クソの墓標① 御巫神楽
《御巫神楽》というカードをご存知だろうか。
令和の世にありながらリリース代替コストも持たない、一見普通の儀式魔法だが、このカードのポテンシャルは幾多もの禁止カードをも上回る。
このグルーヴ感。
対象にも取らずに相手カードを10枚以上も破壊し、10000以上のバーンを飛ばせるという驚異の追加効果。
10枚破壊10000バーン。なんと甘美な響きだろうか。
往年の名カード《サンダー・ボルト》《ハーピィの羽根箒》《マジカル・エクスプロージョン》を足して割らない圧倒的な性能まあこの内2枚はとっくに禁止解除されているが。その上カテゴリに属する儀式魔法のためサーチも容易。
まさにクソデッキの申し子と呼ぶべきだろう。
さて、《御巫神楽》は(理論上は)禁止カード∞3とはいえ墓地に装備魔法がなければ《ハンバーガーのレシピ》と大差ないところ、遊戯王には大量の装備魔法を容易に墓地に送り込めるカードが存在している。
《聖騎士の追想 イゾルデ》。デッキ内にレベル12戦士族の《花札衛-桐-》を用意しておけば②の効果で12種類もの装備魔法を一瞬で墓地に叩き込めるこのカードは、戦士族を何でもサーチできる①のアドバンテージ補充能力によって儀式召喚の消費の激しさをもカバーできる。
また、モンスター数を増やせるリンク2でもあるので、そのまま《スプライト・スプリンド》をリンク召喚して儀式軸の【御巫】と相性抜群の《宣告者の神巫》に触れる点も見逃せない。墓地に落とした《宣告者の神巫》を何らかの方法で蘇生し、《虹光の宣告者》を墓地に送って《オオヒメの御巫》をサーチすれば、自身で《御巫神楽》をサーチできる。そのまま《御巫神楽》でレベル6となった《宣告者の神巫》をリリースすれば、御巫の御の字も見えないところから巫の字は見えているが奇襲的に12枚破壊12000バーンを叩き込むことができる。
この最強コンボを達成するため、デッキの基本骨格は以下のようになる。
デッキ名:ゴミ
どう考えても回らん!!!!😡😡😡😡😡😡😡😡
完全に忘れていたが、《聖騎士の追想 イゾルデ》で《花札衛-桐-》を出すためには装備魔法という名のゴミが12種類もデッキに存在する必要がある。その上、採用する装備魔法が12種類きっかりだと1枚でも手札に来た瞬間プランが瓦解してしまうため多少過剰に採用せざるを得ず、結果として確定パーツの半数近くがゴミという凄まじいゴミ山が生まれてしまった。
しかも《御巫神楽》は相手フィールドにカードがなければただの《ハンバーガーのレシピ》なので後攻を取る必要があるのだが、《カードガンナー》を召喚してターンエンドしていた時代ならまだしも先攻で3ウーサマスカレサベージバロネスブロドラガーディアンみたいな盤面ができあがる現代においてこんなゴミで後攻を取るのは裸で富士山に登るに等しく、その場で精神科を勧められても何の文句も言えないだろう。
(一応《聖騎士の追想 イゾルデ》はコストで装備魔法を墓地に落とすので無効系妨害に強く、無効を切らせた後に《御巫神楽》を通せたりするのはメリットではあるが)
だが、それでも私は12枚破壊12000バーンの夢を諦められなかった。
先攻盤面が強固すぎる現代遊戯王で後手からこんな大掛かりなコンボが決まるはずがないというのはもういかんともしがたいので目を逸らしておくとして、無限の思考実験の果てに得られた結論は次のようなものだった。
1.はこのデッキの凄まじいゴミ濃度を緩和するには避けられないだろう。装備魔法を15枚投入するとして、デッキ枚数が40だとゴミ率が37.5%とシムシティ3000で埋立地を区画しなかった時の町並みみたいになってしまうが、デッキ枚数を60にすることでゴミ率を25%と埼玉県のリサイクル率くらいまで抑えることができる。
2.については上で述べた通りこんなコンボが後手で通るはずがないという判断によるものだが、何より私は後攻で相手と対話しながら盤面をひっくり返すよりも先攻でクソみたいな盤面を作り上げて押し付ける方が好きなので当然の話だった。
