Avidity Sequencing(アビディティシーケンシング)技術の性能について
前回の記事では、アビディティシーケンシングは、DNA合成の進行と塩基識別のプロセスを分離し、特別な多価分子「Avidite」により、低試薬量でも高精度のDNAシーケンシングを実現することがわかりました。ここでは、「Sequencing by avidity enables high accuracy with low reagent consumption」の論文の後半、この新しいAviditeシーケンシング技術の「性能」についてみていきましょう。
従来の単価ヌクレオチドの結合効率
新しい「アビディティシーケンシング」と従来の単価ヌクレオチド技術の結合特性を比較して、どのようにしてアビディティシーケンシングが高精度な読み取りを実現しているかをみていきます。
下記の図aでは、単価(1つの結合部位しか持たない)蛍光標識ヌクレオチドがDNAにどれくらいの効率で結合するかを示しています。単価ヌクレオチドは、結合が安定しないため、DNAと結合するためには比較的高濃度が必要です。このため、従来のシーケンシングでは濃い試薬を使わなければならず、コストがかかります。
アビダイトの結合の速さ
図bでは、AviditeがDNAの「ポロニー」と呼ばれる部分にどれくらい早く結合するかを示しています。Aviditeは前回の記事でも説明した通り「多価結合」といって、1つの分子が複数の結合部位を持っているため、1つのポロニーに強力に結合できます。これにより、低濃度でもDNAに速く安定的に結合でき、試薬の消費を抑えつつ高いシグナルが得られるようになっています。
単価ヌクレオチドの解離(離れやすい)
図cは、単価ヌクレオチドがDNAからどれくらいの速さで解離するかを示しています。単価ヌクレオチドは結合力が弱く、容易にDNAから離れてしまいます。そのため、シグナルが短時間で消えてしまい、安定した読み取りが難しくなります。
Aviditeの解離(離れにくい)
一方で、Aviditeでは、AviditeがDNAに結合した後、ほとんど解離しない様子が示されています(図d)。Aviditeは複数箇所でDNAと結合するため、非常に安定して結合し続けます。このおかげで、長時間安定したシグナルが得られ、DNA配列の読み取りが正確かつ安定します。
これらのデータから、アビダイトが単価ヌクレオチドよりもはるかに安定した結合と持続するシグナルを生み出せるため、低濃度でも正確なシーケンシングが可能になっていることがわかります。これにより、アビディティシーケンシングは試薬の消費を抑え、臨床応用にも適した高精度なシーケンシングを実現しています。
どれだけ正確にDNA配列を読み取っているか
続いて、アビディティシーケンシング技術がどれだけ正確にDNA配列を読み取っているか(読み取りの「品質」)についてみていきましょう。シーケンシングの精度が他の方法と比べて高いことを分かりやすく示すために幾つかのデータをお見せします。
上記の図aとbの2つのグラフは、それぞれシーケンシング中に得られた「Read 1」と「Read 2」のスコアを示しています。両方のグラフにおいて、対角線に沿って点が並んでいることがわかります。この線に近いほど、「予測したスコア」と「実際のスコア」が一致していることを示します。これは、アビディティシーケンシングが予測通りの高精度を実現できていることを意味します。また、スコアの分布がヒストグラムとして示されています。Q40以上の高品質なスコアが多くのデータで得られていることがわかります。
実際のデータ
ちなみに、私たちが研究で使用したサンプルを解読した際の結果ですが、この論文の通り、実際のAVITIでも高いQ-scoreを維持しており、AVITIの精度の高さを確認することができます。
従来のシーケンシング技術と比べても、アビディティシーケンシングは正確な読み取りを維持し、より誤りの少ないデータを得ることができます。
ホモポリマー領域での低いエラー率
続いて、アビディティシーケンシングが「ホモポリマー領域」(同じ塩基が連続する部分)をどの程度正確に読み取れるかを見ていきましょう。
この図では、ホモポリマー(同じ塩基が12個以上連続する部分)の前後でどれだけのエラーが発生するかが示されています。縦軸はエラー率(%)で、横軸はホモポリマーを中心としたDNA配列の位置です。グラフの中心がホモポリマーで、その前後のエラー率がプロットされています。青い線がアビディティシーケンシング(AVITI)のエラー率を示し、黄色と灰色の線がイルミナ社のシーケンシング機器(NextSeq 2000、NovaSeq 6000)のエラー率です。ホモポリマー領域を挟んで、イルミナ社の機器ではエラー率が急激に増加している一方、アビディティシーケンシング(AVITI)はエラー率がほとんど変わらないことが示されています。
これらより、アビディティシーケンシングはホモポリマー領域でも安定した精度で読み取りができることがわかります。従来の技術では、ホモポリマーの後でエラー率が急激に上がるため、このような配列が含まれるDNAサンプルの正確な解析が難しい場合がありました。しかし、アビディティシーケンシングでは、ホモポリマーがあってもエラーがほとんど増加せず、安定した読み取りが可能だと言えます。
ホモポリマー長とエラー率の関係
アビディティシーケンシングのエラー率と精度についてさらに詳しく比較していきます。
この図では、エラー率とホモポリマーの長さの比較を表し、縦軸はエラー率(%)を、横軸はホモポリマーの長さ(4~29塩基)を示しています。アビディティシーケンシング(AVITI、青い点線)がイルミナ社の機器(NextSeq 2000とNovaSeq 6000)よりも一貫して低いエラー率であることがわかります。特にホモポリマーの長さが長くなるほど、イルミナ社の機器のエラー率が急上昇するのに対し、AVITIはエラー率の増加が少ないまま維持されます。
長時間シーケンシングでの精度
下の図aでは、シーケンシングの長さに対するQ30スコアの変化について示しています。縦軸はQ30スコアで、横軸はシーケンシングのサイクル数(塩基の長さに相当)を表しており、サイクル数が進んでも、AVITIは85%以上のQ30スコアを維持しています。つまり、長い配列を読み取っても高い精度が維持されることが証明されています。
上の図bでは、サイクル数に応じたエラー率を示しており、最後のサイクルまでエラー率が非常に低く抑えられています。
実際のデータ
図の見方は変わりますが、私たちがPhiXで実際に実験を行った際も、低いエラー率で高い精度が維持されることが確認できました。
アビディティシーケンシングが長いDNA配列をシーケンスしてもエラー率が増加しにくいことが、これらのデータより明らかになりました。全ゲノムシーケンシングや、長い領域を対象とする遺伝子解析においても安定した精度で結果を得られるため、複雑な遺伝情報の解析やゲノム研究において信頼性の高いデータが提供できると考えております。
特に、アビディティシーケンシングがイルミナ社と比べて精度が高く、特にホモポリマー領域や長いDNA配列に対して安定した結果を提供できることを示しています。これにより、遺伝子変異の発見や疾患リスクの判定において、より正確な診断と解析が期待されます。
AVITIの解析を試してみよう!
MEDBANKでは、次世代シーケンサーAVITIでの解析を受託しております。上記で精度が高いことを占めましたが、従来のイルミナ社のシーケンスと比較して、非常に短い納期かつ低コストでも解析が可能です。初めての方や、遺伝子解析を行ったことがない臨床医の先生でもサポートいたしますので、まずはお気軽にお問い合わせください。
※図や文献は、Element Biosciencesのアメリカ本社の許可を得て、Element Biosciencesが提供する資料等をもとに掲載しております。