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発表!新聞労連ジャーナリズム大賞

放送レポート289号 吉永磨美 Yoshinaga Mami 新聞労連委員長

苦しんでいる人のエールに

 優れた報道を表彰する「新聞労連ジャーナリズム大賞」の2020年度第25回の授賞式が1月19日東京都内で開かれた。受賞作品は応募された40作品(16労組)から、第15回疋田圭一郎賞と合わせて計9作品。いずれの作品も甲乙つけ難く力作ぞろいで、審査は難航し、新聞ジャーナリズムの底力を感じさせるものだった。大賞を中心に、受賞作品や受賞した記者たちを紹介する。

●大賞「子どもへの性暴力」(朝日新聞「子どもへの性暴力」取材班)

「魂の殺人」とも呼ばれ、受け止める社会の認識が不十分なままでタブー視されてきた性暴力について真正面から向き合い、被害の実相をセンシティブに描写するとともに、被害者の声や心に沿って丁寧に綴られた作品。被害について名前や顔を出して、当事者が語る姿を掲載した。被害の認識を持って助けを求めることが難しく、なかったことにされることも多い「家庭内の性暴力」の実態をアンケートで可視化した。
▼受賞者 朝日新聞東京社会部 大久保真紀編集委員
 取材は当初、自分を含めた本社や部署の違う5人の取材班で、17年12月から取材準備を始め、連載は19年12月からスタートした。被害の当事者や自助グループ、専門家に取材し、多角的に問題を捉えることに努め、アウトプットの仕方を考えた。取材を進める中で、実名で顔出しが可能な当事者がいることに気づいた。被害を語り出せるのは30年、40年経ってからじゃないと話せないという現実があり、被害の大きさの表れだと思う。社会的に詳しく知らされず、見えにくい被害について、どこまで細かく書くのかについて議論もあったが、丁寧に証言を拾いながら、被害の実態を知らせることが必要だと考えた。また、被害を受けて何を思ったのか、生活がどうなって、何に苦しんだのか、どのようにしてこの問題と向き合っているのか、そしていまはどのような思いでいるのかといった視点で、当事者の生き様を描いた。しっかりと事実を報じることで、社会が性暴力被害の恐ろしさを認識し、被害に立ち向かうことについて考えるきっかけになり、同時にそれが、現在苦しんでいる人へのエールになればと考えている。取材班にいただいた賞というより、紙面に登場しなかった人を含め、勇気を持って自らの被害を語ってくれた方々への賞だと思う。みなさんに伝えると、たいへん喜んでくれた。これからも取材を続けていく。

●大賞 連載・エンドロールの輝き―京アニ放火事件1年/連載・ユートピアの死角―京アニ事件(京都新聞編集局報道部「京アニ事件」取材班)

「エンドロールの輝き」は、19年7月に起きた京都アニメーション放火殺人事件で犠牲になったクリエーターの足跡を辿って「生きた証し」を記録し、事件の悲惨さや命の尊さなどを伝えた作品。被害者報道において、実名匿名の賛否両論が巻き起こる中、難しい遺族取材に取り組んだ。「ユートピアの死角」は、憧れのアニメ制作現場の働き方など構造的な労働問題にも切り込み、立体的に事件の実相を浮かび上がらせた。
▼受賞者 京都新聞編集局報道部 岸本鉄平記者
 京アニ事件を発生当初から取材してきた。昨年4月に警察担当から遊軍担当に変わって以降は、同僚の本田貴信記者と2人で事件を多角的に追い、それを連載にまとめた。
 犠牲になったクリエーターたちはどんなこだわりと誇りを持ち、アニメ制作という仕事に打ち込んできたのか。連載では犠牲者の実像を「実名」とともに詳報した。京アニ事件では被害者を実名で報じる報道機関に批判が集中した。被害者をどう報じるかについて「実名か、匿名か」と単純な二元論で語るには限界があると感じている。遺族の意思やその理由、誹謗中傷といった二次被害が生じる恐れの有無など、個別の事件、個別の被害者ごとに丁寧に考える必要があると思う。遺族を取材すると、警察から伝えられていたのと異なる声を耳にするケースもあった。遺族を取材することの重要性を改めて実感する一方で、悲しみの淵にいる遺族へのアプローチの仕方については手探りの状態が続いている。
 いずれにしても、犠牲者の足跡を引き続き紙面に刻むとともに、いずれ開かれる刑事裁判に向けてしっかりと準備したい。社会を震撼させた未曽有の事件だ。10年、20年かけてでも、その「実相」に迫り続けるのが地元紙の責務だと感じている。