なお、後手プランとして《御巫神楽》をサイドインするくらいなら装備魔法を全部抜いた方が何百倍も強いのは自明なので、この記事はもちろんシングル戦、というか大会の参加費を払ってこのゴミ山を使うのは自傷行為に等しいので遊戯王マスターデュエルを想定したものとなる。マスターデュエルならば《スプライト・エルフ》も禁止されていないので使い放題だ。
3.については、《聖騎士の追想 イゾルデ》で1〜4枚しか装備魔法を落とさない盤面しか作らないのなら装備魔法の枚数を削った【御巫幻影】とか【御巫HERO】とかを作った方が何億倍も強いのは確定的に明らかなので必須である。ちなみに現代は「《聖騎士の追想 イゾルデ》の効果がいい感じに通る」≒「5素材《No.86 H-C ロンゴミアント》の成立」くらいのパワーバランスなので、これくらいの盤面は最低でも必要だろう。
ゆえに、デッキビルダーとして次に考えることは墓地にある大量の装備魔法を盤面出力に変える方法である。
ところで、遊戯王カードゲームには「墓地の魔法カードの枚数」を参照するカードがどれだけあるかご存知だろうか? 《マジカル・エクスプロージョン》は最強だがもちろん禁止であるし、調べてみると思ったよりも少ないことに気付くだろう。しかも、そのカードは先攻で役に立たなければならないし、もっと言えば《オオヒメの御巫》や儀式召喚と相性が良いことが望ましい。
そして、10000を超える膨大なカードプールは、そんな無茶な要求にも答えを用意してくれていた。
《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》。①の効果で《オオヒメの御巫》または《御巫神楽》をサーチできるのみならず、②の墓地の魔法カードを戻すことでその枚数に等しい光属性・天使族モンスターを蘇生できる効果は、このデッキにおいては任意の光属性・天使族モンスターを蘇生できる最強の効果と化す。蘇生先に《大天使クリスティア》を用意しておけば「《No.86 H-C ロンゴミアント》並の制圧力」の実現を大きく手助けしてくれるだろう。
《聖騎士の追想 イゾルデ》《宣告者の神巫》《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》の相性の良さは城下町チャンネルの大卒初動で証明されている。
《水晶機巧-ハリファイバー》の禁止化によりそのままの形では使えなくなったが、《スプライト・スプリンド》《スプライト・エルフ》のセットはその穴を埋めるだけでなく、《宣告者の神巫》の効果が無効にならないため《大天使クリスティア》を墓地に落とす役割まで担える点で優れた代替ルートとなる。
《聖騎士の追想 イゾルデ》による大量墓地肥やしを《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》で変換し盤面に出力する。そのためのカードは《宣告者の神巫》が用意してくれるし、《宣告者の神巫》は《聖騎士の追想 イゾルデ》が用意してくれる。
その3種のカードはすべて、デッキコンセプトである【御巫】との相性が抜群に良い。
この美しく編み上げられたシナジーの糸。
うず高く積まれたゴミ山が、大天使の羽を携えて降臨するのは、今だ。
そしてゴミが生まれた。
《花札衛-桐-》はどこ行ったとかなんで魔鍵が入ってるんだよとかその《召喚獣メルカバー》は何だとかツッコミどころしかないと思われるが、順を追って説明させてほしい。
まずデッキベースを【幻影騎士団】にするのは確定だった。【御巫】との相性の良さは折り紙つきだし、多様なレベル3サポートテーマを混成することによる再現性の高さと手数の多さはゴミまみれの60枚デッキを無理矢理回す上で有用である。
そこで、再現性を取りやすい初動として《幻影騎士団ティアースケイル》からの展開を脳内でこねくり回していたところ、《スプライト・エルフ》+《スプライト・スプリンド》+《大天使クリスティア》+《花札衛 -桐-》+《サイバー・エッグ・エンジェル》+《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》という基本盤面に辿りつけることはすぐに判明した。
