きせき
ブータンの首都・ティンプーで8ヶ月間暮らした。
日本へ帰ってきて思う。ブータンでの暮らしは、わたしの人生の軌跡を変えた。
これまでは、四季がめぐり、歳を重ねていくごとに、基本的に同じことを繰り返して同じ場所をぐるぐると回っていた。回りつつ、実は少しずつ衰えながら「死」という螺旋の奥へと沈みこんでいく自分を認識していた。
日頃ランニングをしていると、体力が衰えてきているのが如実にわかるのだ。継続して練習に励み、前より強くなったつもりでいても、数値においては過去の自分に勝てない今の自分がいる。歳をとると共に、体は確実に衰えてきている。いずれは老いて、同じことを繰り返せなくなるだろう。それでもわたしはおそらく死ぬまで同じ場所をぐるぐると回り続けるのだろう。そう思っていた。
今年の元旦も例年通りだった。いつもの風呂に浸かり、いつもの風景を眺めながら、ふと、同じ風景を見ているはずなのに同じものを感じ取っていない自分に気がついた。
日本の風景にブータンの風景を重ね合わせ、郷愁のようなものさえ感じていたのだ。
あの風景に帰りたい、そう思った。これまでの場所を抜け出して、遥かなるブータンという地にあってこそ螺旋の奥底まで引きずりこまれてしまいたいと思う自分がいた。
なぜこんなに深く、切実にブータンに惹かれているのかはわからない。少なくとも言えるのは、ブータンで暮らしていた自分がとても自然に思えた、ということだ。もしも前世というものがあるならば、わたしは以前もブータンと関わりを持っていたのかもしれない。
ブータンでの滞在は、わたしのこれまでの人生とは異なる軌跡に運んでくれた。これは些細な奇跡だ。
Top Image: Enrique Ortega Miranda on Unsplash