ネット対応は「補完」ではなく「別物」で 〜学生調査をもとに〜

放送レポート295号(2022年3月)
メディア総研所長・立教大学教授 砂川浩慶

コロナ禍で進むテレビ離れ

 コロナ禍を経て、学生のインターネット依存はますます進んだ。大学の授業で定点観測の調査を行っている。その結果からの実感だ。
 他方、「NHKプラス」や民放キイ局の同時配信の計画を見るにつけ、「誰が見るのか」と思う。また、ローカル局のYouTube公式チャンネルを見ると学生の意識とのミスマッチ感が強い。「未来からの使者」である学生の動きから、インターネットへの放送局のコミットを考える。
 昨年9月、担当している「メディア産業論」の初回で「メディア接触調査」を実施した。回答は73件、2年生が多い。
 「好きなテレビ番組はあるか」との問いへの答えは「ある」57.5%(42名)、「ない」42.5%(31名)だ。コロナ前は(「ある」が)8割を超えていたので、2割減となっている。コロナでテレビに視聴者が戻ってきたと言われるが、若者たちの“テレビ離れ”は進んでしまった。
 その一方、YouTubeに好きな番組・チャンネルがあるか、との問いには全員(回答56名)が「ある」と回答した。具体的な番組・チャンネル名を挙げてもらったところ、多岐にわたるジャンルが挙げられ、タイトルだけでは内容が分からないものが多数にのぼった。しかし、有料型のYouTube Premiumに加入しているか、との問いに「はい」と回答したのは73名中、わずか3名。有料モデルの難しさを感じる数字だ。

TVer「よく使う」は2割弱

 民放関係者がよく口にするTVerだが、その利用率は低い。73名の回答中、半数の37名が「たまに使う」、「よく使う」は13名(17.8%)に留まる。「使ったことはない」が23名(31.5%)だ。
 その理由を聞くと「TVerというプログラムを知らない」「そもそもTVerが分からない」「存在を認知していない」など認知していない回答が目立った。また、「TVerのことをあまり知らなかった。調べた結果、放送されたテレビ番組がスマホやパソコンから見れるものだと知ったが、そもそもテレビ番組をあまり見なくなってきているので今後も使わないと思う」「民放番組にあまり魅力を感じないことに加えて、友人間で話題にのぼることもないため」と今後の利用や民放番組そのものへの厳しい意見も目立った。
 TVer以上に「知らない」「使わない」のがNHKプラスだ。73名の回答中、「使ったことはない」が圧倒的多数の68名(93.2%)。「よく使う」は1名(1.4%)、「たまに使う」は4名(5.5%)だ。
 NHKが来年度から実施予定の、受信契約していない人もNHKプラスを見られる「社会実証実験」について聞くと73名の回答中、「知らない」が57名(78.1%)、「知っている」が15名(20.8%)とNHKプラスを使った経験は5名しかないのに、その3倍が「知っている」と答えているのだ。この背景には、将来的にインターネット利用から受信料を取ろうとしていることへの関心の高さがある。
 他のメディア接触では、「紙の新聞を読むか」には「読まない」46名(63.9%)、「たまに読む」24名(33.3%)、「毎日読む」3名(2.8%)。ラジオについては、最も多いのが「聞かない」28名(38.4%)。ほぼ同数の27名(37%)が「radikoでたまに聞いている」。「radikoでよく聞いている」の10名(13.7%)を合わせると“radiko”派が半数を占める。“電波”派は「たまに聞いている」7名(9.6%)、「よく聞いている」1名(1.4%)の11%となっている。
 Facebookの利用は「していない」62名(84.9%)、「している」9名(15.1%)だ。「していない」理由では、「周りに使用者があまりいなくて別に使う必要がない」(32件)、「必要性を感じない」(13件)、「ツイッターやインスタグラムで事足りる」(11件) 、「興味がない」(4件)、「個人情報を多く入れるイメージがあるため」(2件)、「おじさんおばさん世代が使っているイメージが強い」(2件) 、「匿名性のなさ」(1件)があげられる。「している」理由は「ビジネスに関する情報集めのため」「興味のあるトピックに関するコミュニティの存在」「知り合いとの繋がりを維持するため」「学校の先生方や、以前滞在していたアメリカのホストファミリーと繋がりがあるから」など、年上との関係性を得ようとする理由が目立つ。
 今年は履修者が2年生中心なのでこのデータだが、就活が本格化する3年生になるとFacebook利用者が増える。

テレビはなくなるか

 テレビの置かれる場所について「将来的にリビングルームからテレビはなくなるか」と聞いた。73名中、約4分の3、54名(74%)が「なくならない」との結果だった。その理由を聞くと「テレビには根強いファンがいると思うから」「テレビを情報収集の手段として利用する人はいなくならないと考えられるため」「テレビ番組からの家族団欒の時間はこの先もあると思うから(例えば、大晦日だと家族で紅白を見るなど)」など、根強いファン、情報収集の手段、家族団欒といったキーワードが多い。
 面白いのが“なんとなく”との回答。「なんだかんだで見たい番組は残っている可能性が高いから」「なんとなくあり、なんとなく点けるの文化はなくならないと考えるため」「なんとなくで流しておきたいときがあるから」などだ。
「なくなる」(26%)との理由は「テレビの役割を携帯が十分果たしているから」「現時点で自分はほとんどテレビを見ないため、将来的にそのような人が増えるのではないかと思った」「今テレビを持っていないが、充実しているから」など。YouTubeが代替するとの意見も目立った。「YouTubeに代替されると考える。その理由についてテレビは場所や時間帯を選ぶが、YouTubeはその障壁をなくすため」が代表的意見だ。

