『主戦場』上映差止訴訟本人尋問を傍聴して 〜訴えの目的は「黙らせること」〜
放送レポート293号(2021年11月) 岡本有佳
ミキ・デザキ監督のドキュメンタリー『主戦場』は2019年4月に公開され日本で約7万人を動員し、「慰安婦」問題を扱ったドキュメンタリーとして異例の大ヒットとなった。その最中、出演者の一部が上映差し止めと総額1,300万円の損害賠償を求め、監督と配給の東風を訴えた。21年9月9日と16日、原告・被告の本人尋問が行われた。9日は原告3人、なでしこアクションの山本優美子代表、「テキサス親父」日本事務局長藤木俊一氏、新しい歴史教科書をつくる会の藤岡信勝副会長、16日は被告のデザキ監督と東風の木下繁貴代表が出廷した。
原告側は「監督にだまされてインタビューを受けた」「歴史修正主義というレッテルを貼られ名誉を毀損された」などと主張した。
被告は、出演者には承諾書にサインをもらっていること、そこには配給・上映、DVD販売まで明記されている。藤木氏と藤岡氏は承諾書を不服とし合意書を交わしたが、そこにも著作権は監督にあり、本映画公開前に確認を求める、発言が本人の意図と異なる場合は不服である旨クレジットで表示すると記載されていると陳述した。原告らは事前に映像を見せられなかったと主張。デザキ監督は「二人には本人の発言部分の映像を送ったが、連絡がなかったため問題ないと判断した」と述べた。
映画冒頭20秒で原告らの顔に歴史修正主義者というテロップを被せるシーンを問題だとする原告らに対し、デザキ監督は、あれは欧米のメディアが彼らの主張をシンプルに報道していることを表し、その後9分間でもっと複雑な問題であると説明していると反論した。
驚いたのは、「歴史修正主義者」「性差別主義者」というレッテルを貼られたと主張を繰り返す一方、藤岡氏がデザキ氏を「不良外人」と呼んだり(月刊『HANADA』2019年11月号)、藤木氏の「フェミニズムを作ったのはブサイクな女性」発言を反対尋問で指摘されても誤魔化すばかりで撤回も謝罪もしようとしない態度である。さらには「李容洙さんは『慰安婦』ではない、戦後、米軍『慰安婦』だったという説を知っているか」と根拠も示さずデザキ監督に質問する藤岡氏。デザキ監督からインタビューを受けた際、その場にいた日本女性は発言していないと主張したが、法廷で証拠として提出されたビデオからは、デザキ氏の英語と、日本女性が日本語で質問する音声が流れた。それでも自分の頭の中の記憶を言い張る藤岡氏に唖然とする場面もあった。
両尋問終了後、デザキ監督は「全ての手続きを彼らにオープンにしてきた。つまり、彼らをだましたことはないということが明らかになった」と語った。
ヨーロッパ各地の大学で上映した際、日本大使館から大学宛に、係争中の映画だから上映しないよう連絡が入ったという。また『主戦場』の自主上映が企画されるたびに、会場に対し貸さないよう要望書を出すという妨害行為も続いている。
争点の1つ、映像の引用をめぐる著作権法については、フェアユースが規定されている米国と異なり、日本ではフェアユースの一般条項が明確にないことも課題となっているという岩井弁護士の指摘もあった。
裁判は16日で結審となり、来年1月の判決を待つ。デザキ監督は、彼らの訴えの目的は「私を黙らせること。『慰安婦』問題を語らせないことだ」とし「早く日本の学校などさまざまな場所で堂々と上映したい」と語った。
※11月14日、ミキ・デザキさんのオンライントークがあります。申し込みは梨の木ピースアカデミーへ。