ソラを見上げて #33 僕がソラに出来るコト
(夕方…)
―○○のマンション・玄関―
〇:じゃあマスターのとこ行ってくるね。
ソ:行ってらっしゃい。交流戦始まったから、かなり忙しいんじゃない?
〇:うん。毎日満席だよ。閉店ギリギリまでお客さんいるしね。
ソ:そっか。
〇:うん
ソ:……
(何か言いたげな表情のソラ)
〇:あ、ソラも一緒に応援したいんでしょ?
ソ:ううん。そういうワケじゃないんだけどさ。
〇:じゃあ、どうしたの?
ソ:あ、あのさ? できたらでいいんだけど……
〇:ん?
ソ:早く帰ってきて……ね?
〇:お、おぅ。
ソ:そ、それだけ///
〇:は……はい///
ソ:行って……らっしゃい。
〇:行って、まいります
【バタン……】
ソ:やだ、私ったらお付き合いもしてないのにあんな事を……お、重い女だって思われたりしないかな? でも返事してくれたし……どうしよう、どんな顔してお出迎えすればいいの? は……はぐとか? むりむりむり!
(一方○○は……)
〇:あっぶね。心臓止まるかと思った。なんだよ『行ってまいります』って……アホか俺は。
―野球狂の詩・店内―
〇:マスター、4番のお客様が『ポテトまだですか?』って
マ:え……ポテト?
〇:さっき、フライヤーで揚げてましたよね?
マ:あぁ!! やっべぇ忘れてた!
〇:えぇぇ!?
(慌ててフライヤーを確認するマスター)
マ妻:真っ黒じゃないの! 早く作り直さないと!
マ:ヤバイヤバイ……
〇:もう少しかかります。って言ってきますね
マ:すまん!
マ妻:何やってんのよ、もう。
(閉店後……)
〇:マスターもミスする事あるんですね。
マ:いやぁ、俺としたことが……
マ妻:アンタがあんなミスするなんて珍しいね。
〇:また野球見てたんですか?
マ:いや、そういうワケじゃないんだけどな。
マ妻:……
〇:じゃあ悩み事とか?
マ:別にそんなんじゃないんだ。
〇:ならいいんですけど。じゃ、お疲れ様でした。
(店の出口へ向かう○○)
マ:○○!
〇:びっくりした……いきなり大きな声出さないでくださいよ。
マ:ちょっと、時間あるか?
〇:え? えぇ。
-野球狂の詩・テーブル席-
〇:なにかあったんですか?
マ:実は折り入って話があってな。
〇:折り入って話って……え、もしかしてクビですか?
マ:えぇぇ!?
マ妻:んなワケないでしょ。○○のお陰でどれだけ助かってるか。
〇:あ、ありがとうございます。じゃあ話っていうのは……
マ:昨日、打ち上げパーティしてる時に梅ちゃんが来ただろ?
〇:えぇ。
マ:で、〇〇と梅ちゃんが個室で話してる時に学校の課題の話になってな。
〇:はい。
マ:○○の作品を見せてもらったんだ。
〇:あぁ、マスターも見たんですね。
マ:……
マ妻:……
〇:え? あの……
マ:○○。あの【sora】っていう作品のモデル。あの子は知り合いなのか?
〇:え!?
マ:プライベートな事だというのはわかってる。だから、言いたくいなければ言わなくていい。
(いつもと違い、静かにに話しかけるマスター)
〇:いえ、少し驚いただけです。マスターからも同じ質問されると思わなかったので。
マ妻:同じ?
〇:はい。
マ:じゃあ、梅ちゃんからもモデルの子について聞かれたのか?
〇:そう、ですね……はい。聞かれました。『あの子は誰?』って
マ妻:やっぱり
〇:やっぱり?
マ妻:あ……
(咄嗟に口元を隠すマスターの妻)
マ:あーもうやめやめ! 探り合いとか無理だ! 直球勝負で行こう。
〇:え? 直球?
マ:ちょっと待っててくれ
(マスターは立ち上がり、店の神棚から何かを取ってテーブルに戻ってくる)
マ:〇〇、この写真を見てくれ。
〇:はい……うぇ!?
(写真にはソラに瓜二つな女性が写っていた)
マ:率直な感想を聞かせてくれないか。
〇:ん……そっくりですね。ていうか、どうしてこの写真が神棚に?
マ妻:梅ちゃんからは何も聞いてないのかい?
〇:同じグループにいたメンバーで、三年前に亡くなったって。
マ:そうだ。名前は聞いてるか?
