「統一教会」問題とメディア 〜カルト宗教への対応の見直しを〜

紀藤正樹弁護士インタビュー

放送レポート298号(2022年9月)

抗議文も提出したのに

―― 安倍元首相銃撃事件の容疑者は、母親が旧統一教会に入信して家庭が崩壊したと報じられています。旧統一教会による被害の実態はどのようなものでしょうか。
紀藤 この問題に、私は弁護士になった1990年から関わっていますが、財産はすべて献納しなければならないという教えなので、自分の財産を提供して、足りなければ夫の貯金も引き出して、とにかく統一教会に献金する。それで、夫婦仲や親子の仲が断絶する。親子というのは、容疑者と母親の関係だけではなく、母親と母親の両親、容疑者から見れば祖父母とも断絶することも多く、ギャンブルにのめりこむ被害と同じように、言わば献金という浪費を繰り返すような形になります。本人は喜んでやっているように見えるのですが、周りは巻き込まれて、家族ともども悲惨な状態になるのがよくあるケースです。
―― 銃撃事件の容疑者は、安倍元首相のことを「現実世界で最も影響力のある統一教会シンパの1人」と見ていたことが報じられています。安倍元首相と旧統一教会の関係をどのように見ていますか。
紀藤 安倍元首相は統一教会の集会に繰り返し参加し、また祝電やビデオメッセージを送っていました。昨年9月には、私たち全国霊感商法対策弁護士連絡会が、安倍元首相宛てに賛同メッセージなどを送らないことを求める公開抗議文を送っています。2018年にも、安倍元首相をはじめ全ての国会議員宛てに「家庭連合(旧統一教会)からの支援を受けないでください」とする声明を送付しています。
 ところが、安倍元首相は関係を解消するどころか、昨年9月にビデオメッセージを送って、さらに関係性が深まったように見えます。アメリカのトランプ元大統領と並んでビデオを送っているので、影響力が大きいように思われます。

▲昨年9月に安倍晋三元首相に送った公開抗議文
▲2018年に全ての国会議員宛てに送った声明

性差別的な教義と親和性

―― かつて「霊感商法」を各メディアが追及していた時期もありましたが、それからこれまで、旧統一教会をめぐる状況はどうだったでしょうか。
紀藤 この間も霊感商法は続いていて、事件になったり、裁判で判決が出たりすることが何度も繰り返されました。裁判で勝訴したという報道もあります。2007年ぐらいから摘発が相次いだので、その報道もありましたが、1992年の合同結婚式や、1995年のオウム真理教による地下鉄サリン事件の報道に比べると、圧倒的に量が少ないです。
 そのため、2000年代以降、次第に統一教会が政界に浸透していきました。男女平等、男女共同参画推進条例に反対する運動です。地方自治体への反対の働きかけが広がるのに合わせて、政界に進出していきました。
 統一教会は、教義上「男らしさ」「女らしさ」を推奨する宗教団体なので、そういうものを否定する男女平等やジェンダーフリーには反対なのです。また、今の性教育が行き過ぎているという「純潔キャンペーン」でも政界に進出していった。そういう反対運動を繰り広げた結果、それが一部の自民党などの保守系政治家たちに受けた。たとえば、井上義行参院議員がLGBTへの差別発言を行いましたが、これもその一環です。
 統一教会の教義は、神が男女を作り、エバが先に堕落した。女性の方が男性を支えなければならないという教義ですので、教義自体が非常に性差別的で、エバが先にサタンと姦淫して、血が汚れた体でアダムと性交渉したからアダムも汚れた、それが原罪なのだという主張です。悪いのは女性で、女性がまず罪を清算しなければ男性も清算されないという教えなので、「逆の道をたどる」として、女性が男性を立てなければならないというのです。男権社会と教義的なものが一致しているので、異性愛以外はダメだし、韓国はそもそも夫婦別姓なので論理的にどうつながるのかわかりませんが、選択的夫
婦別姓もダメなのです。そして、反共主義です。
 その表向きの統一教会の主張が家族保守層に受けているわけです。統一教会はお金も人も出せるので、政治家たちも利用しやすいと考えたのでしょう。自民党、維新の会や国民民主党の一部の政治家には親和性があるのだと思います。

