民法 問題11
Aは、Bに対し、自己の所有する中古のステレオ・セットを贈与することを約し、Bへの送付をCに委託した。ところが、Cによる輸送の途中、Dがこのステレオ・セットを盗み、Eに売り渡した。
1 この場合に、A、B及びCは、Eに対し、ステレオ・セットの引渡しを請求することができるか。
2 A、B、Cのいずれもがステレオ・セットを取り戻すことができなかった場合に、BがAに対してすることができる請求及びAがその請求を拒むことができる根拠について説明せよ。
第1 問1
1 まず、Cはステレオセットの直接占有者にあたる。また、Aも輸送をCに委託していたことから、Cを占有代理人とする間接占有者にあたる。
そこで、AとCは「奪われ」たステレオセットを占有回収の訴え(200条1項)に基づき返還を請求することが考えられる。
もっとも、EはDから売買(555条)に基づきステレオセットを入手しているため「侵奪した者の特定承継人」にあたり、「侵奪した事実を知っていた」場合を除き、占有回収の訴えは認められない(200条2項)。
2 次に、所有権に基づく返還請求が考えられるが、ABどちらに所有権が帰属するかが問題となるも、176条により、贈与契約時にAからBに所有権が移転していると解する。
3(1) しかし、Eはステレオセットを売買たる「取引行為」で取得しているため、192条の要件を満たせば即時取得によりEに所有権が移転し、Bは所有権に基づく返還請求は認められないのが原則である。
(2) もっとも、ステレオセットは「盗品」であるため、「被害者」は盗まれた日から2年間は回復請求ができる(193条)。そこで、193条の法的性質と「被害者」の意義が問題となる。
(3) この点、回復請求に所有権復帰の意味まで持たせると、占有を奪われた賃借人が回復請求をした場合、最初から持っていない所有権などの復帰を求められることになり不合理である。
したがって、193条が成立する場合は、例外的に即時取得者は占有だけを取得し、回復請求は、占有物の返還を求めるもと解する。
そして、回復請求を占有の回復ととらえる以上、「被害者」とは占有を有した者と解する。
(4) よって、本問ではEが即時取得の要件を満たしたとしても、193条により例外的にBが所有権を有したままといえ、Bは所有権に基づく引渡し請求をすることができる。
また、前述のとおりAとCもステレオセットを占有していたため、193条に基づき引渡しを請求することができる。
第2 問2
1 ステレオセットを取り戻すことができなかった場合、AのBに対する贈与は社会通念上履行不能になったといえるため、Bは債務不履行に基づく損害賠償(415条)をすることが考えられる。
これに対し、Aは、「責に帰すべき事由」がないと反論することが考えられる。
(1) まず、ステレオセットが盗まれたのは、Cによる輸送の途中であったため、Aに直接の責任はなく、Aに故意または過失は認められない。
(2) だとしても、Cに故意または過失があった場合、それをAの過失と評価できるか。
この点、Cは履行補助者であるところ、履行補助者の責任を本人の責任と評価できる根拠は報償責任の原理にある。だとすると、贈与契約という無償契約である場合にはこれにあたらない。
したがって、本問では、履行補助者Cの責任を本人Aの責任と評価することはできず、Aに「責に帰すべき事由」がない。
よって、Bは、債務不履行に基づく損害賠償を請求することができない。
2 さらにAは、本問贈与が「書面によらない贈与」だとして解除することが考えられる(550条)。
これに対し、Bは、「履行が終わった部分」については解除することができない(同条ただし書)と反論することが考えられる。
そこで、本問ではステレオセットを送付しているところ、これが「履行が終わった」にあたり解除できないのではないか。「履行が終わった」の意義が問題となる。
この点、550条本文の趣旨は、贈与者の意思を明確にし、もって後日の紛争を防止する点にある。だとすると、贈与者の意思が明確になった場合、すなわち動産であれば引渡しが完了した場合には「履行が終わった」と解する。
本問ではステレオセットを送付したものの、引渡しは完了していない。したがって、「履行が終わった」とはいえず、Aは解除することができる。
以上