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▲朝日新聞の大久保真紀編集委員(左)と京都新聞の岸本鉄平記者

当事者に寄り添う記者たち

 今回の応募作品は、新聞のデジタル化が進み、記者個人の表情や体験を織り交ぜながら、長めの文章で綴る新しい手法に果敢に取り組んだ記事や、綿密な取材を元にした記事と多彩なデザインを組み合わせビジュアル的な効果を狙う、新聞紙面ならでは、といった作品が目立った。
 連載やキャンペーンを通じて、声なき声を社会に届けて、問題解決の緒として、政府の政策立案過程にこぎつけた作品やスラップ訴訟を抱えつつも、書き続ける骨太のジャーナリズムを追求する記者の姿に、新聞が持つジャーナリズムの可能性を感じた。授賞式ではどの受賞者も、取材した当事者に対する感謝や、受賞が取材対象者にも贈られたものだということを述べた。受賞に驕らず、当事者に寄り添う記者たちの姿勢に胸が打たれた。
 昨年は戦後75年の節目で、丹念に資料や証言を集めて裏取り作業を丁寧に進め、戦争の悲惨さ、理不尽さを伝える作品が目立った。
 特別賞の〈戦後75年 証言掘り起こし「戦争死」の実相を探った一連の報道〉(琉球新報)は、南洋諸島までの戦闘、対馬丸撃沈、沖縄戦までの一連の流れについて、新証言や調査報道を積み重ねた。体験者が減少の一途を辿る中、戦争における死の実相を実際に目にして聞いた当事者しか語れない、生々しい証言を克明に記録したこの作品は歴史的資料という意味でも貴重で、後世に残るものになるだろう。新聞のジャーナリズムが持つ「史実の記録」としての意義を改めて感じさせる作品だ。
 また、疋田賞の〈記者 清六の戦争〉(毎日)は、日米激戦の地フィリピン山中で発行されていた陣中新聞『神州毎日』を書いた伊藤清六の生き様と新聞社の報道を、身内の記者の視点から描いた作品だ。散逸した記録を探し出し、証言を求めて、岩手、南京、フィリピンなどを歩き、8年がかりの取材で仕上げた労作。新聞社と軍部の関係、戦意高揚による部数拡張といった負の歴史を綴ることで、戦後のジャーナリズム論の「権力とメディア」の関係について、考えさせられる。

「反差別」に特別賞

 優秀賞は、低所得、生涯未婚率、離婚率が高い沖縄地域の実情を背景に、失業や病気など困難に直面すると社会的に孤立してしまう親子の実態や背景を浮かび上がらせた〈連載・「独り」をつないで―ひきこもりの像―〉(沖縄タイムス)▽通学や仕事をしながら家族の介護をしている未成年の子どもたちの実態を独自調査した結果を1面で詳報し、未解明だった幼き介護の実態を丹念に追った〈ヤングケアラー 幼き介護キャンペーン〉(毎日)▽交通事故による後遺症で、眠ったまま学校に通う重度障害者の少年と家族や仲間などを丁寧に追った〈眠りの森のじきしん〉(神戸)の3作品が選ばれた。
 このほか、川崎市の在日コリアンの殺害を宣言する脅迫はがきの差別事件を詳報するなど、県内のヘイトスピーチを行う団体の動きなどを連日報道している〈「時代の正体・差別のないまちへ」など、一連のヘイトスピーチに抗う記事〉(神奈川)に特別賞が贈られた。一連の記事について、スラップ訴訟2件を起こされている石橋学編集委員が「差別に抗い、差別をなくそうと行動をしてきた人たち、反差別に携わる全ての人たちへの顕彰だと受け止めている」と授賞式で力強くスピーチした。

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▲神奈川新聞の石橋学編集委員

 さらに、山口県宇部市の消防職員の自殺をめぐる問題で、背景にあるパワーハラスメントや金銭問題の実態を告発する遺書の中身を詳報し、行政側が隠蔽しようとする動きに一石を投じた〈消防職員の自殺問題を巡る一連の報道〉(共同)は疋田賞を受賞した。

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