ジェンダーの視点からみたメディア組織2(1995年5月)
放送レポート134号 1995年5月 (村松泰子 東京学芸大学教授)
メディアの中の性別役割分業その1 女性の多い部門・少ない部門
なぜ女性の数が問題なのか
前回の報告では、放送局・新聞社に働く女性について、全体としての比率や職位、雇用形態を問題にしたが、今回と次回で、それらのメディア内の数少ない女性が、どのような部門に配置され、どのような職種に従事しているのかを詳しく見ていきたい。
放送や新聞のメディア組織をジェンダーの視点からみて問題にするのは、そこに働く人々にとって問題だからだけでなく、その生産物であるメディア内容に組織の問題点が反映すると考えるからである。後者の問題意識に関しても、放送内容や新聞記事に直接関与する部門・職種だけでなく、これらのメディア全体の女性の配置が問題となる。その理由をはじめに述べておこう。
もちろん直接的には、メディア内容に関与する部門や職種 ー 新聞編集部門や番組の制作部門だけでなく、美術や技術部門の職種も含まれる ー に、女性と男性がバランスよくいることは、取り上げられるテーマ・問題や、それの見方、さらには表現のしかたなどに、男性と女性の経験や視点がともに反映するための前提条件である。単に、そうした職種の女性だけが、女性にかかわる素材や見方を選択し提供するだけでなく、女性がいることで男性が違う視点に気付き、取り入れていくというような効果も考えられる。
しかし、間接的だが、もうひとつの大事な点は、職場で、あらゆる職種•あらゆる立場に女性と男性がバランスよくいることによって、メディアに働く男女自身が、固定的な性別役割分業観から自由になれることである。反対に、メディア内の女性の存在が偏っているならば、女性のほとんどいない職種の男性が、女性という存在を無視したり、男性とは別種の人間とみなしたり、その職種の人に限らず組織内で一般的に、技術は男性の領域、補助業務は女性の領域などの固定的な見方が、当然とされてしまいかねない。
女性の数だけですべてが解決するわけではないが、率先して固定的な性別役割分業観を打破すべきマスメディアの内部が、強固な性別役割分業になっているならば、メディアの一部の記事や番組で男女平等を唱えても、その他の大部分で、おそらくは意識せざる女性差別がまかりとおってしまうだろう。
放送局・新聞社内の男女の性別役割分業の実態を、今回は各組織の部門構成に沿う形で見ていくことにする。
非管理職多い民放女性アナ
表1・2・3は、NHK、民放テレビキー局、地方局のそれぞれについて、部門別の女性比率と、女性・男性それぞれに占める管理職の比率を見たものである。NHK、民放キー局、地方局はそれぞれの規模・特性により、組織構造が違うので、部門の分け方は若干異なっている。また、ここでの管理職は課長級以上である。なお、民放テレビキー局の1社が部門別・職種別の人数については無回答であったので、今回の報告の分析対象は、前回より1社少ない111社である。
はじめに各表ごとに特徴を見た上で、全般的傾向を指摘することにしよう。
まずNHKについて見ると、女性の比率が10%を超えているのは、編成・営業・経理・総務部門と制作部門のみで、アナウンス部門がそれに次いでいる。報道部門は全体の人数が1,400人以上いる中で女性はわずかに4.3%にとどまり、近年女性の採用をはじめた技術部門ではまだ1%に満たない。女性の管理職はごく少数だから、以上の部門による女性比率の大小は、非管理職のみでもほぼ共通で、後者の状況が管理職・非管理職合計に反映している。
女性の管理職が若干いるのは、アナウンス部門と制作部門で、専門職的な職種の部門では、女性が少しずつではあれ管理職に昇進しているとみられる。もっとも女性・男性それぞれに占める管理職の比率を見ると、アナウンス部門でも女性アナウンサーの中の管理職の比率は2割以下で、男性アナウンサーの半数以上が管理職なのとは対照的である。ほかの部門もすべて、管理職になる割合は男性のほうがはるかに高い。編成・営業・経理・総務部門では、非管理職では女性は17.8%いるのに、管理職では1.7%にすぎず、女性の昇進の道はきわめて狭くなっている。
