クソの墓標⑥ 王の舞台
何故私の作ったデッキはどれもゴミなのだろうか?
真面目にやってないからに決まってるだろ10枚破壊10000バーン、攻撃力8倍、「インフェルニティ」による先攻ワンキル、これらの強力極まりないゴールを目指した理論的構築、それを支える(主に【幻影騎士団】の)再現性の高さ……寸分の隙無く作られているはずの紙束デッキはしかし、そのどれもが実用性皆無のゴミと成り果ててしまっている。私の作ったゴミと、真の環境デッキ。その違いはどこにあるのだろうか。
いや、答えは既に分かっている。何せ私は、近頃ゴミ以外のデッキを回していないのだから……そう、コンボ性に特化した(この時点で考え方が2年古いが)ゴミたちはいずれも何もかもが弱い独立性と冗長性を欠いていたのだ。
独立性と冗長性という言葉はあまりにも抽象的が過ぎるかもしれない。それに恐らく、こと遊戯王カードゲームにおいてはこれらの二つの言葉はほとんど同じものを指しているのだが、今回は敢えて分けて考え、理解を深めていきたい。そうした方がゴミのネタが増える
独立性を持ったデッキの代表例が一部界隈で有名な【勇者デストロイフェニックスガイ】だ。
このデッキは《アラメシアの儀》からの《流離のグリフォンライダー》、《フュージョン・デステニー》からの《D-HERO デストロイフェニックスガイ》という2つの軸を中心に、《クリッター》から《水晶機巧-ハリファイバー》をリンク召喚し《ヴァレルロード・S・ドラゴン》+《超雷龍-サンダー・ドラゴン》+《TG ハイパー・ライブラリアン》による2ドローというゲームエンド級の動きを有する強力極まりないデッキだ。その他のカードも手札誘発や《神の通告》など確実に1回は相手の動きを止められる汎用カードで占められている。
下手をすればただの寄せ集めにも見えるこのデッキを強力たらしめているのは「勇者」「デストロイフェニックスガイ」「ハリファイバー」「汎用カード」の4つの動きが互いに一切干渉せず、全てを独立して動かせる点にある。
通常召喚を必要とするカードは《クリッター》のみ。《アラメシアの儀》は通常召喚したモンスター効果を発動できなくさせるが、《クリッター》には影響がない。《フュージョン・デステニー》の『闇属性の「HERO」モンスターしか特殊召喚できなくなる」制約も、最後に発動すれば全く問題がない。他の汎用カードたちは言わずもがなだ。
つまり、このデッキはそれぞれの軸の基点となるカードを持っていればその全てを盤面に出力できて、たとえどれかの軸を手札誘発などで止められても他の軸を押し通し、確実に盤面を形成することができる。これこそが独立性※である。一言で言えばプランB
この独立性の観点から、例えば直近のゴミを見てみるとどうだろうか?
「幻影騎士団」と「インフェルニティ」を組み合わせたこのデッキだが、実際のところ「インフェルニティ」は独立して動けるだけの基盤を持っておらず、《アクセルシンクロ・スターダスト・ドラゴン》による《インフェルニティ・セイジ》蘇生が「インフェルニティ」の動きの全てを担っている状態だ。したがって、《スプライト・スプリンド》による墓地送りも含め、《聖騎士の追想 イゾルデ》による《焔聖騎士-リナルド》特殊召喚から《アクセルシンクロ・スターダスト・ドラゴン》S召喚までのどこかを妨害された瞬間「インフェルニティ」要素が全てゴミクソと化す。「独立」以前の「従属」どころか、完全に「依存」と言っても過言ではない状況だ。
しかも、このお膳立てのために《クロシープ》のような妨害にもクソにもならないモンスターばかりを盤面に並べているため、「インフェルニティ」要素が動かなくなった瞬間プランD、所謂ピンチですね「幻影騎士団」もクソザコと化すという凄まじい欠陥っぷりで、独立しているように見えた「幻影騎士団」要素も実際には独立できておらず、盤面出力をほぼ「インフェルニティ」に依存してしまっているというあまりにも哀れな共依存構造が成立している。重度のメンヘラか?
