ソラを見上げて #55 仲間は揃ったか?
『うーめざわ(のーぎざか)、みなみ!(46!)』
『うーめざわ(のーぎざか)、みなみ!(46!)』
(アンコールの掛け声が通路まで聞こえている)
―ライブ会場舞台裏・衣装室前―
🎧:3期、衣装OKです
🎧:了解。ステージ裏へ移動後、梅澤の合図で映像流します。
(イヤモニの誘導で3期生が衣装室からステージ裏へ動き出す)
田:みなさんお待ちかねですよ。
梅:あれ、瑠奈とかっきーは?
あ:一足先にステージ裏で皆さんをお待ちです。
美:なんで?
さ:一番近くで梅澤さんを見送りたいそうです。
美:あらあら、梅は良い後輩を持ったねぇ。
梅:なに言ってんの。やまの後輩でもあるでしょ?
美:へへ。それ、瑠奈にも言われた。
梅:え?
美:梅の背中をずっと見てきたんだものね。似るのは当然か。
梅:……ふふ、かもね。
美:そのおっきな背中、見せつけてやりな。
梅:おうよ。
理:梅の背中はおっきいもんねぇ。
与:よ、3メートル!
梅:3センチは黙ってなさい。
与:ひどかぁ!
(ステージへ向かう梅澤達を見つめているさくらとあやめ)
あ:行っちゃったね。
さ:うん。
あ:今、どんなこと考えてるの?
さ:どうして?
あ:そんな気がして。
さ:……私もいつかそうなった時、あんな風にみんなに囲まれて笑っていたいなって。
あ:そっか。
さ:うん。
早:任せとき。さくちゃんの幸せはウチが守ったる!
矢:ちょっと! さくちゃんを幸せにするのは私なんだけど?
掛:矢久保、それちょっと意味が違う気がする。
柚:じゃあ柚菜はかっきーと幸せになる~。
金:え~、紗耶のことも幸せにしてー!
田:ほらほら、私達も準備しなきゃ。
『はーい』
(さくらの幸せを巡って騒ぎ出す4期生達。田村の一声で衣装室へ戻っていく)
🎧:4期、5期も準備に入ってください。
あ:私達も行こ?
さ:うん。
アンコールの準備をしようと、私とあやめちゃんが振り向いたその時。
【コツ、コツ、コツ……】
通路の向こう側からこちらに歩いてくる女性が見えた。
【コツ、コツ】
私の前で止まったその人は、梅澤さんと同じ衣装を身に着けていた。
『久しぶり、元気だった?』
さ:え……あ、はい!
あ:もしかして……
『へへ、行ってきまーす』
すれ違い、颯爽と歩いていく。
交わした言葉。その懐かしい声に涙が止まらなかった。
あ:ここで、もう一度会えるなんてね。
さ:……うん。
そうそう。3期生さんは、やっぱりこうでなきゃ。
さ:頑張ってください!
『おー!』
(さくらの声に振り向かず、ガッツポーズで応える女性)
あ:ふふ、久しぶりに聞いた。さくのおっきな声。
さ:よし、気合い入った。
あ:行こう!
さ:うん!
(元気よく控室に戻っていくあやめ)
さ:……
さ:……どこ行っちゃったんですか、飛鳥さん。
―ライブ会場・ステージ裏―
(梅澤が到着すると、遥香と林が駆け寄ってくる)
遥:いよいよ、ですね。
梅:うん。
遥:思いっきり、ぶちかましてきてください。
梅:遥香、瑠奈……私がこうやって笑顔で卒業コンサートを出来るのも、二人のお陰よ。ありがとね。
(両手で遥香と林をそっと抱きしめる梅澤)
遥:えっへへ///
林:ぐす。
梅:瑠奈?
林:ぅぐ、ひっく……泣いでばぜん。
梅:も~、仕方ないわねぇ。
林:だって……だっでぇ。
(涙が止まらない林)
遥:瑠奈、美波さんに伝えたい事ありすぎて、昨日からずっと目とか鼻とかから色々想いが溢れちゃって……
林:恥ずがじぃから言わないでぇ。
梅:ふふ。じゃあ、私から先に伝えておこうかな。
遥:え?
梅:遥香、よく聞いて。
遥:は、はい!
