ネット時代のメディアとは 講演・亀松太郎さん

放送レポート295号(2022年3月)
これは、1月17日にオンライン開催された日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)の業界展望研究会での講演の一部をまとめたものです。

若者は未来からの使者

メディア総接触時間の時系列推移(東京地区)
性別・年代別のメディア総接触時間(東京地区)

 私はもともと朝日新聞に入ったのですが、いろいろとネットの世界を渡り歩いて生きています。これからお話していくのは、基本的に私が経験してきたこと、その中で考えてきたものが大半で、自分なりに納得していることをお話していきたいと思います。
 まず、メディア利用の形態が非常に変化してきていることについてお話します。
 今日ご参加の皆さんにアンケートを事前にお願いしました。まず、参加者の世代を聞いています。この世代というのが、今後の私のお話の中で結構重要なファクターになります。40代を中心に、30代から50代、60代の方が少しいるということで、平均年齢では40代の後半ぐらいになると思います。20代はいないということです。
 次に、「ニュースを知るときに、どのメディアを使っていますか」という質問をしています。これはインターネット以前からある新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、そしてインターネット後をパソコン、タブレット、スマホの3つに分け、合わせて7つの選択肢を作ってお答えいただきました。もちろん皆さんはこれら複数を使い分けているかと思いますが、ここでの質問は「最も利用しているもの」です。これを見ると、40代後半を中心とするみなさんのような方々も50%がスマホとなっています。そして27%がパソコン、後がそれ以外ということで、75%がいわゆるインターネットに関わるものです。その次に多いのが新聞で、やはりその業界の方もいらっしゃるので新聞をあげている方がいらっしゃいますが、それでも1割です。残りはテレビ、ラジオとなっていますが、私が驚いたのはテレビが少ないということです。
 若い世代と比較してみましょう。私が大学で教えている学生に聞いたアンケート結果を見ると、やはりスマホが皆さんより多く、約7割。そして、タブレット、パソコンとあって、インターネットだけで75%ぐらい、先ほどの皆さんと同じです。ただ、スマホの比率がより高いのが20歳前後の人たちの答えでした。
 テレビの比率が意外と高く、2割あります。大学生に聞くと結構テレビを見ていて、まだまだテレビも影響力があると思っています。一方で、紙メディアは全く入ってきていません。聞くタイミングによっては新聞をあげる学生が1人、2人いることもあります。ただ、ニュースを知る手段として最も使うものに新聞が挙がってこないというのははっきりした傾向かと思います。
 続いて「次のインターネットのメディアサービスのうち、あなたが週1回以上利用しているものを選んでください」という質問では、複数回答ですが、一番多いのが「Yahoo!ニュース」で、7割ぐらいの人が答えています。私が意外だったのは、「LINEニュース」がとても少ないことです。18人中1人しかあげていません。それからSmartNewsや朝日新聞デジタル、NHK NEWS WEB、このあたりを4割ぐらいの方があげています。これも若い世代と比較すると比率が高いと言えます。それ以外、J-CASTや弁護士ドットコムなどのネットニュースは当然低くなるのですが、まあまあいるな、という感じでした。
 みなさんの回答で特徴的だと思ったことの一つが、AbemaTVが全然いないところです。若い世代にはかなりAbemaTVは見られているのですが、それがゼロです。あと、ニコニコ動画もゼロ。動画系の日本発のサービスですが、見られていない。後はTwitterが半分ぐらいです。他のSNSはあまり多くないですね。Facebookがもう少し少なくて、さらにInstagram、YouTubeは2割ぐらい。そしてTikTokはゼロです。このあたりは、学生とはだいぶ傾向が違うと言えます。
 学生のほうは、アンケートの質問が違うので少し結果が違うのですが、一般的な傾向からすると、朝日新聞やNHK、弁護士ドットコムなどは10%未満です。学生で1番多いのはLINEニュースです。Yahoo !はその半分ぐらいになります。さらにSmartNews はYahoo !の半分以下という傾向です。私はこの種のアンケートを7、8年やっています。かつてはYahoo!ニュースが1番でしたが、どんどんLINEニュースが伸びてきて逆転して、今はLINEがYahoo!を引き離している感じになっています。
 ただ、それにとどまらないんです。学生を見ると、ニュース系で1番多いLINEニュースよりも多いのがTwitterやYouTube。そしてLINEニュースとほぼ並ぶ形でInstagramがある。いわゆるSNS的なメディアを学生は非常によく使っていて、ここは皆さんとの大きな違いです。もう1つ、TikTokは皆さんではゼロですが、かなり今、伸びていて、アンケートを採るたびに増えています。学生にとってTikTokはかなり存在感を増しています。
 何が言いたいかというと、世代によって大きく利用形態が違っているということです。
 異論があるかもしれませんが、私はこのように考えています。「若者は未来からの使者である」と。若い人たちの多くが利用しているサービスは、今は全世代を通じた比率が低いとしても、今後、彼らがだんだん社会の主流になっていくにつれて、その比率が伸びていくと考えられます。私は今は関西大学、その前は早稲田大学で教えていたのですが、学生とある程度付き合いながらメディアの利用状況を見ていると、彼らが使っているものがその後、だんだんと社会の主流になっていくということが非常に多いと経験的に感じています。