自民党全派閥から推薦人

―― 盛んに報道されていた当時も、日本の政治家たちと統一教会との関係については、報道が少なかった印象がありますが。
紀藤 そうでもありません。1993年ころ、新井将敬衆院議員(のちに自殺)が統一教会から支援を受けていたことを認めた報道がありました。1992年の文鮮明教祖の来日のときなども、政治家との関係についての報道はあります。ですが、政治家が統一教会と恒常的な関係を断つようになるほどの報道にはなりませんでした。
 1992年の合同結婚式とそれに先立つ文鮮明教祖の来日のときに、自民党が深く関わりました。自民党の全派閥から推薦人を1人ずつ出して、来日させたのです。金丸信氏がとりまとめました。合同結婚式はかなり批判されたので、その後政界とのつながりがうまくいかない時期がありました。それが2000年以降の男女共同参画推進条例への反対で、再び政界に食い込んでいったのだと思います。
 文鮮明の来日の年に、ソウルで合同結婚式が行われました。来日できたことで、日本で統一教会の活動が許されていると勘違いした可能性があると思っています。

▲紀藤弁護士の著書「カルト宗教」
▲紀藤弁護士の著書「決定版 マインド・コントロール」

30年に2回の大事件

―― 今回の銃撃事件を受けて、メディアにどういう報道を期待しますか。
紀藤 まず、統一教会がいかに反社会的であるかということを、きちんと報道してほしいと思います。 
 それから、統一教会は反省して出直したようなことを言っていますが、過去の被害にまったく向き合っていません。悪徳商法で問題を起こした企業だって、不祥事を反省し謝罪したりするだけではなく、過去を清算するために賠償金を支払うなどしています。
 ハンセン病やHIVなど国の責任が問われた問題では、国はきちんと被害者に賠償金を払っています。オウム真理教だって、不十分ですが、それでも被害者側に月々、賠償金を支払っていた時期がありました。
 統一教会をめぐる問題では、泣き寝入りしてきた被害者が膨大な数に上ります。その一人ひとりの家族に悲劇があるわけで、その悲劇に向き合わないから、今回の事件の遠因を作ってしまう。表向きの謝罪だけではなく、過去の賠償をするところまでいかないと、統一教会が過去に起こした罪の精算はできないと思います。
 もう1つは、政治家や芸能人、著名人が講演などでつきあうから、信者の士気を上げることになり、それが新たな被害者を増やすことにつながります。そういう関係をつくることで、一見いい活動をしているように見えて、メディアも取り上げなくなるのです。統一教会の問題を知った以上は、きちんと決別してもらいたい。
 関わった人は、どうして統一教会と関わるようになったのか、情報公開していただきたい。統一教会が政治家や芸能人にどうやって浸透していったのかを具体的に明らかにすることで、再発を予防できるようになります。情報公開がないと検証可能性がないので、同じことを繰り返すことになると思います。
 そして、反社会的なカルト宗教の問題を、日本という国はきちんと認識すべきです。自民党に限らず、みんなの見方が甘いから、今回のような事件が起きてしまう。
 地下鉄サリン事件は、オウム真理教というカルト的宗教団体が首都を攻撃したという、世界的にも例をみない事件です。そして今度は、統一教会というカルト的宗教団体が絡んで、憲政史上最長の首相経験者が暗殺されるという、前代未聞の事件が起きてしまった。たった30年の間に、カルトが絡む世界的大事件が2回起きるということ自体が異常です。
 これは、反社会的な宗教団体に政治も国も向き合っていないからです。最終的には国民の問題ですが、政治家のアンテナがあまりにも狭い。ある意味で、市民やメディアなどよりも社会のことを知っているべき政治家が、カルトへの認識が甘いのです。政治家のカルトへの対処がもっと厳しければ、警察やメディアなどへ反映するはずです。みんなが意識をもてば、今回の事件はなかったでしょう。

