人生の柔らかな縛りから降りたくなった話
私の母は「学生の仕事は勉強でしょ」と言って高校生のアルバイトを許さなかった。私は財布を開いた。お金がなかった。だから隠れてアルバイトをしようと思った。
友人に所沢の派遣会社を紹介されたので学校終わりに訪ねて、たくさんの難しそうな書類に印鑑を押してサインをした。するとラミネートされたカードを渡され、「当日大人の人にこれを見せてね」と言われた。派遣会社の人は、終始優しく簡潔な言葉に置き換えて話してくれたので、ああ、私が子供だからだなと思った。
いつまでが子供でいつからが大人?
働くようになったら大人だよ
でも高校生でも働いてるよ
高校生は子供と大人の境目なのかも
私が派遣された先は工場だった。ベルトコンベアで運ばれてくる野菜を袋に詰めていく作業だ。周りはおばさんが大半で、寡黙な若いお兄さんと、おじさんが2人くらいいた。
私以外の人はベテランらしく、全ての作業に慣れていた。
私はベルトコンベアの速度についていけず、たまに私のせいでベルトコンベアを停止させたりした。
心の中ですみません、すみません、もっとちゃんとしなきゃと思った。
おばさんが工場長にこっそり「あの子どかした方がいいんじゃない?」と言っているのが聞こえてまた、すみませんと思った。
寡黙な若いお兄さんが私の側に立って、手伝ってくれた。何か言っていたがベルトコンベアのウィーーーーンという音でよく聞こえなかった。
お兄さん、ありがとう。私がだめでごめんなさい。
一緒に働いていた腰の曲がったおじいさんは私のちょっと前に入ってきた新人らしく、太ったおばさんに馬鹿にされていた。
「あの人まだ仕事覚えてないんだ。もう覚えてもいい頃でしょ」
「遅いんだよ」
おじいさんは曲がった腰をさらに曲げて、「すみません、すみません」とひたすら謝っていた。
私とおじさんは(さっきおばさんからいじめられていた人とは別のおじさん)工場長から終了時間まであと少し時間があるから、ダンボールを潰してと指示された。
私とおじさんがダンボールを潰す作業を始めると、他のところで作業していたおばさんが手伝ってきた。おじさんと仲が良いらしい。
「さっきこの子、あのババアにいじめられてたんだよ可哀想になぁ」
「まぁ可哀想に!気にしなくて良いんだよ!」
2人は私を交互に見ながら、撫でるように言葉をかけてきた。
「きついと思うけどさ、また一緒に働いてくれたら嬉しいよ」
「ありがとうございます、すみません」
もうここで働きたくないと思ったけど、おじさんの言葉は嬉しかった。
感謝と謝罪をして、1日の作業を終えた。
その日の給料は7000円だった。働くってこんなにきついんだ。もうだめだ。
やめたくなった。何をやめるかというと人生とか働くとか大人とか子供とかそういう目に見えない縛りみたいな、そういうものから降りたいと思った。
将来どうしたら良いんだろうな。
めんどくさくなって考えるのをやめた。
明日も学校がある。