テレビからスマホへ

 今日は、若者の話を少し入れながら、今後メディアの世界はこうなっていくだろうという見立てをお話します。
 まず、紙の新聞を読んでいる学生は本当にいない。もちろんネットニュースの中で新聞社が配信している記事を読んでいるということは頻繁にありますが、紙の新聞は本当に読んでいません。それが部数の減少につながっています。一般紙の発行部数は、2018 年から2021年までで平均して年間202万部減少しています。2021年の発行部数は一般紙全体で約3000万部ですので、仮にその減少ペースがそのまま続くと、15年後、2037年にはゼロになってしまう。
 現実にはある程度のところで止まると思うのですが、単純に今のペースがそのまま続いていくということもあり得るかなと思っています。なぜかというと、15年後は団塊の世代が90歳ぐらいになる。紙の新聞を支えている団塊の世代が90歳ぐらいになるということは、新聞読者がどんどん離脱していくわけですから、そうなると15年後ぐらいに部数がほとんどゼロになってもおかしくないと見ています。
 ではなぜ、このようなことが起きているのだろう。その背景を考えていきます。「若者は未来からの使者である」ということで、特に若者に注目した時の、メディアに関する変化を3つご紹介します。
 まず、1つ目の変化は「テレビからスマホへ」です。さきほども触れたように、テレビを見ている学生はまだ多い。ただ、それがどんどんスマホに置き換わっているという現象があります。博報堂の研究所が毎年調べているメディアの接触時間の調査があります。その2006年から2021年までの15年ぐらいのグラフを並べてみると、全世代の平均として、テレビの利用時間がだんだん少なくなってきている。一方でスマートフォンがどんどん伸びてきて、今やほぼテレビに匹敵するぐらいになってきています。
 このグラフの初期にあたる2007年はiPhone発表の年で「スマホ元年」と言われています。スマホが生まれてほぼ15年で、全世代の平均で見ても、スマホはテレビに並ぶぐらいのメディアになってきた。さらに言うと、パソコン、タブレットも含めたインターネット全体で見れば、完全にテレビを超えています。テレビ、ラジオ、新聞、雑誌という、かつてのメディアのトータルをインターネットが超えてしまったという現象が見て取れます。
 もうひとつの注目点は「総接触時間」が伸びているということです。2006年の段階では1日あたりの平均が330分、5時間 半ぐらいでしたが、それが今や450分。つまり7時間半ぐらいまで伸びている。スマホの伸びがメディア接触時間を伸ばしているということです。このようにメディアに触れている時間は延びているので、そういう意味ではメディア業界にとってチャンスがあってもおかしくないのですが、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌のパーセンテージは減っていますので、従来型のメディアはやっぱり厳しくなっています。でも、伸びている部分に注目すれば、メディアの世界全体は可能性がある業界だと考えられます。
 同じく博報堂の研究所の調査で、世代ごとのグラフがあります。これをみると、男性の20代はスマホが圧倒的に多い。女性の20代も同じで、テレビからスマホへ、というのは若い世代を見ると本当にはっきりしています。
 一方、男性の60代では、スマホの3倍ぐらいテレビが利用されている。新聞やラジオもそこそこあります。女性はもっと顕著です。女性の60代はテレビが250分近くあり、スマホと比べて4倍から5倍ぐらいの差で、圧倒的にテレビです。ですから、高齢世代はテレビ、20代はスマホということなのですが、「若者は未来からの使者である」ということは、これから「テレビからスマホへ」という傾向がどんどん強まると思います。
 これはコンテンツの良し悪しなどはあまり関係なく、純粋にデバイスの問題だと思います。それははっきりとスマホの所有率に表れていて、2010年の段階では東京でもスマホの所有率が1割も無かったのが、2021年には94%まで来ている。ほぼみんながスマホを持っている状態であれば、多くの人が便利なスマホのほうを見ていくということです。それによってテレビ、新聞、雑誌からネットへ、特にスマホへの移行が起きていて、今後はこの傾向がより強まっていくだろうと言えます。

