ソラを見上げて #12 縁は異なもの味なもの
―○○の部屋・夜―
◯:ソラってこの部屋から出られるの?
ソ:うん。一人じゃ無理だけど、〇〇と一緒なら平気。
◯:そうなんだ
ソ:心配しないで? ちゃんと憑いててア・ゲ・ル♪
◯:【つく】の意味が違って聞こえるんだけど……
ソ:細かいこと気にしないの。さ、善は急げよ!
◯:うん。ソラが一緒なら、何とかなる様な気がしてきた
ソラの励ましにより、やる気を取り戻した〇〇。その日のうちに求人チラシに書いてあった電話番号に連絡し、面接の日程を決めたのだった。
そして迎えた面接の日……
-仙台駅・構内-
ソ:ねぇ〇〇
◯:ん?
ソ:何でスーツ着たの?
◯:だって面接だよ? ちゃんとした格好しないと失礼かなって
ソ:スポーツバーだよ? 皆で応援しながらご飯食べる場所だよ?
◯:そんなこと言われたってバイトの面接なんて初めてなんだから分からないよ
ソ:まぁいいけどさ。店長さんもビックリするんじゃないかしら?
◯:あった、野球狂の詩。すぅ〜はぁ……よし。行くよ、ソラ
ソ:いざ、出陣!
-野球狂の詩・店内-
(〇〇が店のドアを開けると括り付けられていた鈴がカランコロンと鳴る)
◯:すみません。先日バイトの面接でご連絡した〇〇ですが……
女性:は〜い。待ってたわよ……って、えぇ? アナタもスーツなの?
◯:え?
ソ:アナタも?
女性:(小声)いくら面接だからって二人揃ってスーツって……
◯:あの……
女性:あ、ごめんなさいね。どうぞ、コッチよ
◯:失礼します
女性:アンタ、面接の子が来たわよ
男性:お、おう! いらっしゃい! じゃあコッチのテーブルに……
(短髪の男性が緊張した面持ちで〇〇に座るよう促す)
◯:失礼します……あ、
ソ:あ、
女性:(小声)ウチの人と同じ感性なのかしら?
男性:ほら! ほらほら! 俺の言った通りじゃん! やっぱ面接はスーツだって! 良かったぁ〜俺だけスーツだったらどうしようかと思ったよ
(〇〇の目の前で安堵の表情を浮かべている男性もスーツ姿だった)
ソ:スポーツバーのど真ん中にスーツ姿の男性が二人……面白いわ
男性:やっぱり面接といえばスーツだよな?
◯:え? えぇ、ちゃんとした方が良いと思ったので……
男性:ほらぁ
(男性は満面のドヤ顔を妻と思しき女性へ向けている)
女性:いいから始めなさいって
男性:そうだな。じゃあ早速だけど、面接始めてもいいかな?
◯:はい。よろしくお願いします
男性:え〜、〇〇さんが我が社を希望した理由は何でしょうか?
女性:おバカ! 資料をそのまま読むなって言ったでしょ? ウチは居酒屋なんだから、バイト希望の理由を聞けばいいの! ごめんね〜ウチの旦那、面接とかした事無くてさ
ソ:まさか向こうも面接初心者だったとはね。丁度良かったじゃない?
◯:(小声)面白がってないでちゃんと助けてよ?
ソ:大丈夫大丈夫。任せなさいって
男性:では! 改めてお伺いします。ウチのバイトに応募した理由はなんですか?
ソ:スポーツが好きで、大人数で一緒に盛り上がれる場所に憧れてました
◯:えっと……スポーツが好きで、一緒に……盛り上がれる場所に憧れてました
男性:お! じゃあここはうってつけの場所だな!
◯:そうですね
男性:じゃあ次ね。好きなスポーツはあるかい?
◯:えっと……
ソ:三度の飯より野球が好きです!
◯:三度の飯より、野球が好きです
男性:ほうほう、好きな球団はある?
ソ:モチロン、東北楽天!
◯:勿論、東北楽天です
女性:あの子、反応がワンテンポ遅いわね。考えてから話してるのかしら?
男性:そりゃ良かった! ウチは楽天の試合になるとお客様が大勢きて賑やかだぞ!
◯:それは……良かったです
男性:で、勿論と言ったけど出身はどこだい? 宮城?
◯:いえ、千葉です
ソ:えっ?
男性:あ、千葉なの? だったらロッテがあるのに……
ソ:しまった! 〇〇の出身地まで把握してなかった! どうしよ……どうしよ……
◯:あ、え~と、それは何ていうか……
(〇〇は視線でソラに助けを求めるが、肝心のソラも焦っていた)
ソ:えーと、えーと……ロッテも好きだけど……って今から言っても不自然か。あぁ! どうしよう!
男性:セツコ、もう資料いらねーや
女性:もういいの?
