クソの墓標⑦ 賢瑞官カルダーン
クソデッキは、回らない。
いや回らないからクソデッキなのかもしれないが、ともかくクソデッキというのは回らない。でもスタロは結構回るよ
記事を書いている以上は実際に(遊戯王マスターデュエルで)デッキを組んで(遊戯王マスターデュエルで)持ち込んで対戦も行ってはいるのだが、手札に初動を握るという高すぎるハードルを乗り越えたとしても《スプライト・スプリンド》に《灰流うらら》を打たれて《幻影霧剣》1枚でターンを渡すことになったり、初手に《インフェルニティ・ミラージュ》を引いたせいでルートに入ったのにワンキルが成立せず相手のサレンダー以外の勝ち筋を失うなど勝手に憤死する例は枚挙に暇がない。
前回はこういったクソデッキ回らない問題の原因として、独立性と冗長性の欠如を挙げた。そして、完璧な独立性を持ったデッキをコンセプトに……まあ、ゴミができた。
だが、ゴミがゴミであった原因は、求めた独立性が偽りの独立性だったせいだと分かっているし、ある意味においては私の独立性と冗長性に関する考えは間違いではなかったと示す例とも言える。
だから今回は、もう一つのポイント、冗長性をコンセプトにクソデッキを作っていきたい。
ところで、以前から私も多用しており、またカードゲーム界隈全体において頻用される言葉として再現性というものがある。再現性は高い方が良い、再現性を上げるためには◯枚は採用したい……などだ。再現性と冗長性、よく似た言葉であるが、その違いはどこにあるのだろうか?
例として次のデッキを考えてみよう。
なんという再現性の高さ。初手《召喚師アレイスター》の枚数の期待値は驚異の4.875。実に87.5%もの確率で全く同じ手札が来るという恐ろしいデッキだ。何が何でも絶対にnormal summon aleisterしようという凄まじい気迫を感じる。
なんだか高熱でうなされているときに見る夢のような見た目だが、理論値上限を吹き飛ばした圧倒的再現性を持つこの絶対アレイスター召喚するマンは最強のデッキのはず。さあ、早速絶対アレイスター召喚するマンを大会に持ち込んでみよう。
YOU LOSE
……
さて、正気に戻って次はこんなデッキを考えてみよう。
再現性を10%下げるため、90%の確率で初手に《召喚師アレイスター》が含まれるように調整したデッキだ。初手《召喚師アレイスター》の枚数も期待値は1.75枚と、先程の悪夢に比べるとかなり低くなっている。とはいえ、《暴走魔法陣》も(《灰流うらら》などを当てられなければ)《召喚師アレイスター》を手札に加えられるカードであることを考えれば、99.8%の確率で《召喚師アレイスター》にアクセスできると言えよう。
手札誘発を考慮しなければ0.2%。考慮したとしても10%。その程度の再現性低下なら許容できるかもしれない。検証のためだ。さあ、絶対にアレイスター召喚するマン2を持って大会に出よう。
YOU WIN!
おわかりいただけただろうか。
おわかりいただけなかっただろうか。
確かに絶対アレイスター召喚するマンは《召喚師アレイスター》を通常召喚する、という動きに関する再現性は随一だ。しかし、【召喚獣】において《召喚師アレイスター》を通常召喚する目的は《召喚師アレイスター》の通常召喚ではない。小泉構文か?本来の目的は通常召喚された《召喚師アレイスター》の効果で《召喚魔術》を手札に加え、その効果により「召喚獣」融合モンスターを融合召喚することのはずだ。
《召喚師アレイスター》は《召喚魔術》を手札に加える効果を有しているから、《召喚魔術》をはじめから手札に持っておく必要はない、その考えは確かに一理あるのだが、上の例のようにひとたび《灰流うらら》や《無限泡影》を受ければプランは瓦解、場に残るは非力な召喚師、それを蹂躙するは攻撃力8倍になった《守護神官マハード》……典型的な負けパターンと言えるだろう。
まとめると、絶対アレイスター召喚するマンの狙いとその問題点は以下の通りだ。
絶対アレイスター召喚するマンは手札の再現性を高めることを目的に構築されていて、狙い通り①は確実に達成できる。
しかし、②を達成する手段は、12.5%の確率での素引きを除けば、《召喚師アレイスター》の効果以外には存在していない。故に、この効果を無効にされるだけで②が達成できず、それにより盤面の主体となる③もまた達成できなくなる……つまり、その問題点は最終的な目標である③(ないしそれにつながる②)を達成する手段を1つしか有していないことだ。
一方で、絶対アレイスター召喚するマン2を考えるとどうだろうか?