〇:いえ、キャプテンの親友ということ以外は何も。
マ:写真の女性は久保史緒里さん。生前は乃木坂46のメンバーだったんだ。
〇:久保史緒里さんと、この店に何か関係があるんですか?
マ妻:宮城県出身なのよ。
〇:地元出身のアイドルって事ですか。
マ:あぁ、宮城が生んだ伝説のアイドルだ。そのうえ根っからの楽天イーグルスファンでな。
〇:楽天……
マ妻:帰省する度にご飯食べに来てくれたり、番組で仙台に来ると紹介してくれたりしてね。おかげでこの店にはスポーツ好き以外にも久保ちゃん、乃木坂ファンも大勢来てくれるようになったんだよ。だから久保ちゃんは私達にとって神様みたいな子なんだよ。
〇:お二人にとって縁の深い方だったんですね。
マ:だけど三年前に病気で亡くなってな。それ以来、店の中に神棚を作って久保ちゃんの写真を飾ってるんだ。
〇:てっきりあの神棚は商売繁盛祈願だと思ってました。
マ妻:普通はそう思うわよね。
〇:じゃあ、マスターが神棚に向かって手を叩いてるのも何か関係が?
マ:まぁな。俺が好きな曲にそういう振り付けがあるんだよ。こうやって手を叩くやつがさ。
(頭上で手を叩いて見せるマスター)
〇:意味があったんですね。
マ:あぁ、今日も夫婦共々健康で仕事できますように。お客さんが楽しめますようにってな。商売繁盛ってのもあるけどさ。
〇:本当に神様みたいな存在なんですね。
マ:まぁな。それで……話を戻してもいいか?
〇:はい。作品のモデルの子は……知り合いです。それと、久保史緒里さんという名前は今日初めて知りました。信じてもらえないかもしれないですけど。
マ:信じるよ。○○が嘘をつくような奴じゃないって事はわかってるさ。
〇:すみません。
マ:それでだ、○○に一つ提案があるんだけどな。
〇:提案?
マ:お墓参りに行かないか?
〇:お墓参り? もしかして、久保史織里さんの……ですか?
マ:そうだ。明日行く予定だったんだ。もし良かったら○○も一緒に来ないか?
〇:えっと……
(言葉に詰まる○○)
マ:無理にとは言わないさ。明日の午前中までに考えておいてくれ。
〇:……わかりました。
マ:俺の話は終わりだ。呼び止めて悪かったな。
〇:いえ、ありがとうございます。
マ妻:なんで○○がお礼なんてするのさ?
〇:僕の話を、信じてくれたから
マ:当然だろ
〇:はは、マスターってホントそういう人ですよね。
マ:どういう意味だよ、わははは!
マ妻:今日もお疲れ様。
〇:はい!
―○○のマンション―
〇:ただいまー
(リビングの明かりは点いているいるが、ソラの声は返ってこない)
〇:結局遅くなっちゃったな……
【ガチャ……🚪】
(リビングに入ると、ソラはメガホンを抱いたままソファーで眠っていた)
ソ:んぅ……ん? あ、おかえりぃ
〇:ただいま、ソラ。遅くなってごめん。
ソ:ううん。私の方こそ忙しいって知ってるのにワガママ言ってごめんね。
〇:僕は嬉しかったけど? ソラのワガママ。
ソ:ふへ、そっか。
〇:ソラ、僕達が出会ったばかりの時に名前の話をしたの覚えてる?
ソ:ん? うん。○○にヘンテコな名前つけられて、物語のタイトルが【ホシを見上げて】になりそうに……
〇:そこはいいから。でさ、今も名前は思い出せない?
ソ:ん~、いきなり言われてもなぁ。
〇:やっぱり、ホとシだけしか覚えてない?
ソ:ん~……
(ソラが腕を組んで考えてる間に冷蔵庫へ麦茶を取りに行く)
〇:どう? やっぱりおな……じ、あら。
ソ:すぅ、すぅ。
(リビングに戻ると、ソラは寝息をたてていた)
〇:……
ソ:(寝言)あさむらぁ。ホームラン……
〇:記憶を取り戻したら何か分かるかもしれない。きっと成仏する手掛かりだって……
ソ:(寝言)こらぁ! ベットの上でお菓子食べちゃいけないって何度言ったら……
〇:あっはは、それはソラだろ? この前だって焼きたてのクロワッサンをソファーでかじって……掃除大変だったんだぞ?
ソ:(寝言)いひひ
〇:僕がソラに出来る事はこれしかないんだ。いいんだ、これで……
―つづく―
【おまけ】