ローカル局再生の研究

図表1 ローカル民放YouTube公式チャンネル登録数(2021年6月現在)

 このようなメディア接触調査とともに、私が指導した卒業研究「ローカル局再生の鍵〜 YouTube戦略と展望〜」を紹介しておきたい。
 このレポートは民放テレビ127社中、東名阪15社、独立13社を除いたローカル民放99社のYouTube公式チャンネルを分析したものだ。2021年6月時点でBSS山陰放送以外の98社が公式チャンネルを開設していた(BSSも12月から開始)。その登録者数上位10社を図表1に掲げる。この学生は「北海道テレビ放送こそ9万人近くの登録者がいるが、他は登録者数の獲得に苦しんでいる。キイ局の公式YouTubeチャンネルの登録者数である、TBSテレビ52.9万人/日本テレビ放送網62.3万人/フジテレビ28.9万人/テレビ朝日59.7万人/テレビ東京114万人、と比べても、ローカルテレビ局は登録者数が伸びていないことが分かる」と分析している。
 この上位10社の再生回数上位10コンテンツ100をカテゴライズした。その結果は「バラエティ(芸能人)」30、「地域ニュース」13、「地元人」11、「ローカルバラエティ」11、「地域ドラマ」8などとなっている。いちばん多い「バラエティ(芸能人)」は「全国ネットに出演するような芸能人が地方でレギュラー番組を持っているケースで、YouTubeでも同様のコンテンツを配信している。ランキング上位の放送局ほとんどが「バラエティ(芸能人)」で視聴数を稼いでおり、静岡朝日放送は9/10、熊本朝日放送は10/10を占める」と分析している。

放送界経営者の高齢化

図表2 奥律哉・電通総研フェロー資料抜粋
図表2 奥律哉・電通総研フェロー資料抜粋

 このような学生のメディア接触とYouTube分析から見えてくるものは何かを考えてみたい。NHKプラスの契約数は122万件(2021年2月末)でそれ以降は明らかにされていない。2020 年度決算での受信契約件数は4059万件であり、3%に過ぎない。2021年10月の日本テレビをはじめとして在京キイ局も同時配信の取り組みを進めているが、TVerの新アプリ開発の遅れなどで、現時点では「今年度中の開始」しか分からない。テレビ番組の同時配信ではネックと言われた著作権処理を円滑化する(条文自体は難解極まりないのだが)著作権法改正も行われ、“国策”の様相を呈している。
 しかし、学生の調査結果や日常的に接している感覚からも「同時配信にニーズはない」。既にテレビが大好きなM3、F3層はテレビで見ており、わざわざ小さい画面でネット経由では見ない。若者は「定時同報」を待てないので、ニュースであればその時点で必要なコンテンツをネットで探す。7時のニュースまで待つなんてことはあり得ない。つまり、ネット配信を心待ちにしているユーザーの姿が見えないのだ。それでもテレビ離れが言われる中、同時配信をスタートせざるを得ないことは分かるが、その効果は極めて限定的だと考えるべきだ。
 学生と付き合ってつくづく思うのが、発想についていけないことだ。58歳のおじさん(おじいさん)である私はついていけない。ここで思うのが放送界経営者の高齢化だ。日枝久・フジテレビ取締役相談役は84歳、早河洋・テレビ朝日代表取締役会長は78歳、前田晃伸・NHK会長は77歳、大久保好男・日本テレビ代表取締役会長(民放連会長)は71歳。それぞれ立派な人物であるから今の地位を占めたことは間違いないが、取り巻きも含めた忖度やおもねりも含めて考えれば、ネット対応で辣腕を振るのは無理だ。
 先日1月8日の『週刊フジテレビ批評』に出演した金光修・フジテレビ代表取締役が、ネット対応で「補完」という単語を連発していた。金光さんが優秀なのは個人的にも承知しており、だから日枝さんから社長に抜擢された。しかし、今必要なのはネット対応を「補完」ではなく「別物」として扱う人材であり、経営者はその人材を発掘し、権限を与えることだ。
 旧知の奥律哉・電通総研フェローは総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」の第1回目(2021年11月8日)で「テレビ視聴環境の現状と課題」をプレゼン。図表2のように「同時配信と並行して検討したい 若年層のカジュアル動画視聴」として「YouTubeで動画を選ぶ際には、映画・音楽・スポーツといったジャンルで選ぶのではなく、“本編”や“名場面・メイキング・まとめ系”といった『フォーマット』志向で選ぶ若者が多い。彼らは同一フォーマットの中でいくつものジャンルを横断して動画を見ている」と分析している。私が接している学生と同じ皮膚感覚だ。
 「変革は辺境から起こる」。自らのメディアの強みを踏まえた上で、テレビの成功体験からどう脱して、新たな世界を生み出すか。テレビの力が問われている。

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