民法 問題12
AはBから借金するに際して、C所有の不動産に抵当権を設定してもらっていた。ところが、弁済期から5年経過して時効が完成してしまった。この場合において、
1 Cは抵当権の実行に際して異議を申し立てることができるか。Cが時効完成前にBに代わって借金の一部を支払っていた場合はどうか。
2 Cが借金の全額を支払ったときは、CはAに対して求償することができるか。
3 Aが借金の半額を支払ったときは、Cの立場はどうなるか。
第1 問1
1 Cは、抵当権の実行に際して、被担保債権たるAの債務が弁済期から5年を過ぎたことから時効が完成(166条1項1号)しており、附従性により抵当権も消滅したと異議を申し立てることが考えられる。そこで、物上保証人が被担保債権の時効を援用できるかが問題となる。
この点、145条は「当事者」に「物上保証人」が含まれるとしている。したがって、物上保証人Cは被担保債権の時効を援用でき、これにより異議申し立てをすることができる。
2 では、Cが時効完成前にBに代わって借金の一部を支払っていた場合はどうか。このCの支払いが「権利の承認」(152条1項)として、時効の更新にあたるかが問題となる。
この点、「権利の承認」は原則債務者本人でしかなし得ないところ、物上保証人は被担保債権の債務者本人ではないため、物上保証人のした支払いは「権利の承認」にあたらない。したがって、時効の更新にあたらないと解する。
よって、被担保債権の時効が完成しているため、それを援用して異議申し立てをすることができる。
第2 問2
物上保証人Cが被担保債権の債務を弁済した場合、債務者Aに対して求償権を取得し得る(372条、351条)。もっとも、本問では被担保債権が消滅時効にかかっている。そこで、かかる場合でも「自己の財産をもって債務を消滅」(459条1項)させたといえるかが問題となる。
1 この点、167条は「消滅する」と規定している以上、時効期間の経過により当然に債務が消滅するとも思える。
しかし、他方で法は、裁判では当事者の援用が必要とも規定している(145条)。ここで、同条の趣旨は当事者の意思の尊重にあるところ、時効を潔しとしない当事者の意思も尊重する必要がある。そこで、時効の効果は時間によって確定的に生じるものではなく、援用を停止条件として実体法上の権利の得喪が生じると解する。
2 したがって、被担保債権が消滅したわけではないため、Cは、「自己の財産をもって債務を消滅」させたといえ、求償権を取得し得る。
3 もっとも、弁済に際しては債務者に対して通知(463条1項、443条)が必要なところ、CがAに対して通知をしてれば、仮にAが時効を援用したとしても、CはAに対して求償することができる。
これに対して、通知をしていなければ、Aが時効を援用した場合、これを対抗され、CはAに対して求償することができない。
第3 問3
1 Aが、時効の完成を知ったあとに借金の半額を支払うことは、時効利益の放棄(146条参照)にあたるものの、時効の効力は相対効のため、物上保証人に何ら影響はあたえない。
したがって、Cは、被担保債権であるAの債務の消滅時効を援用して抵当権消滅の主張をなし得る。
2 他方、Aが時効完成を知らなかった場合は時効利益の放棄には当たらない。もっとも、債権者は半額の支払いにより、債務者はもはや消滅時効を援用しないとの期待をいだくため、信義則(1条2項)条、消滅時効の援用は認められない。
この場合でも、時効の効力の相対効により、Cは消滅時効を援用して抵当権消滅の主張をなし得る。
以上