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ソラを見上げて #61 タイトル未定
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―ライブ会場・メインステージ―
(ステージ中央に立っている美月)
美:これから皆さんにお話するのは 久保史緒里の事です。
美:3年前、久保史緒里は白血病によってこの世を去りました。グループは悲しみと喪失感に包まれ、メンバーの心や活動に大きな影響を及ぼしました。私達はアイドルです。だから、心は強いつもりでいました。でも、仲間の死は到底耐えられるものではありませんでした。
美:それでも『前を向いて進もう』『応援してくれるファンの為にも立ち上がろう』そう言ってメンバーを励まし、グループを牽引したのは梅澤美波でした。
(話し続ける美月の背中を真剣な眼差しで見つめる梅澤)
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美:そして32枚目シングルが制作され、センターを担うメンバーが決まりました。きっと、とてつもないプレッシャーだったと思う。それでも立派にセンターを務めた二人の姿に、私達は再び動き出す事が出来ました。咲月、和……本当にありがとう。
(会場から拍手が起こる)
美:実は、32枚目シングル「歩く前に走り出せ!」が製作される以前、別の楽曲が準備されていました。それは……それは、私ともう一人のメンバーがフロントで、真ん中に立って歌う予定でした。でも、それが形になる事はありませんでした。タイトルも決まらないまま、未発表曲となりました。
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美:私には夢がありました。でも、それは一人じゃ叶わない。叶えられない夢でした。
『背中合わせもいいけれど、二人でまっすぐ前を見て歌いたい』
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美:病床の久保が私に伝えてくれた夢。それは、その日から私の夢にもなりました。お互いの夢だったダブルセンター。だから、絶対帰って来いって……言ったんですけど
(言葉に詰まり、俯く美月)
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美:その夢は、もう叶いません。
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―ステージ裏―
和:ぅぐ……うぅ、咲月ぃ。
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咲:あの時の美月さんの言葉は、そういう意味だったんだ。
和:わたし、どうしたらいいの?
咲:なぎ。
(泣いている井上を抱き寄せる菅原)
咲:やるしかない。どんなに辛くても、悲しくても……私達はみんなを笑顔にする存在なんだから、ね?
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和:ぐす……うん。
咲:美月さんが託してくれた想い。私達が繋いでいこ?
和:うん、そうだよね。しっかりしなきゃ。
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🎧:歌唱メンバーはステージに上がってください。
咲:よし。行くよ、和。
和:うん。行こう、咲月!
(互いに手を握り、ステージに向かう菅原と井上)
―ライブ会場―
美:それでも……私は歌いたい。ここで、皆さんの前でこの曲を歌いたい。
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美:梅にこの話をしたら、やろうよって言ってくれました。
(無言のまま笑顔で美月の隣に立つ梅澤)
美:今野さんには、あんまり裏話はするなよって言われたんですけど。ごめんなさい、色々話しちゃった。えへへ。
(ステージに歌唱メンバーが現れ、菅原と井上はそれぞれ美月と梅澤の隣に立っている)
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美:梅とならこの曲を歌える。きっと、久保に届くと信じて歌います。聴いてください……
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私ね、夢があったんだ。(#58)
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やくそく、した……のに。
諦めんなって言ったでしょ!(#21)
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俺は、山下の単独センターでいいと思ってる。(#59)
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二人には、32枚目シングルのセンターを務めてもらいたいの。(#60)
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「人は夢を二度見る」
向かい合い、微笑みながら歌う美月と梅澤。
そして
涙を流し、真っすぐ前を見て踊る菅原と井上。
彼女達は知った……
託されたダブルセンターに込められた想いを。
美月が二人を抱きしめて伝えた言葉の意味を。
お願いね。……私達の分まで。(#60)
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(曲が終了し、抱き合う梅澤と美月)
美:ありがとうございます。梅が卒業する日に、久保が生まれた地で披露出来たこと、本当に嬉しいです。
梅:届いていると思います。もしかしたら、すぐ近くで聴いてくれていたんじゃないかなって……なんか、そんな気がします。ね?
美:うん。
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梅:このフォーメーションで披露するのは最初で最後なんですけど、みんなが歌い継いでくれると思うので、愛して頂けたら嬉しいです。よろしくね……和、咲月。
(泣きながら頷く井上と菅原。そして、会場から拍手が贈られる)
梅:改めまして、本日は本当にありがとうございました!
『ありがとうございました!』
(観客に向かい深々とお辞儀をしてステージを去るメンバー達)
【当時予定されていた32枚目シングル】
その楽曲は、山下美月と久保史緒里がダブルセンターを務め、乃木坂46の32枚目シングルとしてリリースされる予定だった。しかし、2022年11月18日に久保史緒里が急性前骨髄球性白血病(APL)で死亡。
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数日後、美月は今野からシングルセンターの打診を受けるが、楽曲の歌詞が死を連想させる事などを理由に辞退。今野が『山下が望む形で32枚目を出したい』と伝えたところ、楽曲の変更を提案。
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同年12月14日。今野が井上和と菅原咲月を招集。美月は新たに制作された32枚目シングルのセンターを二人に託す。
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翌年3月。乃木坂46 32枚目シングル「歩く前に走り出せ!」がリリース。美月と久保が交わした約束は果たされる事なく、制作された楽曲のタイトルも未定のまま、未発表曲となった。
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久保が夢を伝えてくれた時。なんとなく感じたんだ、久保が考えてること。だから、せめて何か共有したくて、久保が生きようとする理由を一つでも多く作りたかった。
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久保がいなくなってからも、その夢は私の中で消えずに残っていた。咲月と和にセンターを託してからも、その後も……ずっと。楽しそうに笑い合う二人を見ていると胸がジリジリするの。もしかしたら、存在したかもしれない未来がそこにあったんじゃないかって。
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卒業コンサートを宮城でやるって梅から聞いた時、もうここしかないって思った。思い切って相談したら、梅は笑顔で『やろうよ』って言ってくれたの。
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久保と私の夢を梅が拾ってくれたんだよ。今野さんも、途中で止まったままだった制作を再開してくれた。本来の形とは少し違うけど、梅も……私も、隣に久保がいると思って真っすぐ前を見て歌うから。
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3年かかったけど……やっと約束を果たせるね。
これで私も、前を向いて歩いて行ける。
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今ならちゃんと、夢を見られる。
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―つづく―
【おまけ】
―ライブ会場・関係者席―
生駒:……
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万:……生駒。
生駒:……なに。
万:ティッシュあげよっか?
生駒:うっさいな。
真:若は知ってたの?
若:いや、そこまでは……
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玲:あの時は梅ちゃんを支えようって一生懸命だったしね。
真:自分も大変な思いをしたのに、梅を支えてたんだね……美月。
玲:和ちゃんと咲月ちゃん、加入した時から随分変わったね。
真:うん。すごく頼もしくなった。
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若:……ちょっと、お手洗い行ってくるね。
真:うん。
会場が感動に包まれる中、突如として席を立つ若月。関係者席から姿を消すと、痛めた足を引きずりながらどこかへと走って行った。
【次回予告】
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