民法 問題46
AはBとの間で自己所有の甲建物について賃貸借契約を締結し、BはAの承諾を得て同建物をCに転貸した。
1 AB間で賃貸借契約が合意解除された場合における、AC間の法律関係について論ぜよ。
2 Aは、B及びCと交渉し、AC間で新たに甲建物に関する賃貸借契約を締結することとした。その後、Cは、甲建物に内縁の妻Dと居住していた。高齢のためCは死亡したが、引き続きDは同建物に居住し続けていた。なお、Cには相続人として子Eがいる。
(1) この場合において、A、D及びEの法律関係について論じなさい。
(2) AE間で賃貸借契約が合意解除された場合において、AがDに対して甲建物の明渡しを請求することができるか。
第1 問1
Aは、Cに対して、所有権(206条)に基づき甲建物の明渡請求をすることが考えられる。Aは、甲建物を所有しており、かつCは甲建物をBから受けてこれを占有しているため、かかる請求は認められるのが原則である。
(1) これに対し、Cとしては、転借権についてついて承諾があることから占有権原があると反論することが考えられる。そして、転貸借について賃貸人の承諾がある場合には、転借人は賃貸人との関係において適法に占有をすることができる。
しかし、Aは、AB間の賃貸借契約についてBと合意解約をしている。そして、転貸借関係は原賃貸借関係を基礎に成り立つものであるから、原賃貸借契約が消滅した場合には、転貸借関係についてもその基礎を失い、転借人は占有権原を失うと解する。
そのため、AB間の合意解除が適法になされている以上、Cは占有権原を有しないのが原則である。
(2) もっとも、Cとしては、545条1項ただし書の「第三者」として保護されるため、なお占有権原を有すると反論することが考えられる。
ア 合意解除は当事者間の契約であるものの、契約を消滅させる点では法定解除と同様である。そのため、合意解除であっても545条1項ただし書の適用はあると解する。
イ そして、債権者を反対債務から解放するという解除の趣旨を達するべく、解除により当事者間の債権債務関係は遡及的に消滅すると解する。そのため、545条1項ただし書の「第三者」とは、かかる遡及効から害される者、すなわち解除された契約から生じた法的効果を基礎として、新たに権利を取得した者をいうと解する。
ウ 本件について、転借人の地位は、上記のとおり原賃貸借における賃借人の地位に依存する派生的な地位である。だとすると、解除された賃貸借関係から生じた法的効果を基礎とはするものの、新たに権利を取得した者とはいえない。したがって、転借人Cは545条1項ただし書の「第三者」にあたらない。
エ よって、Cの上記反論は認められない。
(3) そうだとしても、AB間の合意解除は、転借人Cの地位を不当に害するものであるから、合意解除の効果をCに対抗することができないと反論することが考えられる。
ア この点について、賃貸借契約の合意解除は賃借権の放棄であり、権利の放棄は正当に成立した他人の権利を害することは許されないというべきである(538条参照)。そのため、賃貸人が債務不履行解除をする状況であった場合でない限り、合意解除の効果を転借人に対抗することは信義則(1条2項)上許されないと解する。
イ 本件では、Bに債務不履行があるような場合以外は、Aが債務不履行解除をなし得る状況であった場合ではないから、AB間の合意解除をCに対抗することができない。
(4) よって、かかる場合以外はCはなお占有権原を有するため、Aの上記請求は認められない。
第2 問2(1)
1 AD間
Aは、Dに対して、所有権に基づき甲建物の明渡請求をすることが考えられる。Aは、甲建物を所有しており、かつDは甲建物に居住し占有しているといえるため、かかる請求は認められるのが原則である
(1) これに対し、Dは、甲建物の賃借権があることを主張してこれを拒むことが考えられる。
(2) この点、Dは内縁配偶者にすぎず、Aには子Eがいるため、借地借家法36条1項の「事実上の夫婦」であったことを主張して賃借権を承継したことを主張することはできない。
しかし、建物賃借権は居住者の生活の基盤となる重要な権利である。そのため、内縁配偶者の死亡という偶然の事情で奪ってしまうのは妥当でない。
そこで、内縁関係にあった者は、内縁配偶者に相続人がいる場合であっても、賃貸人の権利を不当に害することがない限り、相続人の相続した賃借権を援用し得ると解する。
(3) 本件では、甲建物の使用実態は従前と変わらず賃貸人Aの権利を不当に害することもない。したがって、DはEの相続した賃借権を援用できると解する。
(4) したがって、Dは、甲建物につき適法な占有権原を有することとなるため、Aの上記請求は認められない。
2 DE間
(1) Eは、AのDに対する甲建物の返還請求権を代位行使することが考えられる(423条)。
この点、責任財産を目的としない債権者代位権の行使は認められている(423条の7)以上、かかる請求は認められるのが原則である。
しかし、本件おいてこれを認めると、内縁配偶者が相続人の賃借権を援用できるとした上記結論を無に帰することとなる。したがって、当該援用ができる場合、相続人が賃貸人の賃貸物の返還請求権を代位行使することは権利濫用(1条3項)にあたり認められないと解する。
よって、Eの上記請求は認められない。
(2) 後述のように、AE間に賃貸借契約は存続することとなるため、Eは、Dに対して賃料相当額を不当利得請求(703条)することができる。
3 AE間
DがEの賃借権を援用できるとしても、甲建物の賃貸借関係は引き続きAE間にあると考えられるため、AはEに対して賃料支払請求をすることができると解する。
第3 問2(2)
Aは、Dに対して、AE間の賃貸借契約を合意解除したことによりDは占有権原を失ったとして、甲建物の明渡請求をすることが考えられる。
この点、Dは、Eを転貸人とした転借人と同様の立場にあると考える。そうすると、第1で論じたように、AE間の合意解除は信義則上Dに対抗できないと考えるべきである。したがって、当該合意解除が信義則に反しない特段の事情がある場合にのみ、Aの上記請求は認められる。
以上