このように「回れば強いが回らなければ何もできない」混合デッキは独立性に問題を抱えていることが少なくない。
では、どのようにして独立性を担保すれば良いだろうか? 一つの例は通常召喚と特殊召喚による独立だ。
【召喚獣】系列のデッキはこの例の最たるものであろう。【召喚ドラグマ】においては、「アレイスター通常召喚」が「ドラグマ」ギミックへの架け橋となるシナジーを持ちつつも、《召喚師アレイスター》がない場合や手札誘発を打たれた場合でも「ドラグマ」は「ドラグマ」として独立して動くことができる。
また、別の例としてモンスターと魔法による独立も分かりやすい。【神碑スプライト】は遊戯王マスターデュエルで流行したデッキタイプの一つだが、バトルフェイズの放棄というデメリットにさえ目をつぶれば完璧な独立性を保っている上、【神碑】の重要パーツである《神碑の翼フギン》が「スプライト」ギミックへの架け橋となるシナジーを有している。
では独立性をコンセプトとしてデッキを作るとして、今回はどのような独立性を目指すのが良いだろうか? 折角ならば混じり気のない完璧な独立性を目指したい。完璧な……独立……
自分ターンと相手ターンで独立させたら最強なのでは?????
「誓約の厳しいカードは実質王」という言葉を聞いたことはあるだろうか? (《王の呪 ヴァラ》が出るまでの)「王」は《王の舞台》による相手ターンの展開を中心としたデッキであり、特に先攻1ターン目には《王の舞台》を貼ってターンエンド、という光景もそう珍しくはなかった。
故に、自分ターンには「展開に誓約を付けるほどの強力なカード」を使用し、相手ターンには《王の舞台》で展開するというのは一つの定石でもあり、それが上の言葉に繋がっている。
誓約の厳しいカードとしては過去には《真紅眼融合》による《超魔導竜騎士-ドラグーン・オブ・レッドアイズ》などが試みられていたが、現代で使うなら……そう。
【竜輝巧】。「通常召喚できないモンスターしか特殊召喚できない」という厳しい共通誓約を持つ、先攻理不尽盤面デッキの代表格だ。発想が3年近く遅くないか?
(※賢明な読者諸君はこの時点で何かに気付いたと思われるがグッと飲み込んでほしい)1枚初動を持たない故の事故率の高さはあるが、「宣告者」との組み合わせによる圧倒的な制圧力と複数枚初動による再現性の高さは登場から3年が経過した今でも魅力的だ。「王」の必須パーツである《王の影 ロプトル》が天使族という噛み合いがあるのも嬉しい。
そして【竜輝巧】使いが口を揃えて「厳しい」と言う《イーバ》の制限カード指定。《永遠の淑女 ベアトリーチェ》により自分・相手ターンに1枚ずつ《イーバ》を墓地に送り、「宣告者」の効果コストとなる天使族を手札に4枚抱えるという黄金パターンを失ったことは痛く、また《永遠の淑女 ベアトリーチェ》で墓地に送るカードが弱いという構築上の悩みも抱えることとなった。
だが、「王」との組み合わせはそんな悩みをすべて吹き飛ばす。
《救いの架け橋》。墓地に送っておけばいつでも《王の舞台》と天使族である《宝玉獣 ルビー・カーバンクル》を手札に加えられるこのカードは、自分ターンに《永遠の淑女 ベアトリーチェ》で墓地に送るカードとしては最強格と言えるだろう。
それだけではない。《王の影 ロプトル》が天使族なのは先ほども説明した通り。つまり《羅天神将》のリンク先に「宣告者」を置いておけば、相手スタンバイフェイズに《王の影 ロプトル》を特殊召喚することもできる。
《王の舞台》と合わせれば立ち並ぶ2体の王、舞台より現れるはその部下たち。それを統括するは神聖なる「宣告者」。なんとも「ボス」にふさわしい光景ではなかろうか? この盤面のエモさだけでも十分にアドバンテージが取れると言っても過言ではない。
さて、目指す盤面は「宣告者」+《永遠の淑女 ベアトリーチェ》+《羅天神将》+《王の舞台》+手札に《王の影 ロプトル》と決まった。この盤面を理想展開として《竜輝巧-バンα》+《竜輝巧-アルζ》の組み合わせで達成できるようにギミックを調整しよう。