民放テレビキー局では、ほとんどの部門で女性は10%を超えており、とくにアナウンス部門では41.5%を占めている。しかし、技術部門だけはまだ3.9%にとどまっている。この傾向は、やはり非管理職の傾向を反映しており、非管理職では技術部門をのぞき、アナウンス部門の半数近く、その他の部門では20%内外が女性である。
アナウンス部門は管理職中の女性比率も10.0%ではあるが、男性アナウンサーの25.0%が管理職なのに対し、女性アナウンサー中の管理職はわずかに3.9%で、女性アナウンサーは圧倒的に非管理職である。制作・情報部門と、編成・営業・経理・総務部門は、管理職中の女性の比率がやや高く、女性に占める管理職の割合も同様である。ただし、報道・スポーツ、美術部門は非管理職の場合に比して、女性管理職が少ない。
地方局では、女性はやはり技術部門にはほとんどいないが、それ以外は報道・番組制作部門の14.2%に始まって、最高はアナウンス部門の42.0%まで、ある程度はいる。しかし、管理職に限るとアナウンス部門の8.0%が最高で、女性の大多数は非管理職である。女性中の管理職比率を見ても、報道・番組制作部門の8.3%が最高で、10%を超える部門はない。地方局では女性が多用されているが、昇進の道は狭く、その権限は限られているといえる。とくにアナウンサーは極端で、非管理職では半数近くを占めるのに、107局で計400人余のうちわずか11人、2.7%が管理職であるにすぎない。女性アナウンサーは、これまでいわば使い捨てで、つねに経験の少ない若い人で構成されてきたということだろう。「女性」アナウンサーに求められる役割が、男性とは異なり、経験ではなく画面の彩りとなる若さであることを表している。
ところで、表3には部門ごとに専任と兼任という数値が掲載してある。各部門内を職種別に見て、1職種の専任であるか、複数の職種を兼任しているかを区別したものだ。規模の小さい地方局の場合とくに、兼任者が非常に多いためである。職種別に見る場合は、1人の兼務している複数の職種のそれぞれで重複してカウントしているが、表3に示したのは、職種数は問わず兼任している人の実数に基づく比率である。その結果は、報道・番組制作部門で特定の職種の専任者より兼任者のほうが、女性の比率が若干高くなっている。この部門では女性のほうが兼任している場合がやや多いということになる。しかし、これ以外の部門では専任のほうが女性比率が高く、女性のほうが特定の職種に限定した働き方をしているようだ。これは、後述の新聞社の場合とかなり異なる傾向である。
女性の過半数は事務職
NHK、民放テレビキー局、地方局に共通の傾向をまとめると、女性はアナウンス部門と、編成・営業・経理・総務など事務系部門に比較的多く、アナウンス以外で番組に直接かかわる部門では1割前後しかいない。技術部門は、圧倒的に男性の職場で、女性はごく僅かに参入しはじめたばかりである。
NHK、民放テレビキー局、地方局は、この順で全社員中の女性比率が高くなるが、それは部門別に見ても同じで、全体として女性の少ない場合は、どの部門でも女性が少ないことがわかる。しかし、管理職中の女性比率、また女性の中の管理職の比率はともに、ほとんどすべての部門で民放テレビキー局が相対的に高く、民放地方局は女性の多用にもかかわらず管理職女性は少ない。ただアナウンサーだけは、民放はキー局・地方局を問わず、女性の管理職が少なく、NHKのほうが管理職になるまでアナウンサーを続けている女性が多い。女性の社員アナウンサーの扱いに民放とNHKで違いがあることがわかる。
このように、放送局で女性の配置される部門に関しては、放送に登場するアナウンサーと事務系職場は女性も相対的に多いが、それ以外の直接番組にかかわる部門は男性職場という性別分業になっている。図1には角度を変えて、NHK、民放テレビキー局、地方局それぞれについて、その全女性・全男性の部門別構成比を示した。