男性:あぁ、最後に一つ聞いて終わりにする
(やっぱり落とされる。〇〇がそう思った時、男性がニカっと笑う)
男性:もうお互いマニュアル通りにやるの無しにしようぜ?
◯:え?
男性:〇〇君がここに来たのは、他に理由があるんじゃないか?
◯:……はい。すみません
ソ:まさか……見抜かれてた?
男性:よかったら聞かせてもらえないかな?
(男性の言葉を受け〇〇がソラに視線を向けると、ソラは小さく頷く)
◯:実は……
〇〇は学生の頃から抱いていたファッションデザイナーの夢を叶えるべく、高校卒業後に千葉から仙台に引越して来た事を伝えた。
女性:そうだったの。じゃあ一人暮らしは大変でしょう?
◯:まぁ楽ではないです
男性:学費や生活費のためだったら最初っから言ってくれりゃあいいのに
◯:理由は、お金のためじゃないんです。
男性:え? お金じゃないの?
◯:人見知りを直そうと思って……
男性:人見知りぃ?
◯:専門学校に来ていたプロのデザイナーにクライアントの要望や思っている事を引き出せないと良いデザイナーにはなれないって言われたんです
女性:私達で言うと……お客様、かしらね?
男性:だから人見知りを直そうと思ってウチに来たって事か……
◯:はい
女性:だけどまぁ、随分と乱暴な方法を思いついたわね
ソ:悪かったわね、乱暴で
◯:友達に言われたんです。『人見知りを言い訳にして夢を諦めるのか? 立ち向かうから夢なんでしょ?』って。バイトの面接も友達の提案で……
男性:良い友達だな
◯:はい。僕一人じゃきっと落ち込んだままでした。
ソ:〇〇……
男性:で、いつから来れる?
◯:え? それって……
男性:採用だ。当然だろ
女性:ウチはまかない沢山出るから、食費も浮くわよ〜♪
ソ:やった、やったぁ!
◯:ありがとうございます! よろしくお願いします!
男性:それから、今日から俺の事はマスターって呼んでくれ
◯:居酒屋なのに、喫茶店みたいですね
マ妻:ウチの旦那。昔からアダ名がマスターだったらしいのよ
◯:じゃあ改めて。これからお世話になります、マスター
マ:おう! よろしくな、〇〇!
-仙台駅前・面接の帰り道-
◯:疲れたね、ソラ
ソ:ほんと。一時はどうなる事かと思ったわ
◯:千葉に野球チームがあるなんて知らなかったよ
ソ:まさか野球の部分を掘り下げられるとはねぇ
◯:ごめん。勉強不足だったね
ソ:ううん。私が調子に乗って楽天楽天って……ごめんなさい
◯:ねぇソラ。野球ってそんなに面白いの?
ソ:え?
〇:生前の記憶はほとんど無いのに、野球好きは残ったんでしょ? よっぽど好きだったんだろうなって思って
ソ:そういえばそうね。地縛霊になった理由を差し置いて野球好きが残るって、よく考えたら滅茶苦茶な設定よねぇ
〇:僕も野球を好きになったら、ソラは嬉しかったり……する?
ソ:え? いきなりどうしたの?
〇:あ、いや! きょ、共通の趣味とかあったら会話も弾むし、人見知りの克服にも繋がるかなって……
ソ:嬉しい……もし、○○が野球好きになってくれたらとっても嬉しいな
〇:お、おぉ……そっか///
ソ:じゃあ……私もファッションの勉強しようかな///
◯:難しいよ?
ソ:言っときますけど、野球の世界だって広いんだからね? 何球団あると思ってるの?
◯:え? ソラの好きな楽天だけ勉強すればいいんじゃ……
ソ:甘い! プロは全部で12球団! 更には毎年恒例の高校野球、甲子園! 更には……
◯:ソラ、落ち着いて
ソ:あぁ……ごめん。好きな事になるとつい……こういう所を直さなきゃね
◯:ううん。そういう所も含めてソラの魅力でしょ?
ソ:またそういう事をサラッと言うんだから……///
◯:ん?
ソ:なんでもない! 面接の最後……格好良かったよ
◯:あ、ありがと///
ソ:うん……///
-野球狂の詩・面接終了後-
マ妻:最初はどうなるかと思ったけど、なかなか様になってたわよ?
マ:お、そうか? 照れるじゃねぇかよ。
マ妻:まさか千葉の子が来るなんてね。
マ:これもまた縁ってやつだな。
マ妻:そうね。あら? 神棚が……
マ:ん? あらら、何かの拍子で扉が開いたのかな?
マ妻:もしかしたら、神様が近くまで来てたのかもね?
マ:へへ……そうかもな。じゃ、拝んどくかな
(神棚の前で大きく手を叩き、深くお辞儀をするマスター)
ーつづくー
【おまけ】