刑法 問題21

 Xは、街中で友人Yと別れてまもなく、通行人Aの持っていたショルダーバッグをすれ違いさまに奪い取った。AがXを追って来たので、XはAの足を1、2度強く蹴って、その場に転倒させた。そのとき、異変に気付いたYが現場に駆けつけて、とっさに以上の事情を了解し、Xと一緒になって、倒れているAの腹部を足蹴にして動けなくした。その後、X・Yは逃走した。Aは、大腿部骨折の大けがを負ったが、それがYの加わった後に生じたものかどうかは、わからない。
 この設例におけるX・Yの罪責を論じなさい。

※一橋大学法科大学院 平成16年度


第1 Xの罪責
 Aのショルダーバッグを奪い、転倒させ足蹴にした等の暴行を加え大けがを負わせた行為に強盗傷人罪(240条前段)が成立しないか。
1 まず、Xが「強盗」といえるか。ショルダーバッグを奪ってからAを転倒させていることから、事後強盗罪(238条)の成否を検討する。
(1) 事後強盗罪の成立には、Xが「窃盗」であることを要するものの、Xは、Aの占有する財物であるショルダーバッグを、Aの意思に反してすれ違いざまに奪い、自己の占有下に移転させているため「窃取した」(235条)といえ、窃盗にあたる。
(2) また、その直後に追ってきたAの足を強く蹴っている(「第一暴行」という。)ことから、「逮捕を免れ」る目的で反抗を抑圧するに足りる「暴行」をしたといえる。
 さらに、Xは上記事実の認識・認容しているといえ、故意(38条1項)も認められる。 
(3) したがって、事後強盗罪が成立することから、Xは「強盗」にあたる。
2 さらに、その後、Yと共にAに対して腹部を足蹴にして(以下「第二暴行」という。)おり、これはAを追跡させず逮捕を免れるためのものとして、第一暴行との一連一体性が認められる。そして、Yは大腿部骨折していることから、人の生理的機能を障害したといえ、傷害結果も生じている。
 したがって、「負傷させた」といえる。
3 そうだとしても、腹部を足蹴にするという、人の身体に対する高度の危険性を有する行為を行っているところ、Xもその危険性を認識していたといえるから、Xは傷害の故意を有していたといえる。そこで、傷害の故意がある場合にも、240条前段の罪が成立するか。
 そもそも、強盗が故意的に人を傷害するのは刑事学上特に顕著であることから、人身保護を図るべく重い法定刑を科す点にある。だとすると、同条は故意ある場合も含むと解する。
4 以上により、Xの上記行為に強盗傷人罪が成立し、後述するようにYと事後強盗罪の限度で共同正犯となり、Xは同罪一罪の罪責を負う。
第2 Yの罪責
 Yの、Xと共にAを足蹴にした行為に強盗傷人罪の共同正犯が成立しないか。
1 まず、Yに事後強盗罪が成立するかどうかが問題となるところ、窃盗に加功していないYに事後強盗罪が共同正犯が成立するか、事後強盗罪の法的性質が問題となる。
ア この点、事後強盗罪は財産犯であるため、身体に対する罪である暴行・強迫の罪を加重した不信性身分犯ではなく、「窃盗」という身分を有した者にしか犯せない真正身分犯と解する。そして、非身分者も身分者を通じて法益侵害をすることが可能であるから、65条1項の「共犯」には共同正犯も含むと解する。
 したがって、窃盗に加功しない者にも同条項により事後強盗罪の共同正犯が成立し得ると解する。
イ よって、Yも65条1項により事後強盗後罪の共同正犯が成立し得る。
ウ そして、Yは「事情を了解」していることからXと意思の連絡があり、共同して暴行行為を行っているため、事後強盗罪の共同正犯が成立する。
2 では、Yに、Aの負傷の結果につき帰責でき、強盗傷人罪が成立しないか。
ア この点、Aの負傷の結果は、Xが単独で行った第一暴行のものか、XYが共同で行った第二暴行のものか不明である。だとすると、利益原則からYにA負傷の結果を帰責させられないとも思える。
 しかし、承継的共同正犯が成立するとなると、自己の関与前の暴行についても責任を負わせ得る。
 ここで、共同正犯の一部実行全部責任が認められる根拠は、共犯者に相互利用補充関係が認められる点にある。しかし、本件では、加功前の先行者Xの暴行行為については、後行者Yと相互利用補充関係にないため、一部実行全部責任を負わせる前提に欠ける。
 したがって、本件では承継的共同正犯は成立しないと解する。
イ もっとも、同時傷害の特例(207条)により、Y暴行と被害者Aの傷害結果の間に因果関係を推定できないか。
 この点、同条は、因果関係についての立証責任を被告人に転換する例外規定であるところ、かかる例外規定は厳格に解すべきである。
 そこで、強盗傷人罪の場合には、同条の適用すべきでないと解する。
ウ したがって、Yに傷害結果を帰責させることはできない。
3 よって、Yに強盗傷人罪は成立せず、事後強盗罪の共同正犯が成立するにとどまる。そして、Yは同罪一罪の罪責を負う。
以上



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