全国に放送局のあるNHKでは、男性は技術部門が4割近くと最も多く、女性は過半数が編成・営業・経理・総務部門である。男性は女性に比して技術が多く、女性は事務系が多いことは民放キー局、地方局でも同傾向であり、さらに男性は報道の割合が高く、女性はアナウンスの割合が男性よりも高いことも、NHK・民放を問わず共通している。
放送局に見られるもう1つの明らかな性別分業は、職位に関して権限をもつのは男性、もたないのは女性という形である。女性に管理職が少ないのは2つの理由が考えられる。男性を基準とした雇用システムとして、基本的に終身雇用制をとっている放送局では、勤続年数が一定程度に達しないと管理職にならず、女性の勤続年数が短いために管理職にならないということが考えられる。女性の側が結婚や出産あるいは育児や介護のために退職してしまうということもあろうが、放送局の側が女性をそのような労働力とみなし、そのような処遇をするため、もしくは、そうしたことがあっても働き続けられる仕組みになっていないためという面が大きいだろう。しかし、早期に退職せず、勤続年数が長い女性もいるのに、昇進に関し、男性と差別されている面も考えられる。制度的には男女差別がなくても、運用上、男女の処遇が異なっている場合のあることは、組合などの調査でしばしば指摘されているところである。
編集部門の女性は1割以下
表4・5に放送局と同様のデータを全国紙・地方紙に分けて示した。前回の報告と若干ずれるが、「全国紙」は通信社1社を含む計6社、「地方紙」はスポーツ紙、専門紙なども含む回答65社である。
全国紙の場合は、比較的女性が多いのは総務・経理部門の24.6%で、次いで事業部門・出版部門などでようやく10%を超えている。社員数のもっとも多い新聞編集部門の女性は8.1%にとどまり、次いで社員の多い製作•印刷•発送部門は圧倒的に男性の職場である。全社員3万人近くのうち、女性管理職は0.1%にすぎないから、以上の傾向は非管理職の中の女性の割合の大小をそのまま反映している。女性が比較的多い部門のうち、総務・経理部門と出版部門は、管理職も女性がかろうじて1.0%を超え、このわずかな数字でも他部門よりは高い。しかし、事業部門の女性管理職は全体の女性の比率を反映していないし、新聞編集部門は非管理職では女性が10.0%であるが、管理職では1%未満に過ぎない。部門別に女性の中の管理職比率を見ても、いずれでも管理職はほとんど例外的存在で、男性に占める管理職の比率とは開きが大きい。
地方紙でも、女性は総務・経理・管理・サービス部門に多く、次いで出版・広告・販売・事業部門に多く、製作・印刷・発送部門には少なく、傾向としては全国紙と同様である。全社員中の女性の比率は全国紙よりやや高いが、これは上記の事務部門の女性の数によるところが大きく、新聞編集部門の女性比率は全国紙より1%程度高いだけである。管理職中の女性、また女性の中の管理職の比率は、例えば新聞編集部門ではそれぞれ1.1%、3.0%であるなど、全国紙よりは女性が権限をもつ機会がやや開かれている。もっとも、男性に比べればまだまだ微々たるものであることは同様である。
全国紙・地方紙別に、女性・男性のそれぞれの部門別構成比を見たのが図2である。全国紙・地方紙とも、女性の総務・経理・管理・サービス部門の占める多さ、男性の製作・印刷・発送部門の占める多さが目立つ。ただ新聞編集部門の占める割合は、全国紙では男性より女性のほうが大きくなっている。女性社員の中では、かなりの部分が直接紙面にかかわる職種についているといえるようだ。
なお地方紙に関しては、各部門内での職種の専任・兼任に目立った傾向が見られる(表5参照)。「その他の部門」以外のいずれにおいても、兼任者は女性のほうが比率が高いのである。男性のほうがひとつの職種の専任であることが多く、女性のほうが、例えば1人で政治・経済・社会記事を担当するなどという形で、複数の職種を兼任することが多いことを示している。規模の小さい新聞社ほど女性が多いことが関係するのかもしれないが、これは同様に規模の小さい局ほど女性が多い放送局の場合には見られなかった傾向である。詳細は、次回の職種別の分析の際に見ていきたい。
