メディア総合研究所 所長就任のごあいさつ

放送レポート296号(2022年5月)

 4月からメディア総合研究所の所長になった谷岡理香と申します。
 3月まで約20年大学の教員をしていましたが、初職はローカル局(テレビ高知)のアナウンサーです。その後、東京でフリーランスとして活動し、小さなアナウンサープロダクションの経営にも20年近く携わりました。つまり、20代は正社員、30代フリーランス(見方によっては非正規と捉えられる)、40代経営と、放送業界において色々な立場で仕事をしてきました。
 ローカル局に入社したのは、男女雇用機会均等法の前です。結婚すると女性は退社することが会社の「不文律」になっていました。東京に移ってフリーランスで仕事を始めた頃は、私の薬指の指輪を見て「なんだ。結婚してるのか」と何度か男性ディレクターに言われ、「そうか。東京では、結婚指輪は外しておくべきなのか」などと思ってしまった私です。今ならどちらも笑い話でしょうか。
 一方で、放送界で働く女性たちの悩みや課題が、私の時代から変わっていないと感じることも多くあります。長時間労働、(制度はあっても)取りにくい育休。子育てと仕事の両立の困難は女性のほうが抱えているのが現実ですし、「マミートラック」に移行させられることへの不安もあるでしょう。最近は、そうした悩みを共有する男性が、かつてより増えていることに希望を見ます。
 また、私自身結婚前の氏で仕事を続けましたが選択的夫婦別姓の道はなかなか開けません。最初の提訴は1980年代です。
 変わらないどころか、近年やっと明らかになったこともあります。メディア産業で長年蓋をされてきたセクシュアル・ハラスメントが可視化され、大きな社会問題となってから、まだ数年しか経っていません。これらのことは私自身が当事者として悩んだり、疑問に思ったりしたことでもあり、研究の道に進むきっかけになりました。
 様々なメディアが発達し、個人での発信が容易になった今も、テレビ・ラジオは生活に身近な情報源です。権力の監視という大きなジャーナリズムと共に、同じ地域で暮らす生活者としての視点を大事にする小さなジャーナリズムがもっと広がってほしいと考えています。
 新聞労連と出版労連のトップに女性が就任したことが、今回メディア総研で女性である私が所長になったことに繋がっています。社会に影響力のあるメディア産業で働く人々の為の調査や研究を、今後もメンバーと共に続けていきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

(たにおかりか 3月まで東海大学文化社会学部広報メディア学科教授 女性学修士)

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