確かに、①を達成できる確率は、《暴走魔法陣》を無効にされた場合は10%、そうでない場合は0.2%、それぞれ低下している。これは再現性の低下だ。
だが、たとえ《召喚師アレイスター》の効果を無効にされたとしても87.7%の確率で《召喚魔術》は手札にある。その上、相手が《暴走魔法陣》に《灰流うらら》を使用したとすれば、90%の確率で手札にいる《召喚師アレイスター》へと《灰流うらら》を受けることはない。②を達成できる可能性は、絶対アレイスター召喚するマンに比べれば圧倒的に高いだろう。
すなわち、何らかの要因によって、1つのプランが中断されてしまった時。その時に、別のカードを利用してそのプランを再び推し進めることができる。これこそが冗長性である。世間一般には「貫通」と呼ばれるものだ。
さて、さんざん悪夢のようなデッキリストを例に再現性と冗長性の違いを説明してきたが、これは実際にデッキを組むときに意識しなければならない点である。ルールを無視して《召喚師アレイスター》を39枚投入するとかそういうのではなく 絶対アレイスター召喚するマンにおける《召喚師アレイスター》のように、様々なコンボデッキには「マストカウンター」というものが存在している。それはコンボ内で冗長性が欠如している部分に他ならない。
コンボデッキを作る際には、マストカウンターに見せかけた偽りのマストカウンターを用意して陽動するのも一つの手だ。理想を言えば、マストカウンターそのものを作らない、すなわち冗長性の極めて高いデッキであることが望ましい。
さあ、本題だ。どうしたら冗長性の高いデッキを作れるだろうか。通常召喚は1ターンに1回だから、通常召喚に頼ったデッキでは難しいだろう。
つまり手札全部特殊召喚できるモンスターで埋め尽くせばいいのでは????
なめてんのか????????????
何がやりたいかが全く不明な上、組み始めて一瞬で飽きたのでよく見たら別に全員特殊召喚できるわけではないという始末。しかも全員特殊召喚できたとしてもモンスター5体が並んで終わるだけなど、塔矢アキラじゃなくてもふざけるな!!って叫んで席を立つ、至高のゴミだ。
ていうか冗長性って目的があってはじめて成り立つものなんだが……やはり知性を捨てるのは良くない。しかし、特殊召喚可能なモンスターで固めるというのは目的さえあれば冗長性を確保するのには有効そうだという手応えもあった。こんなのから教訓を得るとか屈辱でしか無いが。
ところで、以前からずっと私の心を惹き付けてやまないカードがあった。
《賢瑞官カルダーン》。先攻1ターン目から永続罠を、それも墓地からでも発動できるという極めて珍しい効果を持つモンスターだ。間違いなく楽しい。しかし、効果が珍しい故に代用が効かず、しかも召喚時にしか効果を発動できないため冗長性とは全くの真逆を行く不安定なモンスターである。冗長性と再現性を制約に強力な効果を得るという点ではハンターの素質があると言える。
だが、もし《賢瑞官カルダーン》以外のモンスターが全員特殊召喚できて、それで《賢瑞官カルダーン》を守りにいけるのであれば? 高い冗長性でもって確実に《賢瑞官カルダーン》を守れるのならば、少なくとも冗長性については解決するだろう。例えば《召命の神弓-アポロウーサ》のように。
では、再現性はどうすればよいのか? いかに《賢瑞官カルダーン》を守れると言っても、そもそも召喚ができなければ意味がない。何かしらの方法で《賢瑞官カルダーン》を手札に加えなければならない。
そして遊戯王には、特殊召喚による冗長性を確保しながらも《賢瑞官カルダーン》を手札に加えにいくことができる理想的なデッキが存在している。
【未界域】。運さえ良ければ自身を特殊召喚しながらデッキから1枚ドローできるという共通効果を持つ海外発の化け物たちだ。共通効果によって冗長性を確保しつつ、追加のドロー効果も《賢瑞官カルダーン》を無理矢理手札に加えに行くのに都合が良い。
弱点は「未界域」の効果を発動するたびに何かしら手札が捨てられてしまうため手札が減っていく点なのだが、これを手札から捨てられるとアドバンテージになる「暗黒界」モンスターによってカバーする【暗黒界未界域】とすることで高い再現性、冗長性、そして展開継続力を持ったデッキに仕上げることができる。
では、【暗黒界未界域】に《賢瑞官カルダーン》を投入するモチベーションは何だろうか? 注目すべきは「手札を捨てることによってプランを進める」点だ。
《強制接収》と組み合わせれば先攻で20ハンデスくらいできるのでは?????????