技術•印刷は「男の仕事」か
放送局のアナウンサーを除くと、放送局・新聞社で、直接、メディア内容の生産にかかわる部門は男性の職場、間接的な事務部門の非管理職が女性もいる職場、という色分けが見られた。放送の技術部門、新聞の製作・印刷・発送部門は、これまでまさに「男の仕事」とみなされてきて、女性は今のところ、ほとんど例外的存在でしかない。機器の軽量化、コンピュータ化の進行などによって、これからは女性も参入するようになるだろうか。
こうした部門による女性比率の違いの傾向は、放送局・新聞社にかなり共通である。しかし放送局は、NHK、民放テレビキー局、地方局のそれぞれについて見れば、技術部門の低さと民放のアナウンサーの高さを除き、女性が各部門に比較的足並みをそろえて参入している。それがNHK、民放テレビキー局、地方局の順に、全体としての女性比率が高くなる傾向を生んでいる。
他方、新聞社のほうは、部門による女性比率の格差が大きく、製作・印刷・発送部門の低い一方で、全国紙の総務・経理部門が24.6%、地方紙の総務・経理・管理・サービス部門は31.4%など、事務部門の女性比率は放送局より高い。部門別の性別分業が放送局より顕著であるともいえよう。また、全体としての女性比率が全国紙より地方紙のほうが高いのは、各部門とも地方紙のほうが高いものの、とくに事務部門の女性比率が高いことによる部分が大きい。表4に示した全国紙の部門をまとめて見ると、総務・経理・管理・サービス部門の女性比率は全国紙21.3%に対し、地方紙31.4%、出版・広告・販売・事業部門が全国紙8.7%、地方紙12.0%である。
最も直接にメディア内容の選択・提示に関わる放送の報道・番組制作部門全体と、新聞編集部門について比較すると、NHK(美術部門を含むがその比率は低いと思われる)が7.9%、民放テレビキー局13.0%、地方局14.2%、全国紙8.1%、地方紙9.1%である。放送のアナウンス部門を加えると、NHK8.1%、民放テレビキー局15.4%、地方局20.6%となる。メディア内容に直接関わりうる女性比率は、民放地方局、次いで民放テレビキー局が高く、NHKと新聞が同程度ということになる。
狭い管理職への道
もうひとつの性別分業は、権限をもつ男性と、もたない女性という分配であった。女性の管理職への道が開かれるためには、非管理職の女性層の厚いことが必要だが、逆は真ではない。
NHK・民放テレビキー局の制作・情報部門、地方局の報道・番組制作部門は、他部門よりは女性が管理職になっている。勤続年数の長い女性がある程度いるのだろう。報道部門は、民放テレビキー局では非管理職の女性の割合に比して、女性の管理職はまだ少ない。NHKに至っては皆無である。この部門への女性の本格的な参入が近年のことであり、勤続年数がまだ短いためと思われるが、放送メディアの主要部分のひとつである報道部門に権限をもった女性の少ないことは、大きな問題である。
女性アナウンサーの管理職率は、NHKでは他部門より高いが、民放では非管理職の多さに比べ、管理職が少ないことは繰り返し指摘した。そして編成・営業・経理・総務など事務部門は、非管理職の女性の相対的な多さにもかかわらず、女性の管理職率が低いことは、NHK・民放にほぼ共通していた。
全般的に見れば、NHKは女性管理職がいる部門は限られ、民放地方局は女性の中の管理職率が全部門で10%以下である。女性の権限という点では、民放テレビキー局が相対的に進んでいるといえよう。
新聞社の女性管理職は、放送局に比べさらに少なく、女性の管理職率もきわめて低い。新聞編集部門は非管理職の女性はようやく10%台になったものの、管理職レベルに達する女性の層は薄い。また、放送局以上に非管理職の女性層の厚い事務部門でも、女性管理職は少ない。新聞社は、いまのところ放送局以上に男性中心の組織であるようだ。
メディア内の性別役割分業のもつ意味については、次回で改めて考えてみたい。