増えるネット動画視聴

朝を除けばYouTubeの利用率は常につねに上位

 次に、2つ目の変化ですが、「文字から動画へ」。これも学生の間ではかなり顕著です。
 ネットの動画というと、Netflix、YouTube、TikTok、そしてAbemaTV、ニコニコ動画。あとは、テレビ系でHulu、またアマゾンのプライムビデオ、それからテレビ局の番組をネットで見るTVerなどがありますが、ネットで動画を見る人は増えています。さきほどと同じく博報堂の研究所の調査結果を見ると、ネットの定額制動画配信サービスの利用は、2016年の段階では1割ぐらいだったのが、2021年には5割近くまで来ていて、ネットで動画を見る、しかもお金を払って見る人が増えているのがはっきり出ています。
 東洋経済オンラインに昨年8月、「データが証明『YouTubeに食われる放送局』の実態」という記事が出ました。ネットに接続できるスマートテレビの視聴実態を調べたところ、テレビの地上波やBSなど電波による放送を見ている割合と、アプリつまりHuluやNetflix、アマゾンプライムなどと比較したところ、放送の番組を見ている比率が半分ぐらいあるものの、アプリを使って動画配信サービスを見る比率が増えていることがわかります。テレビで地上波やBSを見ている人は、だんだん減ってきているということです。
 別のグラフを見ると、YouTubeの利用率は、朝からだんだん上がっていって、夜の18時ごろと20時ごろにピークになり、また下がっていきます。一方、例えばフジテレビ系列は朝はすごく利用率が高いのですが、その後、がくっと落ちて低調になり、夜に再びあがってきてYouTubeと同じぐらいになってまた下がっていく。NHKは、朝はそこそこ見られていますが、昼間はぐっと下がっています。夜は上がってきますがYouTubeには負けています。
 テレビ全体で見ればYouTubeより利用率は多いのですが、NHKと民放各局のそれぞれの利用率とYouTubeの利用率を比較すると、例えばテレビ朝日よりはYouTube、あるいは日本テレビよりYouTubeのほうが見られているという結果になっています。つまり、YouTubeが民放各局あるいはNHKと匹敵する影響力を持っているのではないかという推定が働くということです。あくまでこれはスマートテレビを見ている人たちの比率なので、テレビの視聴実態そのものではないのですが、スマートテレビにおいて、NHKなどよりもYouTubeのほうがよく見られているというのは、ある意味、衝撃的かと思います。