また、《花札衛-桐-》の存在価値についても早くから疑問符がついていた。最高レベルの戦士族とはいえ攻守100の貧弱なボディに、効果は自分が攻撃された際のバトルフェイズ終了のみ。リンク素材にしてしまえばいい話ではあるが、大量の装備魔法と他に使い道のないレベル12を抱えるリスクには見合わない。他に何かいい高レベル戦士族はいないか……と探していたが、ちょうど良いものを見つけた。
《ゴッドフェニックス・ギア・フリード》?違う。私が選んだのはもっと格好のいいものだ。見えないだろうか?リストの真ん中あたり、そう、その辺りだ。
《異次元エスパー・スター・ロビン》。《スプライト・エルフ》をも上回る全体への対象耐性付与に加え、攻3000というマッシブボディへの攻撃誘導により貧弱なリンクモンスターたちを強固に守れるこのDTに迷い込んだ空気モンスターは「スター」の名にふさわしい。《神・スライム》でよくね?は禁句だ
このスーパースターを《スプライト・エルフ》のリンク先に置くことで、先ほどの基本盤面は対象耐性《スプライト・エルフ》+対象耐性《大天使クリスティア》+対象耐性《異次元エスパー・スター・ロビン》という憤死待ったなしの異次元盤面となる。
だがそれだけでは《ライトニング・ストーム》一発でスーパースターもろとも全てが吹き飛ばされて終了するので、残った《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》の①の効果を利用して無効化持ちを出力せねばならず、そこで白羽の矢が立ったのが魔鍵ギミックというわけだ。
《聖騎士の追想 イゾルデ》の①の効果で手札に加えた戦士族モンスターは展開に絡めにくいところ、通常モンスターを持ってきて《高尚儀式術》のリリースに充てれば無駄なく使い切ることができる。そこで《魔鍵銃-バトスバスター》をデッキから儀式召喚して《サイバー・エッグ・エンジェル》とレベル6Sモンスターをシンクロ召喚すれば《大魔鍵-マフテアル》を経由することで《フルール・ド・バロネス》に繋げることができる。
また、そのままでは《大魔鍵-マフテアル》が無意味に残り盤面の美しさに欠けるところ、レベル6Sモンスターを《ドロドロゴン》とすることで《召喚獣メルカバー》を融合召喚でき、更に何らかの方法でレベル3を供給すれば《F.A.ライトニングマスター》もついでに出せて合計2回の無効化を構えることができる。
この無効化の出力部分については大いに検討の余地があり、他にも《オオヒメの御巫》で《虚光の宣告者》をリンク召喚する、《オオヒメの御巫》で相手ターンに《天子の指輪》を装備させるなどさまざまな方法が考えられる。より良い展開が思いつき次第適宜切り替えていくつもりだ。
《幻影騎士団ティアースケイル》からの展開例は次のとおりだ。
特殊召喚の禁止、全体への対象耐性、攻3000への戦闘誘導に加えて2回の無効化。もう一体どこが【幻影騎士団】なのか微塵も理解できない盤面で芸術点もバッチリだ。
なお《冥王結界波》を受ければこっちが憤死するしかないが、その時はその時だと思って割り切ろう。一応、どいつも攻撃力が割と高いので何体かは残るかもしれない。
このデッキはどこに手札誘発を当てられても虫の息な上、深淵の獣をもらった瞬間「こいつら全部お前に装備してやるよ!」と叫びながら相手プレイヤーに装備魔法を突き刺す以外の勝ち筋がなくなるメンヘラのように繊細なデッキとなっているが、一人回しに限ってはめちゃくちゃ楽しいデッキなので特に意味なくソリティアしたい時にはオススメだ。
なお、2023年8月29日現在遊戯王マスターデュエルには御巫が実装されておらず、OCGでは《スプライト・エルフ》が禁止カードのため、このデッキを組めるフォーマットはこの世に存在していない。よってこの記事は全て嘘である。