カルト宗教対策の見直しを

―― 世界に例をみないということは、欧米と日本とはどういう違いがあるのでしょうか。
紀藤 ヨーロッパはナチスを経験して、カルトに対する非常に厳しい認識があります。フランスではマインドコントロール的な手法を犯罪化としていますし、ドイツでは統一教会を名指しにして警鐘を鳴らすパンフレットも作られています。人権侵害をするような団体に対する問題意識が非常に強いのです。オウム真理教や統一教会のような団体が大きくなる前に、摘発するか解散させるような法整備を用意しています。
 アメリカでは、1984年に文鮮明が逮捕されたということもあって、露骨に活動できない。だから、日本だけが取り残されてしまった。日本で地下鉄サリン事件が起きた時、アメリカは連邦議会がオウム真理教のアメリカの支部の信者を呼んで調査までしていますが、日本の国会はやっていません。
 ヨーロッパでは、地下鉄サリン事件と同時期に太陽寺院事件という集団自殺が起きて、議会でカルト問題を検討・調査しています。私もフランスやベルギーの議会などに行きました。日本だけが、与野党問わず議員の感覚が鈍かったのです。共産党も公明党も過去に弾圧された歴史があるから、宗教団体への取り締まりを強化すると、万一自分たちにも返ってきてしまったら、という懸念があったのではないかと思います。
 ヨーロッパではカルトに対して、宗教中立的な言葉として「セクト」という表現を使いますが、今回の問題は、反社会的な集団と政治のあり方の問題です。一般の「宗教」と政治の在り方の問題ではありません。統一教会は反社会的な団体で、その反社会性を拭う努力もしていない。嘘も平気でつくし、信者同士の殺人事件すら起きています。締め付けが厳しいカルト的な団体で、反省なく同じことを繰り返している。今回の事件を契機に、政府は、カルト的宗教団体に対する対応を見直してほしいと思います。
 現れている現象に法律で対処していけば、カルトは消滅できるというのが欧米の考え方です。ところが、日本は現象に対して法を厳正に適用しないのです。たとえば、霊感商法を脱税で摘発しない。
 信教の自由の万能論が根強いのは戦前を引きずっている面もあるのではないでしょうか。戦前のような神道の絶対的な無謬性を守るためには、信教の自由が絶対的に守られているほうがいいわけです。権利としてたたかって信教の自由を勝ち取るのとは方向性が違います。
 信教の自由は、本来、個人の信教の自由を守るためのものです。個人の自由な意思や信教の自由を侵害するカルトに対し、信教の自由を理由にカルトを守るのは本末転倒です。日本は国際的にも信教の自由の感覚が違うのです。
 離脱した信者や信者の2世・3世の相談窓口も必要です。今回の事件も、相談窓口がなかったことも要因の1つでしょう。
 今回の事件については、国会で調査委員会を開いて、発生から原因までをきちんと調べて欲しいと思います。「捜査中だからコメントできない」と逃げるのではなく、それでも調査するのが議会の仕事だと思います。日本だけに起きる現象だということに、もっと異常性を感じてほしいです。
―― ありがとうございました。
(まとめ・編集部)

紀藤 正樹きとう まさき
1960年山口県生まれ。リンク総合法律事務所所長。
日本弁護士連合会消費者問題対策委員会幹事ないし委員を
1992年からつとめ、「ダイヤルQ2」「宗教と消費者」
「電子商取引」「消費者行政」部会の担当副委員長等を歴任。
全国霊感商法対策弁護士連絡会事務局長代行等、多数の弁護団に所属。

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