ニュースもSNSで見る

 もうひとつ、3つ目のメディアの変化は「マスからパーソナルへ」です。「マスメディアからパーソナルメディアへ」と言ってもいいのですが、これこそインターネットならではの特徴です。
 先ほども紹介した学生のネットメディアの利用状況では、Yahoo!ニュースやLINEニュースよりもTwitterやYouTubeのほうが多い。そしてInstagramも相当多い。このTwitterやInstagram、YouTubeは、S N S、ソーシャルメディアと呼ばれるもので、個人が発信をして、それを別の個人が見るというものです。ですから、マスなメディアではなく、パーソナルなメディアといえます。
 最近はパーソナライズというものがどんどん進んでいます。個人に最適化したコンテンツが表示されるということで、タコツボ化しているとも言えるのですが、パーソナルなものを繰り返し見る傾向がはっきり出ています。また、SNSは必ずしも若い世代だけではなく、上の世代も使っています。SNSの利用率は、2021年末の推測値は8割ぐらいですから、まだ2割ぐらいの人が使っていませんが、恐らくこれは高齢の世代だと思います。ですから、SNSの利用率は今後さらに上がっていくと考えられます。
 具体的にどのSNSが使われているのかというと、日本の場合は圧倒的にLINEが多く、約8割の利用率です。あとはTwitterが4割、そしてInstagram、YouTube、Facebookという感じで、TikTokも入っています。アメリカなどではFacebookやInstagramがよく使われているのですが、Twitterが強いのが日本の特徴です。ただ、SNSも世代によってかなり利用率が違います。
 LINEは、10代は94%、20代も92%利用しています。一方で70代になると62%です。70代が60%以上使っているSNSもすごいと思うのですが、おそらく、孫とおじいちゃん、おばあちゃんがやりとりするものとして使われていることを示していると思います。圧倒的に強いLINEですが、やっぱり世代が上がるとだんだん減っていくという傾向があります。Twitterは10代は8割、20代は75%で、若い世代にかなり使われていますが、30代になると52%、40代は40%とどんどん下がっていって、70代は16%です。Twitterは本当に世代による差が激しいです。
 Twitterの利用率が今後どうなるのかは判断が難しいところですが、若者世代がだんだん歳をとっていって、しかもTwitterを使い続けているとすると、Twitterの利用率はもっと上がってくる可能性があります。いずれにしてもTwitterは若者に強いメディアであるということです。
 同じような傾向を持っているのがInstagramです。若干、Twitterより利用率は下がりますが、10代20代に強く、年代が上がるにつれて減っていくという傾向です。Facebookはおじさんメディアと言われたりもしますが、一番使っているのは実は30代、次に40代で、50代も多いです。ただ、30代が一番高いといっても4割ですから、LINEやTwitter、Instagramよりもだいぶ少ないと言えます。
 TikTokは10代に圧倒的に支持されてはいるのですが、それでもまだ3割。20代が13%、それ以外は1桁%で、とても少ない。しかし、TikTokは今後伸びてくると思います。若者が使っているから、というのもありますが、アメリカでは非常にTikTokが強く、YouTubeより利用時間が長いという調査結果も出ていますので、今後、もっと伸びるのではないかと思われます。
 では、なぜSNSを使うのか。ICT総研の利用動向調査によると、「知人の近況を知りたい」「人とつながっていたい」、あるいは「自分の近況を知ってもらいたい」が多いですね。あとは「写真などの投稿を見てもらいたい」ということで、自分の近しい人の情報を知ったり、自分が尊敬している有名人の投稿を見たりということと、自分のことを知って欲しい、ということです。
 パーソナルな状況を知り、パーソナルなことを発信する。それによってつながっていきたいということで、そのあいだにマスメディアが入っていない場合も多いわけです。個人と個人がつながるSNSというものが非常に支持されて、さらに広がっていっているという状況ですが、使う理由がそれを裏付けているのかと思います。

