映画『主戦場』訴訟、勝訴!

「日本の表現の自由の勝利」

放送レポート295号(2022年3月)
岡本有佳 編

▲勝訴を喜ぶ監督と木下代表(1月27日)

 2022年1月27日、ミキ・デザキ監督のドキュメンタリー『主戦場』出演者5名が、監督と配給の東風とうふうを相手どり上映禁止と計1300万円の損害賠償を求めていた裁判の判決が東京地裁であった。ケント・ギルバート氏ら原告らは「監督にだまされた」「歴史修正主義者、否定論者とされ名誉を毀損された」などと主張していたが、柴田義明裁判長は原告らの主張すべてを棄却した。
 都内の司法記者クラブで開かれた記者会見でデザキ監督は「双方の意見を聞いた上での判断であることが大切。裁判の勝利は、日本における表現の自由の勝利だ」と安堵の表情を見せた。配給・東風の木下繁貴代表は、原告は名誉毀損と言っているが、支援サイトでは監督や配給会社を「懲らしめる(punishment)」としており、まさに懲らしめるための裁判と言えると述べた。
 弁護団は「判決は、全体の事実経過を丁寧に証拠に基づき認定していること」を高く評価した。岩井信弁護士は、法廷で原告らの証言に「ウソ」や事後的に作ったものがあったことが裁判所にも伝わったと思うと語る。88頁に及ぶ判決文を読むと、『主戦場』が公正に作られているかをむしろ証明したかのよう。数多の証拠を集め調べた弁護団と配給会社の方々の努力に敬意を表したい。「歴史修正主義、否定論者に対する評価等」については、原告らの社会的評価を低下させたとは認められないとした。さらに岩井弁護士は「仮に低下させることがあったとしても人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱するものといえない」との判断がある点が重要だという。また、争点の1つ、映像の引用をめぐる著作権法の解釈についても踏み込んだ判断がある。これらは論争的なテーマで映画を作ろうとしているクリエーターにとって大きな力にもなるだろう。
 会見で監督はこう付け加えた。「もし負けていたら、原告らは『慰安婦』自体がフェイクだと言ったと思う。そうあってはならないという重みを感じながらの裁判だった」。相当なプレッシャーの中の2年半だったはずだ。「慰安婦」問題報道が自粛傾向にある日本において、スラップ訴訟とも言えるこの裁判の判決は、広く市民に伝え「読み深めていく価値がある」と岩井弁護士。
 続けて、「熊谷警察へ詐欺等で刑事告発したり、上智大学への研究倫理違反の申し立ても同時に行っていることからも、戦略的に、上映させないようにする目的で民事訴訟をしたともいえる」と指摘する。言論を抑止するための民事裁判、まさにスラップ訴訟ではないか。その上、原告支援者らは『主戦場』自主上映予定の会場に貸さないよう要望書を出すなど妨害行為も続けている。米国ではこうしたスラップ訴訟(口封じ訴訟とも言われる)の防止法が整備されている。日本にはない。スラップ訴訟を起こされた側が被ったコストは、裁判費用だけではない。
 残念だったのは、この日の会見に日本の放送局が1社も来なかったことだ。当然報道もなかった。活字メディアもベタ記事ばかり。神奈川新聞の記事だけは秀逸だった。「スラップ訴訟」を抑制するためにはメディア報道が欠かせない。
 この日、原告らは控訴の意向を示した。岩井弁護士は「高裁でも同じ立場で判断していただけると確信している」と発言。監督は「判決が広がり、論争的な映画を勇気を持って作れる社会になればいい」とした。木下代表は「安心して『主戦場』を上映してほしい」と結んだ。

いいなと思ったら応援しよう!