民法 問題34

 AB間でA所有の不動産をBに3,000万円で売却する旨の契約が成立し、内金2,000万円の支払後、残代金は1年後に支払う約束の下に、所有権移転登記及び引渡しが完了した。その後、Bは、事業に失敗し、その債権者Cに迫られて、唯ーの資産である右不動産を代物弁済としてCに譲渡することを約束した。このため、Aは、Bから履行期に残代金の支払を受けることができなかった。

(1) 右の場合において、Cが所有権移転登記及び引渡しを受けていたときは、Aは、B及びCに対しどのような請求をすることができるか。

(2) AがBの債務不履行を理由として右売買契約を解除したが登記を回復しないでいる間に、BからCへの右代物弁済の約束がされた場合はどうか。Cが所有権移転登記及び引渡しを受けている場合といずれも受けていない場合に分けて論ぜよ。

※昭和63年度 第2問


1 設問(1)
(1) まず、Aは、Bに対して、債務不履行(412条1項)に基づいて損害賠償請求をすることができる(415条)。
(2) 次に、Aは、AB間の本件不動産の売買契約(555条)を解除(541条)し、Cに対して本件不動産の引渡し及び移転登記請求をすることが考えられる。
 この点、AB間の売買が解除されれば当該売買は遡及的に無効となり、BC間の代物弁済は他人物による弁済となるため、Aの上記請求が認められるのが原則である。
 もっとも、Cが「第三者」(545条1項ただし書)にあたるとなると解除の効力をCに対抗できない結果、Aの上記請求は認められない。
 そこで、「第三者」の意義が問題となる。
ア この点、「第三者」とは、解除の遡及効により害されるものを保護するとの同条項ただし書の趣旨から、解除された契約を基礎として、解除前に新たに権利を取得した者をいうと解する。
 そして、「第三者」として保護されるための要件を検討するに、解除されるか否かは定かでない以上は善意・悪意の問題とすることはできないが、何ら帰責性のない者を犠牲にして保護を受ける以上、権利保護要件としての登記が必要であると解する。
イ 本件では、Cは、Aの解除前に代物弁済契約で本件不動産を取得している。また、Cは、本件不動産の登記を具備している。したがって、解除された契約を基礎として、解除前に新たに権利を取得した者といえ、「第三者」にあたる。
ウ よって、Aの上記請求は認められない。
(3) Bは、Cに対して唯一資産である本件不動産をCへの代物弁済(482条)として譲渡している。
 そこで、Aは、Bに対する残代金債権を被保全債権として、当該代物弁済を詐害行為取消権(424条1項)の行使として取消し、Cに対して、自己に本件不動産の引渡し及び移転登記請求をすることが考えられる。
ア まず、代物弁済が詐害行為にあたるか問題となるが、Cの受けた給付の価額がその行為によって消滅した債務の額より過大である場合、その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分についてのみ、詐害行為取消請求をすることができるのが原則である(424条の4)。
 もっとも、目的物が不可分である場合には、詐害行為全体について取り消した上、現状回復なし得ると解する。
 本件不動産は金銭と異なり不可分であるため、不動産全体について取り消し得る。
イ 次に、AはCに対して、自己へ本件不動産の引き渡し及び登記移転請求できるか。
 この点、「債務者及びその全ての債権者に対して」(425条)との文言と、責任財産の保全という詐害行為取消権の趣旨に鑑みると、債務者の下に返還するよう請求するにとどまると解する。
ウ したがって、BCに詐害意思が認められれば、Aの上記請求は認められないものの、Bの下へ移転登記及び本件不動産の返還を請求することができる。
2 設問(2)
(1) Cが、本件不動産の所有権移転登記及び引渡しを受けている場合
ア Aは、所有権に基づき、本件不動産の返還及び移転登記請求をすることが考えられる。
 AB間の売買契約は解除されているため、Cは「第三者」(545条1項ただし書)にあたらず、Cは本件不動産の所有権取得していることをAに対抗できないため、Aの上記請求が認められるのが原則である。
 もっとも、解除後の「第三者」が一切保護されないのは取引の安全を害する。そこで、解除後の第三者を保護する法律構成が問題となる。
(ア) この点、取消しの遡及効は法的な擬制にすぎず、取り消されるまでは有効であるため、第三者との関係では取消しの時点で所有権の復帰があったのと同様に考えることできる。そこで、被解除権者を起点とした二重譲渡と同様に考えることができ、対抗問題として登記の先後で優劣を決すと解する(177条)。
(イ) 本件では、Cが登記を具備しているため、177条の「第三者」にあたる。したがって、Aの上記請求は認められない。
イ だとしても、解除に伴う原状回復請求権を被保全債権とする詐害行為取消権を行使により、BC間の代物弁済契約を取り消し、Cに対して、Bの下へ本件不動産の移転登記及び返還請求をすることはできないか。特定債権保全のための行使が許されるのかが問題となる。
(ア) 確かに、詐害行為取消権は責任財産保全を目的とする制度である以上、特定債権を被保全債権とすることはできない。
 しかし、特定債権も、究極において損害賠償請求権(415条)に変じ得るものなので、債務者の一般財産により担保されなければならないことは金銭債権と同様である。
 そこで、詐害行為取消権行使時に金銭債権となっていれば、これを保全するために 詐害行為取消権を行使し得ると解する。
 また、このことは、 趣旨・要件・効果の異なる177条の規定に矛盾しないと解する。
(イ) したがって、BCに詐害意思が認められる限りにおいて、Aの上記請求は認められる。
(2) Cが、本件不動産の所有権移転登記及び引渡しを受けていない場合
 Bの、代物弁済の意思表示時に本件不動産の所有権はCに移転している(176条)。したがって、AC間は対抗関係となるため、Aは、登記を具備すれば、本件不動産の返還及び移転登記請求をすることができる。
以上


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