P&P

 これまでメディアの変化にかかわる3つの傾向を見てきましたが、それを背景として、ネットの中におけるメディアというものはどうなっているのか、全体構造をおさえておきたいと思います。
 先ほどのみなさんへのアンケートで選択肢として挙げた様々なメディアを2つのグループに分けます。私は「P&P」と呼んでいます。プラットフォーム(Platform)とパブリッシャー(Publisher)です。いろいろなメディアからたくさん情報を集めてきて見せるタイプがプラットフォーム、パブリッシャーはそのプラットフォームに対して記事あるいは動画を発信しているメディアです。
 例えばYahoo!ニュース、LINEニュース、SmartNews、ドコモが運営しているdmenuなどがプラットフォームにあたり、朝日新聞、 読売新聞、BuzzFeedなどはパブリッシャーに当たります。ネットにおけるメディアは、プラットフォームとパブリッシャーの2つに分けられて、それぞれが関係しあっている。これはメディアで働いている方からすると当然の構造だと思いますが、「知りませんでした」という学生が相当います。例えばLINEニュースで記事を見ていて、LINEが記事を作っていると思っていました、という学生が結構います。
 なぜ、このプラットフォームが重要なのかというと、そこにたくさんの読者がいるからです。たくさん読者がいるところにパブリッシャーがコンテンツを提供して、そこで見てもらおうということが行われています。
 例えばYahoo!ニュースは300以上のメディアから毎日約4000本以上の記事提供を受けて読者に見せているということです。毎日4000本となると、どんな大手メディアでもかなわない数字ですよね。ですから、ここに情報が集まり、人も集まるという構造ができています。LINEはさらにメディアの数が多く、800もあります。
 SmartNewsはもっと多くて3000以上ということで、非常に多くのパブリッシャーからコンテンツを集めて、それをたくさんの人に見せています。このプラットフォームが今、非常に力を持っているというのがネットメディアにおける最大の特徴となります。
 さらに、このプラットフォームはYahoo!ニュースのようなニュースサイトだけではなく、いわゆるSNSも含めて考えることができるのではないかと思います。学生に話を聞くと、Twitterだけを見 ていますという者もいます。ニュースについてもTwitterだけを見 て、その中で面白いものはクリックするということをやっているわけです。学生のアンケートでも、Yahoo!ニュースよりTwitterのほうが利用率が高いので、Twitterを中心に使いながらニュースを知るという学生がある程度いるだろうと考えられます。
 そういう傾向もあって、Twitterがニュースを強化しています。Twitterのニュースタブというのを見ると、まだまだ充実しているとは言い切れないのですが、Yahoo!のトピックスに近い機能を持っているのがわかります。Twitterの社内には、このためにトピックスを編成するチームもあります。そこで、例えば「今日は阪神淡路大震災に焦点を当てよう」という形でピックアップしたりしているわけです。ですから、Yahoo!ニュースもLINEニュースも見ないという人は、Twitterだけを見て、大きなニュースを知るということができるようになってきています。
 同様にYouTubeもニュースを強化していて、例えばYouTubeで「ニュース」と検索すると、テレビ局の制作したニュース動画がたくさん出てきます。これは結構良くできていて、今日のニュースがだいたいわかるようになっています。定時ニュースが朝、昼、夜と3回あり、それに加えて、突発的な出来事があったときにそれに焦点を当てたニュース動画もあります。その結果、YouTubeだけでニュースをある程度知ることができるようになってきています。TwitterやYouTubeは若者が今、非常によく見ているメディアなので、そこにニュースも出てきているということが言えると思います。
 SNSも含めたプラットフォームに対して、パブリッシャーがコンテンツを流して、そこで多くの人が見る。これはたくさん見てもらうという意味では良いのですが、いくつか課題があります。
 ひとつは、パブリッシャーからすると、プラットフォーム側に一生懸命コンテンツを流しても、それに見合った対価が得られない場合が非常に多いということです。例えばTwitterに記事を流して、いくらTwitterで見られても、一銭も入ってこないはずです。あと、自分の好きなものだけを見る傾向がどうしてもSNSにはあります。パーソナライズがあまりにも進んでしまった結果、SNSだけでニュースを知るようになると、世の中全体の動きがうまく把握できなくなるという問題も起きています。ただ、全体の傾向として、若い世代は圧倒的にTwitterやLINE、YouTubeを見ているわけですから、そこにニュースを流していかないと見てもらえないという構造ははっきりと出ていています。この流れはなかなか止まらないと考えられます。

