募があった。専門紙の果たす役割を鑑みながら、今後に期待する。

【選考委員】

安田菜津紀氏(Dialogue for People・フォトジャーナリスト)▽浜田敬子氏(前『BUSINESS INSIDER JAPAN』統括編集長・元『AERA』編集長)▽青木理氏(元共同通信記者・ジャーナリスト)▽臺宏士氏(元毎日新聞記者・『放送レポート』編集委員) 

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