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雑誌は、世界を変える色眼鏡をかけてくれた

雑誌を通すと、世界の景色が変わる

雑誌のことを業界では「紙媒体」と呼びます。媒体というのは、情報を伝達するための手段を指します。理科の時間にならったと思うのですが水も音や光を通すので、科学的な意味で媒体なんですね。コップに水が入っていて、その水がピンク色だったら、コップを通して見ると世界がピンク色に見えます。
雑誌も同じで、雑誌という媒体を通して世界を見ることで、雑誌の視点から見える素敵な色眼鏡をかけてくれるんですよね。

「ブルータス」という雑誌がありますが、素敵な色眼鏡をかけてくれる最高峰の雑誌です。ブルータスを通して世界を見ると、何てことない日常がとたんに輝いて見えるんですよ。
近所にある古ぼけた中華料理屋さんを例に取ると、普段はただの古い店かもしれません。でも、ブルータスが「街中華」と定義して特集を組んだら、その古ぼけた店が、「街中華」に属する一見の価値がある素敵な中華屋さんになっちゃうんです。

こんな風に、ありふれた日常にスポットを当てて、再定義してくれる。こうやって雑誌は、私たちの生活の楽しみを広げてくれます。

この色メガネを、常にかけ続けたいと思うファンが生まれると、時には社会現象になることもあります。

オリーブ少女にギャルカルチャー、雑誌がライフスタイルを作る時代

雑誌は、時代のトレンドを作り出す力を持っています。1982年に創刊された女性向けファッション雑誌『Olive』(オリーブ)は、その良い例です。この雑誌は「オリーブ少女」というトレンドを生み出しました。

オリーブ少女のファッションは、大きな襟やフリル、リボンなどの装飾が特徴的でした。赤、ピンク、白を基調とした「乙女ファッション」と呼ばれるガーリーなスタイルが流行したのです。MilkやPINK HOUSEといったブランドが、このトレンドの影響で大きく成長します。

時代が変わって1990年代後半になると、今度は『egg』や『Cawaii!』などのギャル系雑誌が次々と登場します。これらの雑誌の影響で、多くの女子高校生がギャルカルチャーに夢中になりました。
ギャルカルチャーは、ガングロギャルやヤマンバギャルなど、奇抜なファッションスタイルも生み出しました。ルーズソックスのように、全国の女子高校生が着用するようになったファッションアイテムもあります。

当時、ギャルだった知り合いから聞いた話があります。初めて渋谷に行ったとき、渋谷を歩くギャルの少なさに驚いたというんですね。
これは、ギャル雑誌という色眼鏡をかけて渋谷を見ていたからなんです。雑誌を見ると、渋谷はギャルだらけで、ギャル以外は存在しないように思えてくる。でも、実際はそうじゃないわけです。
このように、雑誌は人々のライフスタイルに大きな影響を与えていました。雑誌を通して世界を見ることで、人々の価値観やファッションが変わっていく。そんな時代でした。

雑誌の色眼鏡は、インスタグラムのフィルター加工に取って代わられた

そして現在、ブルータスのように強力な色眼鏡を提供し続ける雑誌はまだありますが、雑誌が先導してライフスタイルを作る時代は終わってしまいました。
今では、ライフスタイルを作るのは雑誌ではなく、個人になっています。若い世代は、SNSで自分が好きなインフルエンサーをフォローし、そのライフスタイルを自分の生活に取り入れるようになりました。

日常の中にある「特別」なものを発見するのも、雑誌ではなくSNSに頼るようになっています。おいしいレストランや可愛いカフェ、絶景スポットなどを、インスタグラムやTikTokで探しています。

SNSも素敵な色眼鏡をかけてくれますが、それは文字通り、インスタグラムの写真加工フィルターを通した色眼鏡なんです。SNSでは「映えるか映えないか」の二択になってしまうため、ビジュアル的なインパクトがあるかないかだけで判断されがちです。

例えば、ブルータスのように市井の街中華を取り上げて「街中華」という新しい価値を見出すような、コンセプトの再定義による色眼鏡はかけてくれません。
つまり、雑誌が衰退した今でも、日常をすくい上げて新しいコンセプトという色眼鏡をかけてくれるのは、雑誌だけなのです。

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とりさん
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