(梅澤は林の肩に手を触れ、語り始める)
梅:この子は自分に厳しすぎる所がある。嘘も付けないし、ズルも出来ない。理想や目標が高いあまり、自分を追い込んでしまう時がある。
林:……
梅:だけど、そのストイックさは乃木坂に必要だと思う。瑠奈が先頭に立ってみんなを引っ張れば、乃木坂はもっと上にいけると私は信じてる。だから、遥香は瑠奈が頑張りすぎないようにそばで見ててあげてね。
遥:はい! 任せてください!
梅:瑠奈。
林:すみません、落ち着きました。お伝えしたいコトは全部飛んじゃいましたけど……
梅:いま、私が遥香に伝えたコト。聞いてたわね?
林:はい。
梅:では……副キャプテン、林瑠奈。よく聞いて。
林:はい!
(遥香の肩に手を触れ、語り始める梅澤)
梅:この子は頑張り屋さんで、笑顔がとびっきり可愛いくて。落ち込んでいる子を見つけたらすぐ駆け寄っていく、みんなから愛される子。
遥:……
梅:遥香は優しいから、自分の事はきっと後回しにしてきたのね。だから、瑠奈は遥香をよく見てて。頑張りすぎだと思ったら、無理矢理でもいいから捕まえて、休ませてあげて。
林:わかりました。
遥:それって、私と瑠奈でお互いに支え合いなさいってことですか?
梅:うん。二人とも頑張りすぎて自分の事が見えなくなる所とか、そっくりだから。自分より周りを大切にするのは悪い事ではないけれど……
(梅澤は二人の制服のエンブレムに触れ、微笑む)
梅:このエンブレムを守るという事は、一緒にいる大事な人を守ること。あなた達自身も、守るべき大事な人だということ、忘れないで。
遥:美波さんの言葉、忘れません。
林:ありがとうございます。美波先輩。
梅:乃木坂のこと、よろしくね。
遥&林:はい!
梅:よし! 任せた!
(ハイタッチをする三人)
―ライブ会場・ステージ裏―
美:ねぇ、やっぱりフィッティングで着た時とデザイン変わったよね?
梅:どこ?
美:スカート。右側にこんなポケット付いてたっけ?
梅:ホントだ。ん……でも間違って誰かの衣装を着てるわけでもなさそうだけど。
美:何か意味があるのかな、これ。
梅:ね。ポケットなのにどうして外側に付いてるんだろ? 普通内側だよね……あ。
美:どした?
梅:私もあった……ポケット。
美:どこに?
梅:左側。
美:もしかして私達以外にも付いてるんじゃない?
梅:ねぇ、みんなの衣装のスカートにポケット付いてる?
葉:ポケットぉ?
吉:ないよー。
与:ないね。
理:私もないけど。
麗:うん。梅とやまだけじゃない?
美:えぇ?
梅:どういう事?
桃:それはね、みなみんとやまだけ特別仕様なの。
梅:特別仕様?
桃:うん。『二人の衣装にはどうしても必要なんです!』って言ってた。
梅:私とやまだけに?
桃:うん。
梅:桃子?
桃:はいはい?
梅:……
桃:ん?
梅:……えぇぇぇ!?
桃:やっほい♪
梅:どっどうしてここに!? ていうか、その衣装!
桃:へへ。○○君からプレゼントされちゃった。
(両手を広げ、自慢げに衣装を見せる桃子)
梅:じゃあ、もしかして……
桃:一緒に行くよ。
梅:ホントに?
桃:うん!
梅:うわぁぁ! 桃子~ありがとう!
(力いっぱい桃子を抱きしめる梅澤)
楓:可愛いよ、桃子。
珠:抜群に似合ってるぞ。
桃:へへ。
与:……おかえり。
桃:うん、ただいま。
蓮:うぇぇ……ももごぉ。似合っでるよぉぉ。
(感極まって泣き出す蓮加)
桃:やだ、桃子も泣いちゃうじゃん。
梅:え、もしかして……みんな知ってた?
美:(口笛)♪~~♬~×△〇◇……
梅:誤魔化すの下手! そして口笛も下手!
今:お、来たな大園。そろそろ時間だ、みんな待ってるぞ。
梅:今野さん! 知ってたんですか!?
今:……よし、みんな頼むぞ!
(梅澤と一切目を合わせず退場する今野)
梅:今の間はなに!? 絶対知ってたじゃん!
美:まぁまぁ、いいじゃないの。久しぶりにこうやって全員揃ったんだからさ?
