民法 問題33

 買主Xは、売主Aとの間で、Aが所有する唯一の財産である甲土地の売買契約を締結した。ところが、XがAから所有権移転登記を受ける前に、Aは、Bに対して、甲土地について贈与を原因とする所有権移転登記をした。

1 上記の事案において、(1)AB間の登記に合致する贈与があった場合と、(2)AB間に所有権移転の事実はなくAB間の登記が虚偽の登記であった場合のそれぞれについて、Xが、Bに対して、どのような権利に基づいてどのような請求をすることができるかを論ぜよ。

2 上記の事案において、Bは、甲土地について所有権移転登記を取得した後、Cに対して、甲土地を贈与し、その旨の所有権移転登記をした。 この事案において、(1)AB間の登記に合致する贈与があった場合と、(2)AB間に所有権移転の事実はなくAB間の登記が虚偽の登記であった場合のそれぞれについて、Xが、Cに対して、どのような権利に基づいてどのような請求をすることができるかを論ぜよ。

※旧司法試験 平成19年度第1問


1 設問1(1)
(1) Xは、所有権(206条)に基づき、Bに対して甲土地移転登記請求をすることが考えられる。
 XB間は対抗関係になるため、甲土地所有権登記を具備していないXの上記請求は認められないのが原則である(177条)。
(2) しかし、Bが177条のいう「第三者」にあたらなければBに対して所有権を対抗し得る。そこで、「第三者」の意義が問題となる。
ア そもそも、177条の趣旨は、登記を基準とした画一的処理により不動産取引の安全を図る点にある。かかる趣旨からすれば、「第三者」とは、取引安全を図るに値する者、すなわち不動産登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者をいうと解する。
 もっとも、自由競争の原理のもとにおいては悪意者も正当な利益を有するといえるが、これを超えて自由競争原理を逸脱するような主観を有する背信的悪意者については、信義則(1条2項)上、上記正当な利益を有さないと解する。
(3)したがって、Bが背信的悪者にあたれば、「第三者」にあたらない。よって、かかる場合に、Xの上記請求は認められる。
2 次に、Aは「唯一の財産」である甲土地をBに贈与している。そこでXは、詐害行為取消権(424条)に基づき、AB間の贈与(549条)を取消し、自己に移転登記請求することが考えられる。
(1) まず、移転登記請求権という特定債権が詐害行為取消権の被保全債権となり得るか。
 確かに、詐害行為取消権は責任財産保全を目的とする制度である以上、特定物債権を被保全債権とすることはできない。
 しかし、特定債権も、究極において損害賠償請求権(415条)に変じ得るものなので、債務者の一般財産により担保されなければならないことは金銭債権と同様である。
 そこで、詐害行為取消権行使時に金銭債権となっていれば、これを保全するために 詐害行為取消権を行使し得ると解する。
 ただし、債務者の責任財産保全という目的に鑑み、 債務者の下への移転登記を請求できるにとどまり、 自己への移転登記手続は請求できないと解する。
(2) 本問ではAB間の贈与により、AのXに対する甲土地移転登記義務は履行不能となり損害賠償債務に転化しているため、詐害行為取消権行使時に金銭債権になっている。
 したがって、Aの移転登記請求権は被保全債権となる。
(3) よって、ABが詐害意思を有していれば、Xは詐害行為取消権の行使によりAB間の贈与を取消し、甲土地移転登記の抹消請求することによりAの下に登記を戻すことができるにとどまる。
2 設問1(2)
(1) AB間に所有権移転の事実がない場合、Bは無権利者であるため「第三者」にあたらず、Xの上記請求は認められる。
(2) 他方、移転登記は「法律行為」(424条1項)にあたらないため、詐害行為取消権に基づくXの上記請求は認められない。
3 設問2(1)
(1) 本設問でも、Xは、所有権(206条)に基づき、Cに対して甲土地移転登記請求をすることが考えられる。
 この場合も、XC間は対抗関係となるため、甲土地所有権登記を具備していないXの上記請求は認められないのが原則である。
ア では、Bが背信的悪意者にあたり、Cが背信的悪意者にあたらない場合はどうなるか。背信的悪意者からの譲受人に対抗できるかが問題となる
(ア) この点、背信的悪意者は信義則上権利を主張できないにすぎず、権利自体は有効に取得している。また、信義則に反しているか否かは個別的に判断されるべきである。そこで、背信的悪意者からの譲受人は、その者自身が背信的悪意者に当たらない限り、「第三者」にあたるというべきである。
(イ) したがって、Cは「第三者」にあたるため、Xは自己に甲土地所有権が帰属していることを対抗できない。
 よって、かかる場合、Xの上記請求は認められない。
イ では、Bが背信的悪意者にあたらず、Cが背信的悪意者にあたる場合はどうか。背信的悪意者でない者からの譲受人が背信的悪意者の場合も権利を有効に取得できるのかが問題となる。
(ア) この点、いったん有効に権利を取得した者が現れれば、その時点で法律関係は確定している。また、取引の安全の観点から、法律関係を早期に確定させる必要がある。
 そこで、前者が背信的悪意者でなければ、それ以降の者が背信的悪意者であったとしても、前者の地位を承継し有効に権利を取得できると解する。
(イ) したがって、CもBから有効に権利を取得しているため「第三者」にあたると解する。
(ウ) よって、Xは、自己に甲土地所有権が帰属していることを対抗できず、Xの上記請求は認められない。
ウ 以上により、BC共に背信的悪意者にあたる場合のみCは「第三者」にああらず、Xの上記請求は認められる。
(2) また、ACに詐害意思がある場合、Xは詐害行為取消権の行使によりAB間の贈与を取消し、Cに対してAの下に甲土地登記移転請求をすることができる。
4 設問2(2) 
(1) この場合、虚偽の登記を信頼してCは取引関係に入っていると考えられる。そのため、94条2項直接適用または類推適用で保護される限りにおいて、Cは177条の「第三者」にあたり、Xの上記請求は認められない。
(2) なお、AB間に「法律行為」(424条)は存しないため、詐害行為取消権の行使によるXの上記請求は認められない。
以上


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