《強制接収》は発動条件がやや厳しいが、《賢瑞官カルダーン》を素材に、【暗黒界未界域】必須パーツである《No.60 刻不知のデュガレス》をX召喚すれば「2枚ドローして、1枚捨てる」効果によりトリガーを
ハンデスするなら《暗黒界の軍神 シルバ》でよくn
ここからが本題だ!!!!!!!遊戯王マスターデュエルでは《暗黒界の軍神 シルバ》は禁止カードだ!!!!!!!!!!要するに《強制接収》を使う意味がある!!!!!!!!!!!!!!
ちなみに先攻1ターン目の《賢瑞官カルダーン》召喚が受けうる妨害は《夢幻泡影》《エフェクト・ヴェーラー》くらいのものだが、遊戯王マスターデュエルならば《スプライト・エルフ》が健在なので何の問題もなくケアすることができる。
これこそが符合。遊戯王マスターデュエルの禁止制限改定に隠されたKONAMIの意図。それは、《強制接収》による全ハンデスなのだ。
全てはKONAMIの意思のもとに!
あれ……? なんか回らんぞ……?
【暗黒界未界域】と対戦するときは割と安定して理不尽な盤面を敷かれて負ける印象があるのだが、いざ自分で使ってみると「手札を捨てるカード」「手札から捨てられて得するカード」の両方を常に手札に持っておかないといけない関係で、なかなか安定して連鎖を続けることができなかった。
一応、デッキ全体としては現在の遊戯王マスターデュエルに多い【クシャトリラ】を意識して、除外に極端に弱いカード、例えば《暗黒界の門》や《貪欲な壺》を削っている。その割には《剣神官ムドラ》や《宿神像ケルドウ》が投入されているが……《強制接収》よりも先に《賢瑞官カルダーン》が捨てられた瞬間終わりなので仕方がない。この三人は名前も似てることからも分かる通り仲良しなのでデッキから抜けたがらないのだ。
その上で、手札を自分で選んで捨てられて、しかもレベル6だから《永遠の淑女 ベアトリーチェ》の素材になれて、しかも儀式モンスターだから《クロシープ》で2枚ドロー2枚捨てができる、と喜び勇んで大好きな《オオヒメの御巫》を入れたのだが、もしかしてこれがいけなかったのだろうか? でもオオヒメもデッキから抜こうとすると泣きそうな目でこっちを見てくるのでなかなか抜けないのだが
とはいえ、【暗黒界未界域】としての基盤はしっかりしているはずだし、どこぞのゴミと違ってゴミ率はせいぜい和歌山県のリサイクル率くらいのもの。あまりにも回らないのはどちらかといえば筆者の回し方が悪いのではと思わざるを得ないのだが、何よりも悪いのは確定ルートが無いせいで強みをアピールしにくいクセにゴミと断言するほどには弱くないというネタにならなさすぎるデッキが仕上がってしまったこの記事の締まりである。
一朝一夕でなんとかなるものではないデッキをお出しする方も悪いのだが、一朝一夕を過ぎると冷静になって解体してしまうようなゴミをお出しするのがこのnoteなので、一朝一夕で出すしかなかったんだ。
(2023年10月29日追記)
上手く回ると本当に20ハンデスくらいできるので意外に悪くないんじゃないかと思い始めた。《強制接収》が強制効果な関係で、とっくに相手の手札はゼロなのに望まぬハンデスを撃ち続けて「ち、ちがっ……そんなつもりは……嫌いにならないで……」みたいになる状況も起こり得るので、感情の爆発で主人公を刺してしまったヤンデレヒロインの気持ちになりたいあなたにオススメのデッキだ。