民法 問題41
Aは、B所有の茶器を所持していたところ、Cから100万円を借り受けるに当り、この茶器をCに質入れした。
1 この茶器は、AがBから預かっていたにすぎないのに、Bの承諾なしに、自己のものとしてCに質入したものであった場合に、Cは質権の実行により、100万円の貸金債権の弁済を受けることができるか。次の3つの場合のそれぞれについて検討せよ。
(1) 現在、Cが茶器を所持している場合
(2) 質権の設定後にAの懇願を受けてCがこの茶器をAに引き渡し、現在は、Aがこれを所持している場合
(3) Cから茶器の引渡しを受けたAがこれを更にBに返還し、現在は、Bがこれを所持している場合
2 この茶器は、AがBに貸し付けた50万円の貸金債権の担保のためにBからAに質入れされたもので、これを、AがBの承諾なしに更にCに質入れしたものであった場合に、Cは、自己の質権の実行により、100万円の貸金債権の弁済を受けることができるか。
※旧司法試験 平成2年度 第2問
1 問1(1)
Cが、質権(342条)を実行するためには、質権を取得している必要がある。
本問では、Aは、茶器に関して無権原であるため、Cは質権を取得しないのが原則である。
もっとも、質権も「権利」にあたることから、Cの無権原につき善意かつ無過失であれば、質権を即時取得する(192条)。
したがって、かかる場合は、Cは質権を実行できる。
2 問1(2)
本問では、質物は設定者のAが所持している。
そこで、質権をCが即時取得したあと、質物を設定者に引き渡した場合はどうなるか。質物を設定者が占有している場合、質権が消滅するのではないかが問題となる。
この点、質権の留置的効力を重視すると、占有を失った以上質権も消滅するとも思える。
しかし、質権の本来的効力は優先弁済権にあり、留置的効力は債務者による弁済を促進するものにすぎない。
したがって、質物の占有継続は第三者対抗要件にすぎず(352条)、設定者に質物を返却しても質権は消滅しないと解する。
よって、Cは質権を実行することができる。
3 問1(3)
本問では、質物は所有者Bが所持している。
そこで、質権をCが即時取得したあと、質物が所有者Bの手に渡った場合はどうなるか。質物を所有者が占有している場合にも質権を実行できるか。質権を即時取得された所有者が「第三者」(352条)にあたるのかが問題となる。
この点、質権を即時取得された所有者は、その限りにおいて制限を受ける。そこで、右所有者は物上保証人と同等の立場に立つと解する。
したがって、質権を即時取得された所有者は「第三者」にあたらない。
よって、Aは「第三者」にあたらないため、Cは質権を実行することができる。
3 問2
(1) Aは、Bの承諾なくCに質入れしているところ、これは責任転質(348条)として認められる。したがって、Cは質権を取得している。
(2) では、Cは質権を実行して100万円全額の弁済を受けることができるか。責任転質の法的性質が問題となる。
この点、348条は「質物について、転質をすることができる」との文言から、質物そのものから再び質入れされるものと解する。だとすると、原質権の担保価値の限度で弁済を受けることができると解する。
本件では、原質権の担保価値は50万円である。したがって、Cは、質権の実行により50万円の限度で弁済を受けることができるにとどまる。
もっとも、Cが、責任転質につき善意かつ無過失であれば、質物全体の価値100万円の質権を即時取得するため、かかる場合は、Cは、質権の実行により100万円全額の弁済を受けることができる。
以上