まず、どこかのタイミングで《王の影 ロプトル》を《サイバー・エンジェル-弁天-》でサーチする必要がある(追記:よく考えたら《サイバー・エンジェル-弁天-》のサーチ先は光属性・天使族なのでサーチできなかったのだがどうせゴミなのでこのままの記載で残しておく)のだが、通常の【竜輝巧】展開で《サイバー・エンジェル-弁天-》をリリースするチャンスは《竜輝巧-アルζ》による1回と《竜輝巧-ファフμβ'》で墓地に送った「竜輝巧」による1回の合計2回のみ。そのサーチ先は《宣告者の神巫》と「宣告者」で埋まっている。
よって、「竜輝巧」以外の方法で《サイバー・エンジェル-弁天-》をリリースする機会を作る必要がある……その役割を担うのは《宣告者の預言》が良いだろう。よって、エースとなる「宣告者」は《神光の宣告者》に決定する。
ここで、一度ルートなどは特に何も考慮せず、最終盤面までに出力できそうなカードを考えてみよう。
《永遠の淑女 ベアトリーチェ》を作るために、《サイバー・エンジェル-弁天-》は《宣告者の預言》でリリースした後、《流星輝巧群》で再度儀式召喚する必要があるだろう。そうすると、1回目の《流星輝巧群》で《サイバー・エンジェル-弁天-》を儀式召喚した際に、手札に《神光の宣告者》と《宣告者の預言》が揃っていなければならない。しかし、通常のルートで考えれば、この時点で手札にあるのは《宣告者の神巫》のみであり、これを揃えるには足りない……つまり、どこかで+1を稼ぐ必要がある。
そんな必要を満たしてくれるのが《チョウジュ・ゴッド》だ。儀式モンスターと儀式魔法を同時に手札に加えられるこのモンスターを使えば、上の要求などお茶の子さいさい。1兆もの手を使い、5000億の器からお茶を飲みながら5000億種の茶菓子を食べられる《チョウジュ・ゴッド》にとってはお茶の子さいさいのさいさい度合いもまたさいさいであろう(?)
これらの前提をもとに、実際に展開を考えてみよう。ポイントは召喚権を《チョウジュ・ゴッド》に使うことと、《宣告者の預言》を使って《サイバー・エンジェル-弁天-》をリリースして《神光の宣告者》を儀式召喚することだ。
組むべきデッキは《神光の宣告者》+《チョウジュ・ゴッド》型【竜輝巧】+「王」。ここまで絞ることができれば、デッキの内容は自ずと決まってくるだろう。あとは微調整を繰り返せば、完璧な独立性と展開力を両立させた究極のデッキがおのずと生まれるという寸法だ。
そして何よりこのデッキの名前を見てほしい。「竜輝巧」+「王」……ドライトロンジェネレイド……【竜輝王】?
そう、遊戯王だ。
カードゲームそのものの名を冠するデッキが最強でないはずがない。それは武藤遊戯がキングオブデュエリストであることも明らかだ。
今、究極にして最強のキングオブクソデッキがここに光臨する!
遊戯君、これは何だい……ゴミ……?
仮組みしたプロトタイプを何度か回してみて気付いたのだが、「王」が独立して動くには《王の影 ロプトル》通常召喚から《光の王 マルデル》を呼び出す必要がかなりあって、この時点で「竜輝巧」の誓約とガン被りしている上に《チョウジュ・ゴッド》通常召喚ともガン被りしていて独立性もクソもマジで何もなかった。この時点でコンセプトが完全に崩壊しているのだが、《永遠の淑女 ベアトリーチェ》からのアクセスを考え、「王」要素は最小限オブ最小限に抑えることでデッキとしての体裁を保とうとした。人はそれをゴミと呼ぶ
しかも「宣告者」型【竜輝巧】がそもそも混合デッキであるためデッキの枠に一切余裕がなく、ここまでしておいてもなおデッキ枚数40枚どころか45枚を通り越して50枚にも及ばんとする、見るも悍ましいリストとなってしまった。《オオヒメの御巫》が余計に枠を圧迫しているが、いや、これはもうなんというか筆者の趣味だ。いや一応手札に来てしまった《救いの架け橋》を捨てながら《永遠の淑女 ベアトリーチェ》に繋げる役割もあるのだが。
だがしかし、《イーバ》制限化により価値の低かった《永遠の淑女 ベアトリーチェ》単騎の妥協盤面が《王の舞台》+《朱光の宣告者》+天使族2枚にまで強化されていること。従来型には欠けていたフリーチェーン除去を構えられること。これらを考えればこのゴミデッキを回してみる価値もあるはず。
いざ、まだ見ぬ可能性を夢見て!
は?
は?