民法 問題26

 甲は、乙をだまして乙の所有地を買い取り、登記後、乙は、詐欺を理由として右売買を取り消した。しかるに、甲は、自己の登記名義を利用して、その土地を丙に売却し移転登記をした。
 甲乙丙の法律関係は、どうなるか。


1 乙丙間
 乙は、丙に対して、本件土地の所有権に基づき、移転登記の抹消請求をすることが考えられる。
 かかる請求が認められるためには、乙が本件土地の所有権帰属を丙に対抗でき、乙が本件土地の登記を有してることが必要である。
(1) 丙は、本件土地の登記を有している。
(2) 乙は、甲乙間の本件土地の売買契約を詐欺取消している(96条1項)。したがって、甲乙間の売買は遡及的に無効となるため、乙がいまだ所有権を有していることとなり、乙の上記請求が認められるのが原則である。
 これに対し、丙は、96条3項の「第三者」として保護される結果、自己に所有権が帰属することを主張すると考えられる。そこで、「第三者」の意義が問題となる。
ア この点、同項の趣旨は、取消しの遡及効によって害されるものの取引安全を保護する点にある。そこで「第三者」とはかかる取引安全を図るに値する者、すなわち、詐欺による法律関係を基礎として、詐欺取消し前に、新たに独立の法律上の利害関係を有するに至った者をいうと解する
イ 丙は、乙の取消し後に甲より本件土地を取得している。したがって、同項の「第三者」にあたらない。
ウ よって、丙のかかる主張は認められない。
(3) そうだとしても、詐欺取消し後に取引に入った者が一切保護されないのでは取引の安全が図れない。そこで、詐欺取消し後の第三者を保護する法律構成が問題となる。
ア まず、丙は94条2項の「第三者」として保護されないか。
 この点、甲乙間に「通じてした・・・意思表示」がなく、同項を直接適用することはできない。しかし、同項の趣旨は権利外観法理にある。そこで、通謀がなくとも、①虚偽の外観があり、②真の権利者に帰責性が認められ、③外観に対する信頼が認められれば同項を類推適用できると解する。
 本件では、甲名義の虚偽の外観があり(①)、それを信頼して丙は売買契約をしている(③)。もっとも、通常被詐欺者に帰責性は認められないものの、詐欺取消し後に登記を自己の下に戻さず、あえて長期間放置したような場合は虚偽の外観作出と同視でき、真の権利者乙に帰責性が認められるというべきである(②)
 したがって、かかる場合に、丙は94条2項の「第三者」として保護される。
 この場合、乙丙間は前主後主の関係に立つことから、乙は、丙に対して本件土地の所有権が自己に帰属することを対抗し得ず、乙の上記請求は認められない。
イ また、取消しの遡及効は法的な擬制にすぎず、取り消されるまでは有効であるため、第三者との関係では取消しの時点で所有権の復帰があったのと同様に考えることできる。そこで、詐欺者を起点とした二重譲渡と同様に考えることができ、対抗問題として登記の先後で優劣を決することもできると解する(177条)。
 本件では、丙が登記を具備しているため、乙は、丙にして本件土地の所有権帰属を対抗することができない。
 したがって、乙の上記請求は認められない。
(4) なお、94条2項類推適用と177条適用の両法律構成は請求権競合の関係に立つため、丙はどちらも主張し得ると解する。
2 甲乙間
(1) 乙は、甲の詐欺による不法行為に基づく損害賠償請求権を有する(709条)。
(2) また、甲は、売買代金を受け取っていることが考えられるため、乙は、不当利得(703条、704条)に基づく売買代金返還請求権を有する。
3 甲丙間
 丙は、本件土地所有権を取得する場合、甲は契約責任を負うのみである。
以上


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