桃:そう。3期生全員でステージに立つためにみなみんとやまの衣装を変更したんだよ。よいしょっと……はい、これ。
美:え? どうしたのこれ。
桃:みなみんも。
梅:私も?
(桃子は水色のサイリウムを美月に。黄色のサイリウムを梅澤に渡す)
美:サイリウム、だよね?
梅:桃子、どういうこと?
桃:やまは青と黄色。みなみんは青と水色。そして、水色と黄色は……
梅:久保の色。
桃:うん。三人は青、水色、黄色で繋がってる。二人のサイリウムカラーに足りない色を補えば、その存在も感じられる。だから、みなみんとやまにはポケットにこのサイリウムを差し込んでステージに立って欲しいって。
美:……やるじゃん、梅のデザイナーくん。
梅:ホント、仕事馬鹿なんだから……ふふ。
桃:それから、みなみんに伝言を預かってます。
梅:え?
(桃子は一枚のメモを取り出す)
桃:年下の俺がとやかく言える訳じゃないのは重々承知の上で、言いたいコトを言わせてもらいます。
梅:……なによ。
桃:初めて会った時は、なんて横暴な女性なんだって思ったよ。人の話を聞かないし、言いたい事だけ押し付けてくるし、勝手に研修の話を進めるし……
梅:ちょっと、学校に行って会うのはお願いしたけど、研修生として受け入れる話をしたのは桃子でしょ? もしかして、説明してないの?
桃:続けまーす♪
梅:まったくもう。
桃:でも、そのお陰でデザイナーとして大切なモノに気づけた。イメージして、綺麗で整ったモノを作るのがデザイナーじゃない。着てくれる人が喜んでくれる、それが一番大切なんだって。だから三代目が喜んでくれるにはどうしたらいいか考えた。その結果がこの衣装と、目の前にいる大園社長です。
梅:……
桃:それと、余談だけど背が高くて強そうだからキャプテンやってるんだと思ってた。
梅:はぁ!?
桃:だけど、衣装制作をする中で三代目の資料や映像を見て分かった。キャプテンになるべくしてなった人なんだって。
梅:……
桃:きっと自分がしてきた事、決断が正しかったのか不安になる時もあったと思う。それでもここまでこれた。辛い時に仲間が助けてくれた。沢山の後輩がついてきたんだ。正しかったんだよ、これまで三代目がしてきた事は。だから、過去を悔んだりしないでほしい。
桃:それじゃ、コンサート頑張れよ。
梅:……格好つけちゃって。
桃:最後に。今着ている衣装だけど、作る時に一番苦労したのはアイドルをしている三代目をイメージする事だったよ。
梅:なんだと!
桃:仲間と一緒に楽しそうに笑っている三代目を思い浮かべて、本気で作った。この衣装を着て、最高の笑顔を見せなかったら承知しねぇからな、梅澤美波。
梅:……
桃:と、いう事です。
梅:(小声)そういうのは直接言いなさいよ……ばか///
美:あれれ~? いつもは三代目って呼ばれてるのに、最後は名前じゃなかった?
桃:ねぇ、みなみんと○○君ってどういう関係なの?
梅:え?
与:ド直球ストレート!
梅:べ、別に……ただのデザイナーと依頼主ってだけよ?
桃:ふーん。
理:へぇ~。
葉:ほぉ~。
吉:ホントに~?
梅:何よその目は! 嘘じゃないし。本当の事だし!
桃:○○君に聞いてもはぐらかすんだもん。気になるじゃん?
蓮:桃子、その話詳しく聞かせて!
珠:大スクープだな。
麗:私も聞きたい!
楓:私も私も!
桃:あとねあとね、『僕達は出会い方が普通じゃなかったんで……』なんて言うんだよ。
『きゃー!!!』
梅:うるせー! ていうか、やまはなんで呼び方のこと知ってんのよ!?
美:はぇ? えっとぉ……ありゃ、なんでだっけ?
梅:まさか、フィッティングの時……
美:(口笛)♪~~♬~×△〇◇……
梅:あー! 嘘ついたな!
桃:なになに! フィッティングの時に何かあったの?
美:あのね……
梅:何もない! 何もないから!
楓:ちょっと梅、静かにして。
梅:なんで私が!?
美:自販機コーナーで二人っきりで——
梅:もうお前しゃべるな!
蓮:梅! 今イイトコなんだから邪魔しないで!
美:ぎゃっはっは!
―つづく―
【おまけ】