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「ある年のクリスマスイヴの出来事」
街を歩いていたら、ある一人の男性の姿が目に付いた。
長椅子に腰掛け、ナイフを片手に竹を削っている。年の頃60代半ば。一心に手元を見つめ、集中して作業をしていた。足元には、たぶん製作中の作品であろうミニチュアの家らしきものが置いてある。
興味を引かれ、何を作っているのか訊いてみた。
返ってきた答えは、
「猫の家」。
そういえば、僕が近寄るまで、長椅子に掛ける老人の右側に、三毛猫が1匹、身を丸くしてくつろいでいた。
「あ、さっきここにいた猫ですね」
「そうです」
「あの、趣味で写真撮るんですけど、何かとっても良い感じなので撮っても良いでしょうか?」
「どうぞどうぞ」
「本当は、横に猫がいるともっと良いんですけどねぇ」
「あそこにいるから、つれてきましょうか?」
そういうと彼は立ち上がり、猫に近づいて行ったが、逃げられてしまった。
というわけで、写真に猫は写っていない。
「野良猫なんですけどね」
「でも、この家ができると、もう殆ど飼い猫ですね」
「ほとんどね」
うつむいているうちは分からなかったが、やさしい目をした端正な顔立ちだった。
クリスマスイヴの今日、野良猫へのプレゼントを作る彼の姿が、サンタクロースのように見えた。
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(2007年12月24日)