刑法 問題5
甲と乙は、 甲が乙に軽度の傷害を与え保険金名下に金員を詐取しようと共謀 し、 甲が、 自ら運転する自動車を乙の運転する自動車に追突させて、 乙に軽傷を 負わせた。 右追突により乙の自動車が突然対向車線に押し出されたため、 対向車 線を走行してきた丙の運転する自動車が避けきれずこれに激突し、 その結果乙は 死亡した。
甲の罪責を論 ぜよ。
1 甲が、乙の運転する車に追突し、結果乙を死なせた行為に傷害致死罪(205条)が成立するか。
(1)ア 人の乗る車に、車で追突する行為は、人の生理的機能を害する危険性を有する行為であるため、乙を「傷害し」たといえる。その結果、乙は「死亡」している。
イ また、上記追突行為と死の結果との間には因果関係が必要なところ、行為の有する危険が現実化したといえる場合には認められると解する。そして、車を追突させたことによって乙の乗る車が対向車線に押し出され、結果対向車に激突されていることから、追突行為の有する危険が現実化したことによって死の結果が発生している。
したがって因果関係が認められる。
ウ そして、甲には上記傷害の認識認容があったといえ、故意(38条1項)が認められる。また、加重結果には過失は不要であり因果関係が認められれば成立するところ、前述のように因果関係は認められるため、加重結果にも責任を負う。
したがって、傷害致死罪の構成要件を満たす。
(2) もっとも、乙は、傷害されること対して承諾があったと考えられる。そこで、被害者の承諾が違法性を阻却するかが問題となる。
この点、違法性の実質は、社会相当性を逸脱した法益侵害又はその危険である。そこで、当該承諾も社会相当性を有するかを諸事情を総合的に判断し、社会相当性を有する場合には違法性が阻却されると解する。
本件では、保険金を詐取するための手段、いわば犯罪行為としてなされたものであり、社会的に相当とはいえない。
したがって、違法性は阻却されない。
(3) よって、甲の上記行為に傷害致死罪が成立し、甲は同罪一罪の罪責を負う。
以上