今後伸びるメディアは

 ここまでのまとめとして、注目すべきメディアを3つあげるとしたら、TwitterとYouTubeとTikTokということになります。まずTwitterですが、ニュースという点で見たとき、非常に影響力を増していると感じています。若者にも非常に支持されているメディアですので、今後も影響力を伸ばしていくと思います。
 それからYouTube。「文字よりも動画のほうが見るのが楽だ」あるいは「動画のほうが情報を理解しやすい」という人が、若い世代ほど増えています。YouTubeは今も圧倒的に利用されているのですが、今後さらに伸びていく可能性があり、その中にニュースが入っていくことも十分考えられるかと思います。
 もう1つがTikTok。まだ日本では10代中心のメディアですが、最近、20代前半にまでかなり広がってきている印象です。アメリカの傾向などを見ると、もっと伸びる可能性があると思います。
 TikTokは、みなさんはほとんど利用していないようですが、ぜひ利用をおすすめします。YouTubeとは違う特徴がいろいろあります。例えば非常に短い動画を次々とザッピングしていけるなど、インターフェースが優れていて、そこに若い人が魅力を感じていると思います。
 YouTubeにはない魅力が若い世代に支持されているということを考えると、今後、伸びていく可能性が大きいと言えるでしょう。
 またTikTokにもテレビ局などがコンテンツを出していて、「ニュースをTikTokで見ています」という学生が最近ちらほら出てくるようになりました。ですから、若者にニュースを届けるという文脈 では、TikTokは今後、かなり重要になっていくだろうと思います。

広がるメディアの可能性

 最後に、今後のメディアの動向についてのキーワードをあげるとしたら、ベタな言葉ですが「デジタル✖️グローバル」ということだと思います。
 Twitter、YouTube、TikTok。これらも全部、海外のメディアです。今後、こういう海外のサービスが非常に影響力を強めていく可能性が十分あると思います。その一方で、このような海外メディアを活用して、日本の情報を海外にも発信していけるということが、今よりももっと進んでいくだろうと考えられます。
 その1つの例がNetflixのドラマ『新聞記者』です。アメリカ発で世界展開している動画配信サービスですが、先週『新聞記者』というドラマが配信されました。Twitterの反応などを見ると、かなり反響があると感じられますが、大きな特徴は、Netflixは最初から世界展開だということです。日本で製作された『新聞記者』というドラマがいろんな言語に翻訳されて、字幕がついて、それを世界各国の人が見ているという状況が既に始まっています。Twitterで「Netflix The Journalist」で検索すると、これを見た人たちの感想がいろいろ出てきます。Twitterは翻訳機能が付いているので、例えば「これはインドネシア語で、日本語だとこういう意味なんだな」とわかります。『新聞記者』を見た人が「インドネシアではこれはどのような法律の対象となりますか?議論するのが面白い」といったことをつぶやいている。これなんかを見ると、世界とつながっていることが面白いと思います。
 こういう「デジタル✖️グローバル」の環境の中で、日本のトラディショナルなメディアの人たちがどう関わっていけばいいのか。それがなかなか大変だというのはわかります。ただ、見方を変えると、どんどんメディアの可能性が広がっていって、面白い時代になっているなと思っています。
(まとめ・編集部)   

かめまつ たろう
東京大学法学部卒業後、朝日新聞記者になるが、3 年で退社。J-CASTニュース記者、ニコニコニュースや弁護士ドットコムニュースの編集長を経て、朝日新聞のウェブメディア「DANRO」の創刊編集長を務めた後、同社からDANROを買い取って再び編集長に就任した。現在はフリーランスのライター/ 編集者として活動しつつ、関西大学総合情報学部の特任教授(ネットジャーナリズム)などを担当している。

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