民法 問題39

 Bは,Aから甲建物の所有権を相続し,移転登記を了した。その後,甲建物はBからCに譲渡されたが,いまだに移転登記がなされていない。甲建物は,Aがその所有権を有していた当時から敷地利用については無権原であった。
 甲建物の建っている土地の所有者Dは,甲建物の収去・土地明渡を求めたい。
 Dは誰に対して請求をすればよいか。甲建物が未登記建物であった場合はどうか。

※一橋大学法科大学院平成16年度第1問(1)


1 設問前段
(1) Dは、Cに対して、本件土地所有権(206条)に基づく妨害排除請求として、甲建物収去及び本件土地明渡請求をすることが考えられる。
 かかる請求が認められるためには、Cが甲建物を所有しており、本件土地を占有している必要がある。
 本件Cは、甲建物をBから売買(555条)で譲り受けているところ、所有権は売買契約時に移転(176条)するため、甲建物を所有している。また、甲建物は本件土地上に建っているため、本件土地を占有しているといえる。
 したがって、Dの上記請求は認められる。
(2) 次に、Dは、Bに対しても、甲建物収去及び本件土地明渡請求をすることが考えられる。
ア この点、Bは甲建物の登記を有するにすぎず、甲建物を所有権は前述のとおりCに移転している。そこで、所有権を有していないBに対するDの上記請求は認められないのが原則である。
イ もっとも、かかる原則を貫くと、土地所有者が建物の実質的所有者を探す困難を強いることとなる。これに対し、建物の所有者は移転登記をしないことで明渡義務を逃れることが可能になり妥当でない。
 ここで、土地所有者と土地明渡しを請求する場合の両者の関係は、建物についての物権変動における対抗関係にも似た関係である。
 そこで、他人の土地上に建物を取得した者が、自らの意思に基づいて所有権取得の登記をした場合、建物を譲渡したとしても引き続き登記を有する限り、土地所有者に対して、建物譲渡による所有権喪失を対抗できないと解する。
ウ したがって、登記をいまだ有するCは、土地所有者Bに対して甲建物の所有権を失ったことを対抗できない。
 よって、Dの、Bに対する上記請求は認められる。
2 設問後段
 次に、甲建物が未登記だった場合はどうか。
(1) 前述のとおり、Dは、Cに対して甲建物収去及び本件土地明渡請求できる。
(2) では、Dは、Bに対しても設問前段と同様に甲建物収去及び本件土地明渡請求できるか。
 この点、設問前段の登記の役割は、177条における対抗問題ではなく、建物についての所有権登記が、土地所有者にとって建物収去及び土地明渡についての責任の所在を公示する意味を有するものである。
 したがって、登記を有しない場合は責任を追及することができないと解する。
 よって、登記を有さないBに対しての、Dの上記請求は認められない。
以上


いいなと思ったら応援しよう!