民法 問題19

⑴ Aは,複数の債権者に対して多額の債務を負っていたが,その所有する甲土地を差 し押さえられることを避けるため,知人Bと相談の上,実際には売買の事実はないに もかかわらず,甲土地をBに対して売却したように装い,甲土地の登記名義をBに移 転した。ところが,資金繰りに窮したBがこの状況を奇貨として,甲土地をCに対し て売却し,引き渡したところ,さらに,CがこれをDに対して転売し,引き渡した。 なお,現在,甲土地の登記名義はBのままになっている。
 以上の事実関係を前提に,①CはAB間の事情について知っていたが,Dは知らな かった場合,及び②CはAB間の事情について知らなかったが,Dは知っていた場合 のそれぞれについて,AD間の法律関係について,論じなさい。
⑵ Eは,その所有する乙土地について,固定資産税の負担を回避するため,知人Fと 相談の上,乙土地をFに対して売却したように装い,乙土地の登記名義をFに移転し た。ところが,Fは,EF間の事情を知らないGから,乙土地を購入したい旨の申し 出を受けたため,Gに対して,乙土地を売却してしまった。ただし,所有権の移転登 記は行われず,登記名義はFのままであった。
 他方,Eは,上記売買後も乙土地の使用を継続していたが,それを見たHから,乙 土地を譲ってくれないかとの申し出を受けた。Eは,登記名義こそFに移転したもの の,乙土地の真の権利者は自分であるから問題ないと考え,Hに対して,乙土地を売 却し,これを引き渡した。
 GH間の法律関係について,論じなさい。


第1 設問(1)①
 Aは、Dに対し、所有権(206条)に基づき、甲土地の引渡しを請求することが考えられる。
1 かかる請求が認められるためには、Aが甲土地を所有しており、Dがこれを占有している必要がある。
(1) まず、Dは、甲土地をCから引渡しを受けていることから、占有しているといえる。
(2) 他方、ABの売買は、「相手方」Bと相談の上、実際には売買の事実がないのに登記だけを移転しているため「虚偽の意思表示」といえ、無効である(94条1項)。そして、無権利者Bから買い受けたCも所有権を取得できず、そのCから買い受けたDも無権利者であることから、原則Aの上記主張は認められる。
 もっとも、Dは、94条2項の「善意の第三者」にあたるとして、甲土地の所有権取得をAに対抗できないか。
ア この点、同条項の趣旨は、虚偽の外観を信頼して取引関係に入った者を保護する点にある。だとすると、「第三者」とは、虚偽の外観を信頼して、新たに独立した法律上の利害関係を有するに至った者をいうと解する。そして、転得者であっても同条項の趣旨は妥当するため「第三者」にあたると解する。
 したがって、登記という虚偽の外観を信頼して売買契約をしたDも新たに独立した法律上の利害関係を有するに至った者といえ、「第三者」にあたる。
イ また、「善意」とは、条文上無過失まで要求していないし、本人の帰責性の大きさから、文言通り「善意」で足りると解する。さらに、本人と「第三者」は前主後主の関係であることから対抗要件として登記を要せず、また、本人の帰責性の大きさから、権利保護要件としての登記も不要と解する。
ウ よって、AB間の事情について知らないDは「善意」であるため、登記がなくても94条2項で保護される。
(3) 以上により、Dは、Aとの関係では甲土地の所有権を取得していることを対抗できるため、Aの上記請求は認められない。
第2 設問(1)②
1 本問では、Dは悪意であるため「善意の第三者」あたらず、94条2項により保護されない。
2 もっとも、Dの前主であるCは、「善意の第三者」にあたり94条2項により保護される結果、甲土地所有権を取得する。
 そこで、「善意の第三者」がいったん現れれば、その後の転得者でもその地位を承継取得できないかが問題となる。
 この点、善意者介在後の悪意の転得者が権利を取得できないとなると、法律関係の早期安定が害される。また、悪意の転得者が善意者に対して解除に基づく代金返還請求権(542条1項1号、545条1項本文)を追及でき、94条2項の善意の第三者保護の実質が失われてしまう。
 そこで、「善意の第三者」が現れればこの者が絶対的に権利を取得し、転得者は悪意あっても、善意者をワラ人形的に介在させた場合でない限り、「善意の第三者」の地位を承継取得すると解する。
 したがって、Dが、Cをワラ人形的に介在させた場合でない限り、Cの地位を承継取得する。
3 よって、Dが甲土地所有権を取得するため、Aの上記請求は認められない。
第3 設問(2)
 Gは、乙土地所有権に基づき、Hに対して、乙土地の引き渡しを請求することが考えられる。
1 かかる請求が認められるためには、Gが乙土地を所有しており、Hがこれを占有している必要がある。
(1) まず、Hは、Eから乙土地の引渡しを受けていることから、占有しているといえる。
(2) 次に、Gは、94条2項の「善意の第三者」にあたるため、Eとの関係では、乙土地の所有権取得を対抗することができる。
 もっとも、Eは、乙土地をHに譲渡している。そこで、「第三者」と本人からの譲受人との関係が問題となる。
(3) この点、同条項により仮装譲受人が真正の権利者のように扱われるのは一種の法的擬制であり、同条項による権利変動の実体的過程は、本人から第三者への承継取得であると解する。
 そこで、「第三者」と本人からの譲受人は対抗関係に立ち、先に対抗要件を具備した者が優先すると解する(177条)。
3 したがって、Gが乙土地の登記を具備すれば、Hに対する上記請求は認められる。
以上 


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